茶飲み友だち
ロクタン・ラムダロスはつまらなかった。
最近、茶飲み友だちがロクタンにつれないのだ。
前は毎日会って一緒にお茶を飲んでいたのに、最近は忙しいのかなかなか会えない。
せっかく昼に起きて一番に会いに行っても、前の様に美味しい軽食も、珍しいお菓子も、香りのいいお茶も一緒に出来ないのだ。
前はあんなに喜んで自分の話を聞いていたのに。
「忙しくて」のひと言で帰されてしまう。
非常につまらない。
ロクタンは、それでも今日もまた、昼に起きてすぐに王城に来ている。
だが、それは茶飲み友だちに会う為ではない。
ロクタンは昨夜、思い出したのだ。
自分が何故、こんな所に足を運ぼうと思ったか、そもそもの理由を。
・・・僕としたことが、うっかりしていた。
ロクタンは後悔しながら頭を左右に振る。
茶飲み友だちとの話が楽しくて、すっかり忘れていた。
ある男と話をつける為に、ロクタンは王城に乗り込んだのだった。
それがつい、応対に出た男と意気投合して、そのまま茶飲み友だちになって、毎日そいつとお茶を飲みながらお喋りして。
それが楽しくて、すっかり忘れてしまっていた。
帰りにはレウエル家でも毎日の様にお茶をご馳走になっていたから、考える暇もなかったのだ。
あそこのお茶菓子も、最近はなかなか美味しいものが出るようになって、ますます行くのが楽しみになっていた。
・・・そう言えばあっちも最近、家の前に門番が立つ様になって、なかなか子爵と会えなくなったんだよな。
自分は子爵の大事な義息子だと言っても、頭の固い門番は家の主人に確認にも行かない。
結果、門の所で追い返されてしまうのだ。
非常につまらない。
仕方ないからそのまま家に帰るが、そうなるともう夕食の時間だし、その後はお風呂に入ったらもう寝る時間だし。
ロクタンは、こんなに忙しい中でも友だちとお茶を飲む時間を空けている。だから、向こうも何とかして時間を作るのが礼儀だと思うのだが。
・・・今日はあいつ、僕とお茶できるかな。
そこでハッとロクタンは我に帰る。
いけない、いけない。
僕は話をつけなくてはいけないんだ。
ヘレナを『つがい』だとか何とか言って、無理やり僕から取り上げて婚約した男と。
そう、たとえ相手が王族だろうと何だろうと、僕は権力には屈しない。
だってヘレナは僕の婚約者。
僕が10歳の時、今も懐かしく思い出すあの花祭りで、ヘレナは僕に求婚して来たのだ。
まだ5歳の幼いヘレナが、人目もはばからず僕に手を差し出した。
そして僕はその手を取った。
書面は交わしてなくても、世間的にはあれで婚約が成立している。
だから僕は紳士として、責任を取って彼女を妻にしなければいけない。
そうしないとヘレナが傷モノになってしまうのだ。
それをなんだ、あのユス・・・ユスターとか言う男は。
『サイテイシャ』とか言う二つ名は、伊達ではないらしい。
人の婚約者を平気な顔で奪うとは、本当に最低な男だ。
「よし」
ロクタンは、ユスターシュの執務室の前に来た。
今日こそは会うぞ。
会って話をつけてやる。
ガツンと言ってやるんだ、ヘレナは僕の婚約者だと。
横取りしようとするなんて、サイテイシャだからと言って最低な真似をするなと。
そうだ、言ってやるのだ。
うっかり茶飲み友だちとのお茶を楽しんでいる間に、ふた月が過ぎてしまった。
ビックリしたぞ、もうあとひと月半後には二人の結婚式だと父上から聞いた時は。
お前が諦めてくれて何よりだと父は言っていたが、何をバカなことを。僕がヘレナを見捨てる訳がないではないか。
待っていろ、ヘレナ。
これから僕が、最低なサイテイシャからお前を救い出してやるからな。
そうして、ロクタンがノックをしようと手を上げた時だ。
扉が開いて、中から人が出て来た。
「おや、ロクタンさん。久しぶりですね」
顔を覗かせたのは、茶髪のカツラをかぶり、ぶ厚いメガネを付けたユスターシュ、そういわゆるジュストだ。
「おお、お前か。今日はどうだ? 一緒にお茶を飲めるのか?」
「もちろんです」
ジュストはにっこりと笑う。
「とっておきのお菓子があるんです。あちらの部屋に用意させますので、またゆっくりお話をしましょうね」
「そうか、良かった。せっかくお前に会いに来ても、最近はお茶も飲めなくて、つまらなかったのだ」
「それはすみませんでした。最近ずっと忙しくて。でも今日は大丈夫ですよ。またお父さんの事やお父さんのお仕事の話を聞かせて下さい」
「勿論だとも」
そうして、ロクタンはにこにことジュストの後を付いて行く。
とても美味しいお茶とお菓子を頂いたロクタンは、満足げに王城を後にしましたとさ。
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いろいろと間違えているロクタンの話でした。




