即行で速攻
爆音にユスターシュは青褪めた。
彼がヘレナにお守りとして渡した魔道具は三つ。
音を記録、もしくは創作して再生するイヤリング。身を守るバリアを発生させる指輪。そして目眩しとして幻覚を作り出すペンダントだ。
その中のどれ一つとして、あんな爆音が生ずる魔法はない。
ならば、ヘレナを追っていた者たちが攻撃を仕掛けたのか、とユスターシュは訝しむ。
煙は上がっていない。音がした方向は分かるが、正確な位置を掴むにはユスターシュたちがいた場所はまだ遠かった。
ヘレナの心の声を辿って方角を探る方法は、遠距離の場合は時間がかかり過ぎるし、そもそもヘレナに意識がある事が前提だ。
まず、何よりも彼女の無事を確かめたい。
ユスターシュは、自身にも着けていた魔道具のイヤリングを外し、獅子となって自分を乗せてくれていたレオニールの耳に何事かを囁く。
するとレオニール獅子は首を捻り、空に向かって唸り声を上げた。直後、彼らの上に大きな鳥が舞い降りる。
「・・・これをっ、先ほど爆音がした付近で落としてくれ!」
大鳥がイヤリングを咥え、再び空高く舞い上がる。
その間もユスターシュたちはひたすら走った。いや、実際に走っているのは獅子になったレオニールたちだが。
ユスターシュの後ろでは、レオーネ獅子に乗ったロクタンが今も何やら喚いているが、全員で絶賛ガン無視中である。
やがて、遠くの方でユスターシュの魔道具が作動するのが聞こえてきた。
あの辺りか、と走りつつ、それに対する反応が返ってくる事を願い、ユスターシュは固く目を瞑る。
どうか、どうか答えて。
お願い、どうか無事で生きていて、ヘレナ―――
ユスターシュのそんな切実な、必死の願いは、あっさりといい意味で裏切られる。
「こっこで~す! ここ、ここ~! こっこ~~~っ!」
ニワトリ・・・ではないな。
無事だ、生きてる。というか全然いつものヘレナだ。
明るくて元気で、とぼけたヘレナ。
ユスターシュの番も同然の、大切で大事なヘレナだ。
その声でヘレナのいる位置を正確に把握したらしい大鳥が、一度旋回して方角を調整し、ユスターシュたちを誘導する。
近い。
そう感じたユスターシュは、ヘレナの心の声に耳を澄ませーーー
え、と驚く。
あ、あれ? これの使い方を教えてくれた時、ユスさまはなんて言ってたっけ?
・・・え?
ユスターシュは聞こえた言葉の内容に驚き、慌てる。
ちょ、ヘレナ? まさか?
彼の頭の中に、ヘレナの慌てる声が更に流れ込んできて、けれどその内容は。
やだ、どうしよう。うわ、あの男の人、怖い顔してこっちに向かってくる。
待って、待って。ちょっと待って。そんなもの、人に向けちゃダメでしょ。
ジェンキンスさん、前にでちゃダメ。あなたが撃たれちゃう。
ナリスさん、私をそんな風に守らなくていいから。このままじゃあなたたちが・・・
「・・・っ! レオニールッ!」
ギリ、とユスターシュは歯噛みし、叫ぶ。
「頼むっ! 即行で姫とロクタンの縁談を整えるから、だからもっと速度を上げてっ! ヘレナが危ないっ!」
刹那、咆哮と共にレオニールが地面を蹴る。
ダンッ
ユスターシュを乗せたレオニールは、高く跳躍し、更に勢いを増した。




