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ドナ・・・ドナ?



「裁定者どの。邪魔しているぞ」



獣人国ライオネスからの賓客がまた(・・)居なくなっているという報告を受け、ユスターシュは目を瞑り、暫く考え込んだ後、ヘレナの滞在する部屋に向かった。


少々疲れるが仕方ない。心を読み取るセンサーの範囲を広げ、王城内の声を全て拾ったのだ。



勢いよく開けた扉の向こう。

室内には、ソファに腰掛ける男女二人と、床に手をつき、がっくりと項垂れているヘレナがいた。



「ヘレナ、大丈夫?」



ユスターシュはヘレナの頭の中を覗き、大ごとではない事を取り敢えず確認して、ホッと息を吐く。



「裁定者どの。せっかく番どのと話をしたいと思って来たのに、先ほどからこの状態なんだ」


「そうなの。最初は大喜びで窓を開けて中に入れてくれたのに、私たちのこの姿を見たら、急にガックリと膝をついてしまったのよ」



獣人国ライオネスの王太子レオニールとその妹姫レオーネは、困っているのか、髪の隙間からのぞく丸い獣耳がぺたんと下がってしまっている。


その時、ハッと気がついた様にレオニールが口を開いた。



「あ、決して俺たちが危害を加えたとかではないぞ?」


「分かってますよ」


「もしかして、番さまは獣人がお嫌いなのかしら?」


レオーネの言葉にも、ユスターシュはふるふると首を横に振る。



「ヘレナのこれは、禁断症状のせいですよ」


「「禁断症状?」」



ちょっとばかり物騒な言葉に、獣人二人は目を見開く。



「覚えているでしょう? うちの飼い猫、茶トラの虎じろう。前に屋敷にいらした時に会ってますよね」


「ああ、あのなかなかお茶目な猫の」


「ええ。あの子と離れてもう一週間ほど経ちますから。ヘレナはきっと、もふもふが恋しかったんですよ」


「・・・もふもふ?」


「そうです。どうせ、いつもの様に獣化して、サイズを小さくして部屋を抜け出してここに来たんでしょう? ヘレナはきっと、思い切りあなた方をモフるつもりで中に入れた筈です」



レオニールとレオーネは、暫し互いの顔を見つめあった。



「・・・つまり禁断症状とは、もふもふ不足・・・?」


「番さまのあの落胆ぶりは、私たちが中に入ってすぐに獣化を解いたせいってことなのね?」


「間違いないですね」



答えながら、ユスターシュは未だショックが抜けきらないヘレナを見遣る。



彼女は今、イカダに乗って海上を漂流している。(注: もちろん妄想)


前も後ろも、右も左も、見渡す限り広がる水平線。


波は少々荒く、時折りイカダに打ちつけて上がる飛沫がヘレナの顔にまで飛んでくる。


だが、ヘレナはそれを拭いもしない。

ただ茫然とした表情で、波間を眺めているだけ。


さらには、一体どこからかBGMまで流れてきた。



あ~る~晴れた~♪ ひ~る~さがり~♪



こ、これは・・・



ユスターシュは目を見張る。



イ~カ~ダ~が~♪ ゴ~ト~ゴ~ト~♪

ヘ~レ~ナ~を乗せ~て行く~♪



なんとももの悲しいメロディに、ユスターシュの眉が下がる。



ドナ○ナド~ナ♪ ド~ナ~♪ ヘレナを乗~せ~て~♪



・・・そうとう黄昏れているな。

そんなにモフれなかった事がショックだったのか。



無言でヘレナを見つめ、そんな事を考えていたユスターシュを観察しながら、レオニールとレオーネが恐る恐る口を開く。



「・・・じゃあ、俺たちがまた獣化すれば良いのか・・・?」


「でも、そうしたら前に屋敷に行った時と同じよ。あの姿だとお話できないわ」



歴史上初となる裁定者の番に興味津々だったらしい2人は、じゃあ、どうしたら良かったのかと悩んでいるけれど。



その後、ヘレナは5分ほどして海の上から生還したので良しとしよう。



まあ、その後ちょっと各自のスケジュール調整が必要になったのは、ご愛嬌ということで済ませるとしても、だ。





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