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謎の獅子たろう(仮名)



王城で何かあったのか、今日は帰れないかもと、ユスターシュから魔伝書鳩が飛んできたのが夕方遅く。



大好きな『あにうえ』がいない事を残念がる弟たちは、だけどいつもよりは騒がなかった。



それは間違いなく子猫二匹のお陰だろう。



「虎じろうの次の子だから、虎さぶろうはどう?」


「うわ、姉ちゃん。それテキトーすぎ」


「そうだよ。もともと、虎じろうって名前だってテキトーっぽいのに」



本日やって来た黄金色の子猫ちゃんの名前づけで、早くも姉弟ケンカが勃発しそうだ。



テキトーテキトー言うけれど、実は虎じろうという名前だって、ヘレナが三日も悩んで決めた名前なのだ。テキトーとは冤罪もいい所である。



「大体さ、この子はシマシマじゃないのに、虎って付けるのもヘンじゃない?」


「だよね。虎じろうは茶トラだから、虎じろうでもナットクするけど」


「うーん、なるほど」



確かに言われてみればその通り。

虎じろうは茶色のシマシマの子だから、虎っぽいと思って虎じろうにした。一匹目だけど「じろう」なのは、「虎たろう」だと、何となく音の収まりが悪い気がしたから。ただそれだけだ。



名前付けでもめてる間も、レウエル一家総出でのもふもふは続行中だ。


虎じろうと、まだ名なしの子猫ちゃんの二匹を、レウエル一家五人で撫でまわしつつ、会話は続く。



「確かにこの子は、虎っぼいと言うより、獅子っぽいよねぇ」



のんびりとした口調で、父オーウェンが言う。



すると、獅子っぽい子猫は同意するかの様に、オーウェンの手にゴロゴロと頬ずりをした。



「獅子っぽい・・・ああ、それなら」


「ダメ」


「うん、ダメ~」



とある名前を思いつき、ヘレナはそれを口に出そうとするが、それより早く弟二人にダメ出しをされる。


まだ言ってもいないのに、解せぬ。



「どうせ『獅子たろう』とか言うつもりでしょ。ダメだよ」


「うん、『獅子たろう』はダメ、『獅子べえ』もダメだよ」


「え? どうして」



不本意ながら、ピタリと名前を言い当てられ、しかも言う前に却下され、ヘレナは不満の声を上げる。



どうしてだ。可愛い名前ではないか。分かりやすいし、親しみやすいし、何よりイメージにピッタリなのに。



「だってカッコ悪いもん。ねえ、そんな名前、イヤだよね?」


「ねー?」



意見を問う様に、弟二人は黄金色の猫ちゃんを撫でつつ顔を覗き込む。



すると、なんとタイミングの良い事だろう。いや、タイミングは悪いと言うべきか。

その猫は可愛くミャウと鳴いたのだ。



「「ほら、この子も嫌がってる!」」



偉そうに宣言する弟たちに対抗して、ヘレナもまた口を開く。



だって、同意のミャウかもしれないのだ。ここは要確認である。



「そんな事ないわよね~。『獅子たろう』って良い名前よね~?」



すると。


するとだ。



ヘレナの伸ばした手に、その猫はかぷりと噛み付いたではないか。もちろん甘噛みだが。



「・・・」



ここで痛いのは、噛まれた手ではなく、ヘレナの心。(T ^ T)



と言うか、当たり前だろう的な家族からの視線だろうか。



「・・・分かったわよ。じゃあ、違う名前を考えるから」




そうして、その後もあれやこれやと案を出したのであるが。




「獅子っぺ」



かぷり



「獅子こぞう」



かぷり



「獅子~ん」



かぷり



「しっしー」



かぷり



「獅子じろう」



かぷり



「獅子ンスキー」



かぷり




こうして夜更けまで名前つけの試みは続いたが、どれもこれも当の猫ちゃんから拒否られて終わってしまった。




結局、名前を付けられないまま次の日となる。


そして、お昼近くになってユスターシュが帰宅した。



色々忙しかったらしく、疲労の色が濃いユスターシュは、出迎えたレウエル一家を見て目を丸くする。



正確には、ヘレナの腕の中にいる黄金色の子猫ちゃんにだ。



「・・・」


「・・・? あ、この子はですね。昨日虎じろうと一緒に家に来た子なんですけど」


「・・・」


「迷い猫みたいなので、この子も家で飼っても・・・あの、ユスさま?」



なんだか、腕の中の子猫にものすごい怒気を放っている様な・・・



だが、そんな空気を気にする事なく、腕の中の子猫は、ユスターシュに向かってミャウと鳴いた。



「何でこんなとこに・・・」


「え?」



ぽつりと呟いたかと思うと、ユスターシュは少し乱暴な手つきで子猫をつまみ上げた。



「え、え? ユスさま?」


「・・・城に帰してくる」


「え?」



もはや、「え」しか発していないヘレナたちを後に、ユスターシュはさっき降りたばかりの馬車に再び乗ると、また王城へと向かってしまった。



「あれ、でも、城で飼ってる猫なんていたかしら・・・?」





この時の事情を聞くのは、もう少し後。


ヘレナとユスターシュが結婚式を迎える頃になってからだ。








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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、知ってた。ユスターシュさん、その子探してて帰ってこれなかったんだよね、たぷん。…たぶん? [一言] 子ども産まれても、ヘレナっちに名前付けさせちゃダメですよ、ユスターシュさんっ。(…
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