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きっと気のせい


「わあ、凄いな。庭の一画と言っても結構な広さだね。これを全部ヘレナひとりで耕したの?」


「そうなんですよ。あともう一回くらいは肥料を鋤き込みたいんですけどね。でも、まあまあフワフワの土になってますでしょ?」



さて、今日はユスターシュが休みを取って屋敷にいる。


それでヘレナはユスターシュを庭に連れ出して、ここのところ毎日耕していた畑予定地を見せているところだ。



ヘレナに促され、ユスターシュは腰を屈めて土に触れる。そして目を丸くした。



「へえ・・・本当だ。随分と土が柔らかいね」


「ふふ、そうでしょう、そうでしょう。きっとこれから美味しい野菜が出来ますよ。

ユスターシュさまも、その美味しさに驚いて顎が外れちゃいますよ。ああ、楽しみ。何を植えようかしら」



自宅にいた時も庭に畑を作り、野菜を育てていたヘレナである。


畑の土を耕すなどお茶の子さいさい。しかも味もなかなか好評だった。

弟たちも、家で採れた野菜だとあまり嫌がらずに食べたものだ。



ああ、あのやんちゃ坊主たち。万年腹減り小坊主たちはどうしてるかな。



これからはユスターシュの屋敷に住むと、家を出た日。

あの日の最後の朝食の風景を思い出す。


一瞬、感動的な別れになりかけて・・・結局は馬鹿にされて終わった様な気もするけれど。

あれはあれで寂しがってくれていた・・・と思う。

ウン、キットゼッタイ。



「・・・会いたい?」



その声に振り向けば、ユスターシュが気遣わしげな表情でヘレナを見ている。



「それは勿論、会いたいですけど」



でも、ユスターシュがヘレナの家族のためにメイドやらコックやらをあの家に派遣してくれたのを知っている。しかも、給与の支払いはユスターシュ持ちで。


父や母はともかく、弟たちはきっと姉の不在を寂しいなどと思わず、ご飯をもりもり食べているのだろう。


絶対に、間違いなく元気でいる筈。

そしてその元気さが、父や母を明るくしてくれているだろうから。



「そうですね。落ち着いたら手紙でも書きます」



だいたい、ユスターシュの家に来てまだ一週間くらいしか経っていないのだ。


これでしんみりして顔を見に行ったりしたら、きっとあの生意気ぶりたいお年頃の上の弟が「デモドリだ~」とか叫んで踊り出す筈。

そして下の弟にも同じことを言うよう強制して、父か母に怒られるのだろう。



ヘレナの口元がふ、と緩む。



・・・そんなの、会わなくたって分かる。


それこそ、手に取るように。



「だから、大丈夫です」


「・・・そっか」



別に気にしなくていいのに。



何だかしんみりとした空気になってしまったので、ヘレナは話題を変えようと努めて明るい声を出した。



「それに私もここで毎日、楽しく暮らしています。寂しいなんて思う暇もないですよ。

あまりすんなりと馴染んだので、自分でもビックリしてます。やっぱり番は違いますね」


「・・・っ」



ユスターシュは何故か一瞬、言葉に詰まって。



「・・・そうだね」



そう言って笑った。



その笑みが少し寂しげに見えたけれど、その時のヘレナはきっと気のせいだと、そう思ったのだ。


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