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時に予想はフラグとなって返ってくる


その後、ヘレナとナリスを乗せた馬車は王都の外れへと向かった。それもかなりのスピードで。


ナリスが雇った男たちは、全員が馬車の外。

一人は御者台、残りは馬に乗って前後左右を挟むようにして走っている。何となく人数が増えている様に思うのは気のせいだろうか。


車内は、ナリスとヘレナの二人きり。

怪しげな飴玉を口にしたせいで声が出ないヘレナに、先ほどからナリスはしきりと話しかけてくる。


どうやらヘレナを少しでも安心させたい様だ。誘拐を依頼した張本人だと言うのに、この矛盾に本人は気づいてないらしい。或いは、気づいて敢えてなのかもしれないが。





―――森の中に一軒家を準備しています。そこに私と、そして夫のジェンキンスと一緒に三人で暮らす予定です。使用人はいませんが、不自由はさせませんから



―――ジェンキンスは料理がとても上手なのです。あなたさまもきっと彼の料理が気に入る筈



―――娘、いえ孫のように大切にしますから、どうか私たちがした事をお許しください



―――こんな事をして申し訳ありません。でも、裁定者さまが結婚するなど、どうしても許せなかったのです。あの方にそんな資格はありませんのに




そう、こんな感じで延々と。


飴玉の効果は、一刻ほど続く。

だから、傍から見たら、無言のヘレナの前で、ただひたすらナリスが独り言を呟く絵図となる。実際は誰も見ていないが、考えてみるとちょっと怖い光景かもしれない。




・・・けれど。


そんな時間さえ今と比べれば穏やかだったな~、なんて思ってしまうくらいには緊迫した状況に、ヘレナたちは現在置かれている。







ーーー話は、半刻ほど前に遡る。



王都の外れまで走り、森に少し入った所で、ヘレナたちを乗せた馬車が止まった。


そこで、一人の年配の男性が別の馬車を停めて待っていた。手に持っているのは、金貨銀貨が詰まった袋。



ナリスの夫、ジェンキンスだ。



ナリスによると、ヘレナたちはここで馬車を乗り換えるらしい。ここで裏の人たちに報酬分の残金全額を渡し、彼らとは契約終了となるのだと。




さて、突然だが覚えているだろうか。


ヘレナは無類の本好きである。好きなジャンルはあれど、基本は何でも読む雑読派だ。

なんと、ミステリーものだけでも軽く百冊以上は読み込んでいる。



と、いう訳で。



ヘレナは、宿や馬車内でナリスの話を聞いていた時、実はある事をちょっと予想していた。そう、物語的にあるあるな展開として。


別にそうなって欲しい、などとは思っていなかった。ただ単純に、深い考えなどもなく、なんとなく、そう、なんとなく「お話だと、大抵その後にこんな展開が続くのよね」と思っただけ。


こんな展開、それはこんなである。


犯罪とは縁遠い生活をしていた人が、思い詰めて選択を誤って、悪の道に踏み込んでしまう。そして、悪い事をする方法を知らない故に、その道の人に片棒を担いでくれるように依頼してしまった場合。


依頼した側は、目的を達成したら、報酬を払ってその道の人たちと縁が切れると思っているけれど。



だが、そうは問屋が卸し大根。




「ほら、さっさと金だけおいて行っちまいな」とか。


「あんたもここでこいつと一緒に死ぬんだよ」とか。


「こいつは俺たちが貰っていく。あんたは良心の責に耐え切れず、自殺したっていう筋書きだ」とか。



そう、悪の道に不慣れな依頼人は、使い捨ての駒よろしく、裏社会の人たちの都合のいいスケープゴートにされてしまうのだ。



ドンドンパチパチ。ドンパチパチ。



そんな人たちに巻き込まれたヒロインは、銃弾が飛び交う中を逃げ惑う。

けれど、彼女の目は決して絶望の色には染まらないのだ。


何故なら、ヒロインは知っている。

いつだって、困っている時には、必ずヒーローが助けに来てくれる事を。



だから大丈夫。だから怖くない。



ヘレナは心の中で言い聞かせる。



たとえヘレナたちを乗せた馬車が、お金を受け取った途端に態度を豹変させた裏社会の人たちに追われる事になり、後ろからドンドンパチパチと銃弾が飛んできても。



大丈夫。


きっと、絶対。


たぶん、必ず。



必死で馬に鞭を打つジェンキンスの背中に目をやり、ヘレナを庇う様に抱きかかえ、震えながら、それでも「あなたさまだけは命に代えても絶対にお助けしますから」と言うナリスにしがみつきつつ。



ヘレナは、白馬に乗って助けに駆けつけるユスターシュの姿を思った。



白馬の王子さまなんて、ちょっとベタ過ぎないかしら、などと場違いにも思いながら。







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