仕方ない?
さて、お茶会の後は場所を移動して結婚式の打ち合わせとなった。
と言っても、王妃が公務で抜けたくらいで、メンバーはほぼ変わらないままだ。
招待客のリストの確認や、ドレスの最終チェック、披露宴で提供するメニューの選別などをしながら、公爵夫人が何気なくこんな事を口にした。
「そう言えば、へーちゃんに会ったら聞こうと思ってたのよね。ユスとの馴れ初めを」
「・・・へ?」
ナレソメ、なにそれ、あ、コンソメの類い?
瞬時に、ヘレナの脳内で三分間○ッキングのオープニングが流れ出す。
チャララッチャチャチャチャ、チャララッチャチャチャチャ・・・
そのまま妄想の彼方に漂いかけたヘレナを、続く言葉が引き戻した。
「わたくしも知りたいわ。ねえ、二人はどこで出会ったの?」
「あの子は基本王城で過ごしてたから、やっぱり出会いはここですわよね?」
ヘレナはハッと我に帰る。
出会いと来て、ナレソメとなれば。
ナレソメとは、馴れ初めだ。
・・・良かった、途中で気がついて。
危うく歌ってごまかす所だった。
よしよし、出会いね。馴れ初めね。
「出会い、え~と、出会いですか。それはその・・・」
出会い出会い出会い出会い・・・
自分とユスターシュとの出会い。
・・・んん?
ご夫人方が揃って期待に満ちた眼差しを向けているが、当のヘレナも何と答えたらいいのかさっぱりだ。
勿体ぶってるとか恥じらってるとか、そういう事ではない。
ヘレナも知らないのだ。
本音を言えば、ヘレナこそそれを知りたい。
どうしてユスターシュの様な素敵で不思議な人が、自分を好きになってくれたのか。
・・・あれ?
ふとした疑問が湧き、ヘレナは首を傾げる。
「う~ん?」
「あら、へーちゃん? どうしたの?」
「お腹痛いの? あ、それとも疲れたかしら? 休憩にしましょうか?」
「いえ、あの」
どうしようか。ご夫人方が喜びそうなエピソードをここで披露出来れは良かったのだが。
ご期待に沿えずごめんなさい。でも。
「私はユスターシュさまの番なので、馴れ初めとかはないんです」
「・・・っ」
ヘレナの言葉に、夫人方がハッと息を呑む。
「何か素敵なエピソードでもお話し出来たら良かったんですが、ある日急に陛下から呼び出しを受けて、ユスターシュさまの番だと言われて婚約が決まった、それだけで」
そうだった、うっかりしていた。
ユスターシュとの関係に、馴れ初めも出会いもない。
ーーー 番だから。
どうして自分を好きになってくれたのかとか、そんな理由は何一つ必要ないのだ。
・・・うん。
でも。
ヘレナは胸にそっと手を置く。
必要ないというのも、ちょっと寂しいかな。
そう思うのは、きっと我が儘なのだろうけど。
だって番でもなければ、王族で裁定者のユスターシュと婚約なんて出来なかった。
だから、素敵な出会いも馴れ初めもないのは仕方ない事なのだ。
そう、仕方ない。
なんて、ちょっと黄昏れるヘレナをよそに、夫人方はヒソヒソと言葉を交わす。
「なんてこと・・・ここに来て『つがい』設定が邪魔になるなんて・・・っ」
「わたくし達が勝手に『番なんて嘘よ♡』なんてバラす訳にはいかないし・・・」
「ねえ、晴れて両想いになったのよね。なのに何かしら、この妙なすれ違い感は・・・?」
などと心配されている事など、ヘレナは露ほどにも気づかない。




