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いつでもヘレナは通常運転



「お泊まり、ですか?」


「うん。いい案だと思うんだけど・・・どうかな」


「いえそれはもう、いい案に決まってますとも!」



遠慮がちにそう尋ねるユスターシュに、少し食い気味にヘレナは首肯する。



「そ、そう?」


「はい、勿論です。絶対に喜びますよ、あの子たち」








・・・何の話をしてるのかって?


アストロとカイオスの二人を、ユスターシュの屋敷に泊まらせたらどうか、という話である。



と言うのもここ最近、弟くんたちの間で盛り上がっている虎じろうブーム。


あれが今も継続中なのだ。

なんと現在、4週間目に突入している。


そして、弟たちの虎じろうブームと言えば・・・


皆さん覚えておいでだろうか。



そう、二人の来訪にもれなく付いてくる、謎の(?)追跡者たちの存在である。



えっほえっほと走ってくる二人の後ろを、今日も懲りずに付いて走る謎の男女たち。



毎日毎日、いつも屋敷付近まで近付いては透明のバリアに弾かれる様に吹っ飛んで行く彼らは、連日の拘束にも関わらず諦める気配がない。



現在の記録で、拘束した人数は既に50を超えている。わざと囮になったとかでもないのに、何気に弟たちのお手柄である。



だが、いくら棚ぼた的に相手側の勢力を削れているとは言え、ずっと同じやり方が通用すると思ってはいけない。



現に、昨日、一昨日とマラソン中のアストロたちに接触を計る様な動きがあったらしい。


まあ、有り体に言えば誘拐だ。


もちろんユスターシュが要所要所に配置していた護衛たちがその場で確保した。



さてさて、そんなこんなで段々と物騒な雰囲気を醸し出しつつある今日この頃。



結婚式があとひと月後に迫った今、敵たちが更に過激な手段に出ないとも限らない。


だからと言って、自宅で大人しくしてろと言われて、ハイそうですかと言う事を聞く様な子たちでもないのだ、あの子たち(アストロとカイオス)は。


なにせユスターシュ邸(ここ)には、皆のアイドル虎じろうが居るのだから。


止めても、怒っても、あの二人はやって来る。


ヘラヘラと、悪びれもせずに、たったかたったか走って来るに決まってるのだ。



と、いう事で、ユスターシュが出したのがお泊まり案である。



ユスターシュ曰く、結婚式を終えた後はさすがに新婚気分を味わいたいから却下だけれど、今ならどれだけ泊まっても構わない。

何なら、レウエル一家全員でここに泊まりこんでも良いとか何とか。



今はお出かけを控えざるを得ないヘレナにとっても良い気晴らしになるのではと、ユスターシュが気を遣ってくれた訳だ。



「賑やかなのは私も好きだしね」



そう言って笑うユスターシュの顔は、ちょっぴりやつれている。



アストロたちの活躍により劇的に増えた尋問対象者。それらの対応を主にするのは心が読めるユスターシュ。


必然、彼は最近ずっと大忙しなのである。



「体調には、くれぐれも気をつけて下さいね」



自宅で大人しく守られているだけのヘレナとしては、歯がゆい限りである。



自分にも何かスキルがあれば。



探索スキルとか、暗殺スキルとか、盗聴スキルでもいい。


そうしたらユスターシュと肩を並べて共に闘えるものを、なんてついつい思ってしまうのだ。



「・・・うん?」



悲壮な表情でそんな事を考え始めたヘレナを、ユスターシュは胡乱げに見る。

もちろんヘレナはそんな視線に気づく事なく、元気よく妄想中だ。



・・・例えば、狩人の様な弓の腕前があったら。




突然、ヘレナの頭の中に、両方の腕だけがムキムキになったヘレナが登場した。



「・・・っ」



なかなかにシュールな光景に、ユスターシュは息を呑む。




腕だけムキムキヘレナは、大きな弓を手に取ると矢をつがえ、追跡者の一人に向かって勢いよく放った。



どびゅんっ!とものすごい勢いで飛んで行った矢は、先頭の追跡者の額にぽこぺんと当たった。



『うひゃあ』



ころん、と地面に転がった追跡者のおでこには、でかでかと『負け犬』という赤文字が。



矢の先にハンコが装着されており、当たった箇所に、くっきりと赤い印が押される仕組みなのだ。



「・・・矢の先にハンコ」



妄想の中でも安心安全な設定に、感心(?)したようにユスターシュは呟いた。




さて、負け犬の印を押され、項垂れる追跡者。



だが、ほかの追跡者たちが黙ってはいない。


未だこちらを狙って走って来る彼らに向かって、ムキムキヘレナは容赦なく弓を放つ。



「容赦なく・・・? まぁ確かに容赦ないのかな」




ぽこぺん、ぽこぺん、ぽこぺんぺん。



あっという間に、おでこに『負け犬』の赤文字が押された者たちの山が出来上がった。



そこに颯爽と現れたのが、裁定者ユスターシュ。



「え、私?」



ユスターシュは、机の端に(いや、どこから出て来た)片足を乗せると、ふんぞり返ってこう叫ぶのだ。



『もっと私に仕事を寄越せぇっ!』




ヘレナの妄想をずっと見ていたユスターシュは、ここでがくっと肩を落とす。



その仕事好きの設定は、まだ健在だったのか、と。







~~~~

ヘレナが仕事人間モードのユスターシュの姿を想像した話、覚えてる人いたかな・・・?(-。-;






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