知りたい事はそれじゃない
ユスターシュが夫人たちから告げられた方角に進んでいくと、やがて廊下の片側の景色が庭園へと変わった。
このまま別棟に進むべきか、まず庭を探すべきか。
能力を使えば、心の声が聞こえてくる位置を探る事もできる。
けれど、ヘレナが乙女心とやらの理由で恥ずかしくて、それで心を読まれたくないと思っていて、それが理由で逃げ出したのならば。
「・・・今、力を使うのは反則、かな」
結果、ユスターシュは軽く庭園内を探した後で別棟に向かう事に決めた。
能力の及ぶ範囲を最小限に落とし、庭に足を踏み入れる。今なら、半径1メートル以内にまで近寄らなければ何も聞こえてこない筈。
そうして周囲を見回しながら歩くこと少し。
ユスターシュは、とある木の下に女性用の靴が脱ぎ捨ててあるのを見つけた。
まさか、と思いつつ。
その木に近寄り、上を見て。
「ーーー見つけた、ヘレナ」
ユスターシュの身長よりも高く、そう多分2メートルは上だろうか。
木の枝の上に、ユスターシュは最愛の人を見つけた。
だが、無事に見つけられて安堵したのも束の間。
ヘレナもまたユスターシュの呟きに気づき、ハッと下を見て、慌てーーー
「へ? ユスさま? うわっ!」
足を滑らせ、その体は空中へ、そして地上へと落ちていく。
「え? ヘレナ? うわっ?!」
こんな事が起きた時、ユスターシュに何が出来ようか。いや、大した事など出来はしない。
せいぜいが、両手を広げるくらいで。
ーーーどすん
胸元への衝撃、顔をくすぐる柔らかい髪の感触、そしてーーー
・・・うん?
突然に、そして勢いよく、頭の中に流れ込んできた映像、それは。
ウッホ~ッ!!
大漁っ! 大漁~っ!! ウホホッホ~ッ!!
まさかのお魚食べ放題よ~っ!
流氷の上、顔だけヘレナのマウンテンゴリラが、モリに魚を5匹ほど突き刺し小躍りしている。
足元には、既に獲ったらしき魚がこんもりと積まれていて。
・・・え? どういうこと?
ヘレナが、見られたくないと恥ずかしがっていたのは、まさかのこれ? マウンテンゴリラ?
いや、まあ確かに、これは見られたくないかもだけど・・・
「ハッ・・・ヘレナッ」
ぐるぐる考えていたユスターシュは、思いがけず抱きしめられて固まってしまったヘレナに、ここでようやく気づく。
そして、ヘレナから手を離し、勢いよく距離を取った。
心を読まれたくないというヘレナの気持ちを尊重する為だ。いや、今さらだけど。
動揺してブレかけた能力の効果範囲を最小限に、つまり半径1メートルに戻して。
何も見えない、何も聞こえない状態になった事を確認した後、ユスターシュはヘレナと向き合った。
先ほど流れてきた映像については、正直言えば、すごく、すごく、何がどうしてそうなったのか真相が知りたいけれど。
・・・今は、恥じらう乙女心について解明するのが先だ。
そうユスターシュは心の中で呟く。
ーーーそう、その通り。
そちらの解明の方が先である。
ヘレナ・マウンテン・ゴリラについての真相なんかよりも、絶対に。




