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わぁお♡



ドッカンという爆音。

続いて、もうもうと上がる土煙。


多少見えづらいが、たちこめる土煙の向こうには、パカーンと口を開けた間抜け面の悪漢たちが地面に転がっている。



わぁお♡



ヘレナは心の中で喝采の声を上げた。


そう、今の心境を一言で表すなら「わぁお♡」これに尽きる。



ヘレナは、感謝を込めて右手を見遣った。正確に言えば、右手の薬指に嵌めた指輪を。



覚えていた人は記憶力が素晴らしい。

そうアレである。ユスターシュがお守りにと贈ってくれた、魔道具の指輪だ。



ヘレナがこのお守りの存在を思い出したのは、森の悪路で馬車の車輪が外れかけ、馬で追いかけて来た悪漢たちにあわや追いつかれそうになった時だった。



―――ヘレナ、この指輪はね―――



ヘレナも突然の誘拐劇に動転していたのか、それともいつものうっかりさんか、今の今まで完璧に忘れていたユスターシュの言葉を、今になってやっと思い出す。



ほとんど反射的に、ヘレナは右手をグーにして前に突き出した。まるで、空中にパンチを繰り出すように。



―――思った方向に障壁が作れるんだ―――



刹那、指輪が光る。


ヘレナは、眩しさに思わず目を瞑った。



「・・・っ」



そして、聞こえてきたドッカン。


目を開ければ、立ち上がる土煙と、ピヨピヨと音がしそうなくらいに目を回し、倒れている悪漢たち。



―――からの、わぁお♡である。



結果だけで判断するなら、障壁というには攻撃力が半端なさすぎる感じではあるが。



取り敢えず、これでひとまず安心、と安堵の息を吐いた所で、背後から声がした。




「ヘ、ヘヘヘ、ヘレナさま、な、なな、なん、なんですか、今、今のは」



ナリスは腰を抜かしていた。その後ろでは、彼女の夫ジェンキンスが真っ青な顔で、だらだらと汗を流している。



なんですかって、この指輪の力ですよ。ユスさまが私に渡してくれたのです。



ヘレナは自慢げに右手をグーで前に差し出す。

もちろん無言である。


飴玉のせいで喋れないからだ。



するとナリスはその突き出されたグーに何を思ったのか、「ひぃっ!」と声を上げた。ジェンキンスが慌てて妻の前に出る。



んん?とヘレナは首を傾げる。


これまでナリスとはかなりスムーズに意思の疎通が図れていたのに、いきなり話が通じなくなってしまった気がした。



これです、この指輪のお陰ですよ。

危うく追いつかれそうな場面で、あの悪漢どもを吹っ飛ばしてくれた有り難~いお助けアイテムはこれなんですよ~。



今度こそ伝われ、と、そう念じながら、ヘレナはさらにグーを前面に突き出した。


右腕はもう完全に前に伸び切っている。



「お、お許しください。ど、どど、どうか、ころ、殺さないでください。私どもが悪うございました」



すみません、ごめんなさい、と、ぶるぶる震えるナリスを背に庇い、ジェンキンスは頭を地面にこすりつける。そう、いわゆる土下座だ。



はて? とヘレナは首を傾げた。



その時、バサ、という羽音と共に、一羽の大きな鳥が森の上を横切っていった。通常では見る事がない、かなりの大きさの鳥だ。



自然と目線が上がり、遠ざかりつつあるその姿を追う。

すると動線上の、けれど何もない筈の空中で、きらりと何かが光を反射した。



その直後。



「イヤリングを使って最大出力! 場所を知らせて!」



晴れ渡る空の下。


何もない所で響いたのは、ユスターシュの声。



ヘレナは咄嗟に耳に手を当てる。


そう、ユスターシュから渡された別のお守りがここにもあった。



確かこれは―――



・・・と、思い出して。



あれ? でも。



「・・・今、声が出せないんだけど」



思わずぽつりと呟き、そして気づく。



どうやら飴玉の効果は切れていたらしい。





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