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くるくる回せる?

なんということだ。


亡国の王子と、その愉快な同志たちの間で仲違いが起きている。



ハインリヒのみならず、アルフェンやマノアたちまでもが、なにやら焦るユスターシュに冷めた視線を向けている事に気づき、ヘレナは慌てた。



仲違いの原因はなんだろう。

きっと意外に深刻な・・・


そう、例えばユスターシュが、故国を滅ぼした敵国の姫と恋に落ちてしまったとか。


ユスターシュの番であるヘレナは、なんと敵国の姫だったのだ。政治権力や国の思惑を超えて二人は純粋に愛し合うが、世界は無情にもその愛を否定する・・・なんていう展開だったりして。



「ヘレナ?」


「あ、はい」



名前を呼ばれて顔を上げれば、ユスターシュは微妙な表情を浮かべてヘレナを見ている。

口元がぴくぴくしてるのはどうしてだろう。



「ええと、私とハインリヒたちは別に揉めてる訳じゃないからね。その、そうだな。これは単なる行き違いと言うか」



ぱたぱたと忙しなく手を動かしながら、ユスターシュは説明する。

別にわざとジュストの話をしなかった訳じゃない、とか、タイミングを見計らってたら言いそびれた、とかをもにょもにょと。



別にそんなに慌てなくても良いのにと思うけれど、ユスターシュほどの美形が手を振り振りして慌てる様は、それすらも絵になってしまう。

まるで舞を舞っているようで、あまりに綺麗だから、ついそのまま見惚れてしまった。



「うう・・・コホン。その、たぶん、この話は、証拠の品を見せながら話した方がいいと思うんだ。だから、ジュストの件は後で屋敷に帰った時に話すよ」


「・・・?」



そのままのほほんと話を聞いていたヘレナだったが、何やら「証拠」などという物騒な言葉が聞こえた気がして首を傾げる。



もしや、ジュストは何か悪事に加担していたのだろうか。名前を口にしたら場の空気が変わったのは、そのせいか。



「・・・え、ヘレナ?」



ジュストは、とてもではないが悪い人には見えなかった。


ぶ厚い眼鏡と重たい前髪で顔の上半分は見えないが、口元はいつも優しく弧を描いていて、口調は優しく穏やかで。

本の好みも似ていて、お互いにお勧めの本を教えあったりもした。


時々、本の整理とかしている最中に、突然肩を震わせたり蹲ったりする妙なところはあったけれど、基本いつも親切で物知りで。


すごく、すごく良い人なのだ。

いつも一緒にいて楽しかった。

彼と話すのが大好きだった。


悪いことなんか、絶対にするような人じゃない。



「・・・おや、ユスターシュさま? 顔が赤くなっておいでですよ?」


「・・・わざとらしく聞くな、ハインリヒ。どうせ見当はついているんだろう? あ~もう、とにかく私たちは行くから」



真っ赤になった顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込んでしまっていたユスターシュは、ハインリヒに揶揄われてよろよろと立ち上がる。



そんなユスターシュに、ハインリヒは釘を刺す。



「ジュストの件は、ちゃんとお話しになって下さいね?」


「分かってる・・・ああ、ハインリヒ」


「何でしょう」


「お前、ナイフをお手玉みたいにくるくる回せたりするか?」


「・・・は? いやそんなの、無理に決まってるじゃないですか。出来る訳がないでしょう」



いつも落ちついているハインリヒが、ユスターシュのとんでもない質問に目を丸くして、慌てた様に言葉を返す。



その様子がおかしくて、ユスターシュは「だよねえ」と笑った。





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