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勝ち負けではないと分かっていても


その日の夜のレウエル子爵家は、降って湧いた番の話題に、てんやわんやの大騒ぎになった。



母は驚いて腰を抜かし、父は未だに現実味がないのか目の焦点が覚束ない。元気な弟たちは、父親の話も聞かずに元気よく家の中を走り回っていたが。



しかし、ヘレナにはぼんやりしている暇はない。

今から荷造り作業である。なんと明日にはユスターシュの屋敷にお引越しなのだ。



ユスターシュによると、番は相手を認識したらそれ以降、離れてはならないらしい。


確かに、その辺りの番の習性に関してはヘレナも本で読んだことがあった。

番と出会えばもう二度と離れられなくなるとか、離れればいずれ正気を失ってしまうとか。


本で読んだ時はなんとも強烈でロマンチックだと感動したけれど、まさかそれが自分の身に起こるとは夢にも思わなかった。



離れたら狂うとか、地味に避けたい。

どれだけ相手に夢中なのよ、と、思わず突っ込みを入れたくなるくらいには恥ずかしい狂い方だ。



まあとにかく、そういう狂い方は嫌だから引っ越しは急ぐことにした。



実はあの時、このままユスターシュの屋敷へ、などという意見もあったのだが(主に宰相とか宰相とか宰相とか)、レウエル子爵家でも別れの挨拶をしたいだろうと国王が言ってくれたお陰で、今日は子爵家に帰れることになった。


そして明日の番宣言、もとい婚約発表をした段階で、ヘレナは正式にユスターシュの屋敷で暮らし始めるのだ。



いきなりの番発言から、なんと翌日にはいきなりの同居。基本ぼんやりしているヘレナも、流石にびっくりの急展開だ。



鞄に荷物を詰めながら、ヘレナはふと思い出す。



それでも、ユスターシュは色々とこちらに配慮をしてくれたのだ。



レウエル子爵家への援助金とか、父オーウェンの小さな商会への支援とか、病気の母への医者の手配とか。それから、弟たちの教師の手配もだ。



これもまた裁定者の力なのか、ヘレナが働いて家にお金を入れていたことも知っている様で、それ故の援助の申し出だった。





「一緒に暮らすことになっても、結婚前に不埒な真似はしないから安心して」



そう言って、にっこりと笑いかけられた時は、心臓がどっくんと飛び跳ねて死ぬかと思った。



「ああでも、あなたから望まれた時は、いくらでも応えるからね。いつでも言って?」



いえ、望むって何ですか。何を望むと言うんですか。


というか、そんな綺麗な顔で何を言っちゃってくれちゃってるんですか。



と、言いたかったけど、もういっぱいいっぱいで何も言えなかった。



軽く首を傾げて、あのキラキラしい顔で、余裕の笑みであんな事を言われて。



自分ばかり心臓がばくばく言っている気がして、なんだかちょっと負けた気がして悔しくなった。



いや、これは勝ち負けの話ではないと分かっているのだけれど。





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