表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/110

サービスでマシマシ


嵐のような実家の家族の訪問。


いや、嵐を呼んだのは弟二人だけだったとヘレナは思い返す。



「オシアワセニ~」などと棒読みで叫びながら手を振る弟たちと。


何やら珍しいお菓子と共に、ロクタン撃退のコツをユスターシュから伝授された父と。


幸せそうで良かった、とホッとした笑みを浮かべた母と。



大好きな家族が馬車に乗り込み、窓から手を振り、別れを告げる。



家族に会えて、とってもとっても嬉しかったのに。


去りゆく馬車を見送りながら、手を振りながら、ヘレナは思う。


送り出す側である事に満足しているのは。

なんとなく、もう自分の家はここである様な気分になるのは、きっと。



「ヘレナ・・・」



そう、きっと、番だから。



「・・・」



ユスターシュを誰よりも優先したくなるのは、一緒にいて心地よいと感じるのは、きっと彼が自分の番だからだ。



傍で自分の名を呟くユスターシュを見上げながら、ヘレナはそんな事を考えていた。



その時、なぜ彼が少し悲しそうな瞳でこちらを見下ろしているのか、ヘレナには見当もつかないまま。





そんな夜を過ごした翌日の昼食。


今日も家で過ごしているユスターシュのリクエストにより、なんとヘレナは料理をしたりしている。



リクエストされた料理は、もちろん。



「おお、これがあの・・・。なるほど、確かにソースからはたっぷりニンニクの香りがするね」



そう、例の偽ハンバーグである。


さすがは王族、さすがは裁定者。


いきなりのリクエストで「魔獣肉で作るのでそれがないと」と答えれば、30分もしないうちにヘレナの手元に魔獣肉が届けられた。


今は本物の味を知ってしまったが故に、作っていてそっち寄りになりかけるのを己の自制心で必死に堪え。


魔獣肉を包丁でひたすらチョップチョップ。

隠し味に唐辛子を加え、卵を加えてひたすらこねる。

それから、ニンニクをこれでもかとスライス。

フライパンでぐつぐつと煮込んでいたソースにたっぷりのニンニクを投入すれば、あら不思議、キッチンはニンニクの香りでいっぱいになった。


丸めて、焼いて、ソースをかけて。


皿に乗せた偽ハンバーグをユスターシュの前に差し出せば。



先ほどの感嘆のコメントである。



「ううん、美味しい・・・けど、確かに噛み応えがすごいね。肉質がしっかりしてると言うか」


「噛んでいるうちに満腹中枢が刺激されて、すぐにお腹いっぱいの錯覚に陥るという、レウエル家には有り難い特徴のある食べ物なのです」


「美味しい、けど辛いね。よくあの子たちがこんな辛いの食べられたね?」


「辛すぎましたか?」



ユスターシュは額にうっすらと汗をかいている。実は辛いのが苦手だったりするのだろうか。

大人仕様に唐辛子マシマシにしたのだが、これは好意が仇となったケースだろうか。



「唐辛子マシマシって、どのくらいマシマシしたの?」



おおっと、聞かれてしまった。実はですね、唐辛子を種ごと刻んで3本分ほど。



「3本・・・道理で」



ユスターシュはさっきからグラスに何度も口をつけている。水のお代わりは既に5度目だ。



「・・・入れすぎ、だったでしょうか」


「う~ん、ちなみに、弟くんたちに作った時には、唐辛子何本入れたの?」


「・・・」


「ヘレナ?」


「よく・・・覚えてません」


「へ?」


「写真を見て想像を膨らませて適当に味付けしたので、実は何を入れたのかもうろ覚えで・・・たぶんこんな感じかなぁって」



ユスターシュは、暫くぽかんと口を開けていたが、やがて楽しそうにくつくつと笑った。



「そっか、覚えてないか。全くヘレナらしいね」


「はい、なんかすみません」


「いや、謝る必要はないよ。ああでも、きっと唐辛子は3本までは入ってなかっただろうね」


「そうでしょうね。ユスターシュさまにはサービスでマシマシにしたので」


「・・・」



ユスターシュはそっとグラスを手に取り、7度目の水のお代わりをした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ