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ワカリマシタ

次の日の朝のことである。


ヘレナが庭の一画に畑用のスペースをもらったことをユスターシュに話し、野菜の苗を見に行きたいという要望を伝えた時だ。



いつもなら何でもうんうん、と許可するユスターシュが、珍しく顔を曇らせた。



「あ~、そっか。苗を見に街にねぇ。う~ん」


「ダメですか?」


「そうだなぁ・・・今じゃないと駄目? もう少し後だと助かるんだけど」


「・・・助かる・・・?」



なんだろう、何か面倒ごとの匂いがするのだが。



「あと一週間・・・いや、どうしても見に行きたいなら、あと3日でいい。ちょっとだけこの屋敷の中にいて貰えないかな」


「・・・別に構いませんが」



貰ったばかりの区画はまだ耕し始めたばかり。本当言うと、まだ苗など植えられる段階ではない。

さすがは屋敷内の土だけあって、石や雑草などの心配は要らないが、肥料とかを混ぜ込んでもっと農作業向けの土壌にしなければいけないのだ。


それが苗を見に行こうなんて思ったのは、色々と見ておくことでモチベーションを上げようとか思っただけで。



もともと本好きのヘレナである。屋敷の中に引きこもるなど、3日や一週間どころかひと月でも1年でも構わないのだ。いや、本さえあればだが。あ、あともちろん食事も。



だけど、そんな事よりも。



なんだろう、あと3日は屋敷の中に居て、という願いは。



ヘレナはユスターシュの顔をじっと見つめる。



「・・・」



普段はヘレナの妄想にすぐ反応して大笑いするユスターシュだが、やはりこういう時は表情を崩さない。さすが裁定者は伊達じゃない。



でも。でもでも。


屋敷内にこもる3日の間、外では何が起きると言うのか。



・・・これは。


これは間違いなく。


陰謀の匂いがぷんぷんするわ・・・っ!



そう、きっとこの屋敷の周りには目に見えない結界が張ってあって、この中にいる限りは安全なのだ。結界を張ったのは、もちろん妖精王ユスターシュ。

彼は妖精たちを屋敷周辺に配置して、妃ヘレナの安全を守らせている。ヘレナの命を狙うのは、次期妖精王の座を狙う火の妖精メラメーラで・・・


真っ赤なスカーフに、真っ赤なシャツとジョッパーズパンツ、もちろん髪も炎のように真っ赤っ赤だ。

そんな全身赤だらけの精霊がうひひと登場したところで、ユスターシュがぴくりと反応した。やった、手応えあり。



「・・・っ、んんっ!」



誤魔化すように咳払いをひとつすると、ユスターシュは口を開いた。



「・・・陰謀じゃないから大丈夫だよ。まあ面倒ごとではあるけどね」



面倒ごと・・・もしかして昨日の帰りが遅くなったのも、それ関連なのだろうか。



「まあそうだね。別に隠すつもりはないけれど、対策が済んでからゆっくり話すよ。だから今はちょっと、屋敷で大人しく私の帰りを待っていてほしいんだ・・・いいかな? 私の未来の奥さん」


「・・・っ」



この人は、自分の顔の価値を知っている。そしてその使い方もよく、よ~く知っている様だ。



「・・・ハイ、ワカリマシタ」



黒薔薇が生える隙もなく、ヘレナの顔を真っ赤に染めることに成功したユスターシュは、満足そうに頷くと城へと向かったのだった。




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