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誰よりも大切だから



2頭の獅子に乗ったユスターシュとロクタンは、馬に乗った騎士たちを遥か後方に離し、先頭を森の中を走っていく。



「は、速い。速いよ! 」


「黙って付き合って、ロクタン! 時間がないんだ!」


「な、なんで、僕までこんな・・・っ」


「説明は後でっ!」


「ひええ、お、落ちるぅぅぅっ!」



ロクタンはガックンガックン揺れながらも、振り落とされないように必死になって(たてがみ)を掴む。走るスピードが凄すぎて、下半身は風に乗って飛ばされている状態だ。



「くそぅっ、生まれて初めて女の子に告白されたのにぃぃっ!」



ロクタンは涙目で叫ぶ。



「その子が実はライオンだったなんて、聞いてない! 聞いてないよ~っ!」








・・・さて。


話はこの会話より半刻ほど前にさかのぼる。


執務室に押しかけて来たロクタンの記憶を見て、ヘレナが連れて行かれた方向をユスターシュは知った。

その後すぐに激しいノック音がしたところまではご存じだろう。次なる来訪者は、獣人国の姫レオーネだった。



「やっと見つけたわ!」



扉を開けるなり、レオーネはそう叫んでユスターシュの横を通り抜け、初対面の筈のロクタンに飛びついた。

彼らを泊めている貴賓室からはかなり距離があるというのに、レオーネはロクタンの気配を探知してやって来た様だ。



獣耳の美少女に抱きつかれ、驚いて口をパクパクさせるロクタン。けれど嬉しがっている事は間違いない、ほっぺが赤く色づいているから。



「もう! いつもあちこちふらふらしているから、なかなか見つからなくてどうしようかと思ってたけど、やっと私の番に会えたわ! ああ、見つかってよかった!」



ロクタンはユスターシュの執務室に怒って乗り込んできた理由も忘れ、美少女に抱きつかれるという喜ばしい現状にでへへとデレる。


これに焦ったのはユスターシュだ。


彼としては一刻も早くヘレナの捜索に向かいたい。ここで、レオーネ王女の番話に付き合っている暇はないのだ。だが、ここに2人を放置して行く訳にもいかない。ロクタンはどうでもいいが、レオーネは国賓だ。



「レオーネ、ここにいたのか」



誰か呼ぼう、そうユスターシュが思った時、丁度よくレオニールが現れた。見れば、事情説明を終えたのだろう、ハインリヒも戻って来ている。


ならば後をハインリヒに任せ、ヘレナの捜索に向かおうとユスターシュは思ったのだが。



「なに? ヘレナを探しに行くだと?」



僕も行くぞ。ブースト(注:ジュストのことです)なんかに負けるものか。



聞こえてきたロクタンの心の声に、ユスターシュは静かに溜息を吐いた。



レオーネに鼻の下を伸ばしていたくせに。

 大概の言葉は適当に聞き流す男なのに。


よりによってこの緊急時に、ロクタンは「ヘレナ」ワードに引っかかって付いて行くと言い出した。

すると、今度はレオーネがついて行くと言い出し、ならばと当然の流れでレオニールまで一緒に行くと言い始める。



「人探しなら俺たちも助けになるぞ。俺は馬よりも速く走れるし、こいつが居れば空からも捜索ができる」



そう言ってレオニールが指で示したのは、彼の従者兼護衛の鳥獣人だった。




ロクタンの記憶にあった場所から、更にヘレナを乗せた馬車が向かった方向へと捜索隊が進む。


その先には幾つかの岐路があるが、そのうちの一つが王都外れの森だ。

ヘレナを乗せた馬車が向かっていたのはその森であるが、もちろんユスターシュたちはそれを知らない。



手当たり次第にそこらの人たちの頭の中を覗いて馬車の目撃情報を探すか、とユスターシュが覚悟した時、レオニールの従者である鳥獣人が獣化して空高く飛んでいく。



鳥たちに聞き込みをしに行ったのだとレオニールは言った。



「暫くしたら戻って来る。そうしたら、あいつが飛んで行く後を追いかければいい」



そして5分も経たないうちに、レオニールの言う通り、その従者(鳥)が戻って来た。



彼はユスターシュたちの上でくるりと一度旋回すると、ある方向に向かって飛んで行く。



けれど、その速さに騎士たちとの距離が開き始めた為、今度はレオニールが獣化すると言い出した。



「俺の背に乗って追いかけよう。その方がずっと速い」



お前の番なのだろう? 一刻も早く助けてあげたいのだろう?



レオニールの心の声が聞こえる。

獣人にとって運命の存在である番、その大切さは獣人である彼らこそが分かっていた。だからここまで親身になって助けてくれているのだ。



・・・いや、全部でっち上げなんだけどね。



そう思いつつ、けれどユスターシュにとって、ヘレナがこの世の誰よりも大切な存在であることは紛れもない真実で。



ありがとう、では有り難く乗せてもらうよ、そう言いかけた時。



彼らが向かっていた先。


森の奥で、ドッカンという爆音がした。





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