美化100倍の悲劇
そんなこんなでマシマシの昼食を終えた後、ヘレナとユスターシュは本日の本題に入った。
ヘレナの結婚式の衣装合わせである。
この為に本日の執務をお休みしたユスターシュは、側から見ても、衣装を着る本人より浮かれていた。
「ここのラインが綺麗に出てて良いね。でも、ここにもう少しレースが欲しいかな。あ、小さな宝石を縫いつけると光が反射していいかも」
デザイナーが持参した試作用のドレス数着を眺めるユスターシュは、どんどんどんと、それはもうもの凄い勢いで、夢と希望が膨らんでいく。
これも似合いそうだ、こっちかな、いやあっちか、などと迷いに迷い、なかなかそこから一つを選べない。
まぁ確かに見せられたドレスのどれもが力作揃いなのだ。
王国の全国民が注目していると言っても過言ではない、王国史上初となる裁定者の結婚式。
しかも、花嫁は裁定者の番となる女性という事で、最近では二人にまつわる絵本や小説まで出回る始末。
番まんじゅうとか、番ドーナツとか、裁定者のつるぎなど、少し前に二人で笑いの種にしていた話はほんの序の口でしかなく。
今は、国全体が全力で裁定者の番ブームに乗っかっている感じだ。
ちなみに、番まんじゅうも番ドーナツも普通に美味しかった。味が気に入って三度目となるリピート注文をしたのがつい二日前の事だ。
なんとユスターシュ本人から注文が来た事がとても嬉しかったらしく、今はその店の前に『本家の認定をもらいました』などというのぼりが立っているらしい。
本家でもないし、認定もしてないんだけどね・・・とユスターシュは苦笑していた。
だが、これも経済効果と言われて仕舞えば、まぁ良いかという気分になる。
そして空前の大ヒットとなったその二つに続けとばかりに、今はあちらこちらで『番』にあやかったお土産品が続々と発売中なのだ。
その中でも今ちょっと気になってるのが、『番せんべい』と、『運命の番ポップコーン』と、『恋するたい焼き』である。あとは『番ようかん』と『番の作ったミルクジャム』と・・・
思考が明後日の方角に完全に漂い出てしまったヘレナの耳に、拗ねた様な声が届いたのはその時だった。
「・・・もう、ヘレナったら。そんなに食べたいのならいくらでもお取り寄せしてあげるからさ、今はこっちを一緒に選ぼう?」
「・・・あ、ごめんなさい」
ハッと我に帰り、その後はドレスを順番に試着したり、アクセサリーを真剣に合わせたりして、結果ドレスの候補は二つにまで絞る事が出来たのだが。
「こ、これは・・・」
ヘレナが思っていたよりもユスターシュは拗ねていた様で。
後日、届いたお取り寄せ商品の中に、例の『裁定者のつるぎ』がちゃっかりと入っていて、ヘレナは10.000HPのダメージを受けた。
それは、刀身に焼き付けられていた似顔絵が、ユスターシュの方はほぼ実物そのままだったが、ヘレナの方は100倍増しのとんでもない美人だったから。
しがない貧乏子爵令嬢の顔など誰も知らなくて当然だ。
当然なのだが。
髪と目の色くらいしか本人の特徴と一致しない似顔絵というのは如何なものか。
不細工に描かれているならいるで、それも腹が立つけれど、美化するのも1割くらいに留めて欲しい。
100倍増しではもはや別人ではないかと、ヘレナはちょっぴり?不満に思ってしまった。
結果、弟たちにあげれば事が悪化すると判断したヘレナは、それを後生大事に棚の奥に仕舞い込むのであった。