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ワーカホリック疑惑、再び


「裁定者の判断が必要な案件があれば直ぐに知らせるから、せめて結婚式直前くらい仕事を減らしたらどうだ?」



鬼の様に動き回っているユスターシュに、そう言ったのは、国王アドルフォス。

3歳上だが家系図的にはユスターシュの甥に当たる人物だ。



ーーーこれでは、婚約者にワーカホリックと呆れられても文句は言えないぞ?

というか、俺の方に苦情が来たらどうするんだ



アドルフォスの心の声に、ユスターシュはふと、過去のヘレナの妄想を一つ思い出す。



そう、アレだ。

執務室で机の上に片足を乗せ、決裁済みの書類をばら撒きながら『は~っはっはっ! 私にもっと仕事をよこせぇぇっ!』と叫ぶアレ。



まあ確かに、あの妄想は現状と大して変わらないかもしれない。


実際、ヘレナを国外に売り飛ばそうとした裏組織を潰す為、ユスターシュは昨夜から大忙しだった、実はほぼ完徹である。


ナリス、ジェンキンス夫妻の処罰に関するあれこれもユスターシュが手配しているし、ロクタンの件も現在レオーネの結婚の申し出を預かっているのはユスターシュ。

挙句、プルフトス王国王太子との話し合いにも関わっている。


一応アドルフォスの名誉の為に付け加えておくならば、これらは全てユスターシュの希望によるもの、自ら買って出たものだ。決して丸投げされた訳ではない。



書類こそ投げ散らかしていないものの、まさしく『もっと仕事をよこせぇっ!』状態なのである。



・・・いや、今の私を見たら、きっとヘレナはもっと面白い事を想像してくれるのだろうな。



ヘレナを思い出したせいなのか、ユスターシュの口元がふ、と綻ぶ。


ヘレナの前では当たり前の、けれどそれ以外ではなかなか見られないその表情に、国王アドルフォスが呆れ気味に笑った。



ーーーへーちゃんが『番』というのも、あながちでっち上げではなかったのかもな。



実は最近、ユスターシュの周りでちらほらと聞こえてくるその言葉。

それを聞く度、ユスターシュの心はほんのりと温かくなる。



王族で裁定者であるユスターシュと、貧乏子爵令嬢のヘレナ。


身分だけでいえば絶対に釣り合わない2人、当たり前の反応として起きるであろう疑問反論全てをねじ伏せる為、ユスターシュは『番』などという一世一代のでっち上げを捻り出した。


国王、宰相、大臣たちは、心の中で『あ~』と呟きながら、それでも表面上は騙された振りをしてくれて。



それが、過去に裁定者として能力を発現した時に、彼らがユスターシュと距離を置いた事への罪悪感からだったとしても。


彼らは進んで協力してくれた。


そして、ユスターシュの為にヘレナを大切にしてくれたのだ。


もう昔のことは気にしなくていいのに、そう思いつつ、ユスターシュもまだ彼らの前では表情が上手く出せずにいるけれど。









「・・・しかし、裏社会の者たちには厳しい処罰をしておいて、あの老夫妻には随分と甘い裁定を下したのだな。挙句、プルフトスの王太子にまで話をしにいくとは」



思考が漂い出したユスターシュには気づかず、アドルフォスは次の話題へと移った。



「動機を知ってしまえば、処罰して終わりというのも何か妙な気がしましてね。

第二王子の存在をこの世から消したのは兄上自身の願いだったとはいえ、婚約者だった令嬢の乳母があんなやり方で私たちの前に現れるとは盲点でした」


「プルフトス側にも知らせる事にしたのは、もう二度と似た様な事態が起こらない様にする為か」


「ええ。ヘレナが狙われるのは、もう懲り懲りですから」



ーーーはは、ベタ惚れだな



たぶん、聞かせる前提で呟かれたアドルフォスの心の声。


ユスターシュが知らんぷりを決め込んだのは、照れかそれとも恥ずかしさか。







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