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先にヘレナだけ夕食を取ったので、今はユスターシュがひとり寂しくハンバーグを食べている・・・訳もなく。
テーブルの向かいに座ったヘレナは、にこにこと2回戦目のハンバーグに挑戦していた。
やっぱり、一人で食べた時よりずっと美味しいわ。これは3倍増しね。
「・・・」
前に家で弟たちにせがまれて作ったハンバーグとは、味が全然違うわ。まあプロに敵わないのは当たり前なんだけど。
「・・・」
何かしら、こう・・・噛み応え? いえ肉感?
なんだろう、味が根本的に負けてる気がするけど。と言うか、そもそも違う味のような。
「・・・」
もしかしたら、あの時私が作ったのはハンバーグですらなかったのかもしれない。やっぱり魔獣肉じゃダメだったのね。
「・・・」
ああ、どうしよう。「これがあの有名なハンバーグよ!」って自信満々に弟たちに出してしまったわ。
「・・・」
私も本で読んだだけで、食べたことはなかったのよね。
結局、私が作ったのは、ただの肉塊焼きだったのかしら。弟たちに悪いことをしたわ。泣いて喜んでいたのに・・・
「・・・ぷふっ、に、にくかいやき・・・」
ここでとうとう、ユスターシュが吹き出した。
さっきからずっと頑張って沈黙を保っていた様だが、我慢しているのは見え見えだった。だって肩が微かに震えていたのだ。
そんなに面白いこと言いました?
それとも実は本当にそんな料理が存在するとか?
「いや、ないな。まあ少なくともヘレナが作った料理は、そう呼んでもいいのかもしれないけど。確かに肉の塊を焼いてるものね」
「・・・?」
ヘレナはこてんと首を傾げる。
何か今、不思議な事を言われた気が。
・・・作った料理まで見えるんですか?
「食事中だから、質問はちゃんと声に出そうね。で、さっきの答えは、そうだね。うん、見えるよ。考えてる人が、きちんと頭の中に画像を思い浮かべたものならね」
「・・・ちゃんと思い浮かべたもの・・・と言うことは、亡国のユスターシュさまとその愉快な同士たちとか」
「ああ、それはもうばっちり。私が着ていたボロボロの宮廷服とか、同士たちの冒険者風の服とかも」
「・・・色っぽい黒薔薇とか」
「ああ、あれはなかなかの美しさだな。あの中に私が佇んでいるというのは、ちょっと照れるけど」
「・・・結婚式でシュプレヒコールする参列客とか・・・?」
「ああ、なんだっけ。『もっと美しい花嫁を』とか何とか叫びながら、プラカード片手に練り歩くやつだったかな?
失礼しちゃうよね、私のヘレナは世界一可愛い花嫁になるに決まってるのに」
「・・・っ」
何故か急に自爆した気になったヘレナは、慌てて視線をハンバーグへと戻す。
「でもそうだな。ここ最近の私の一番のお気に入りはアレだな、マタタビのやつ」
「マタタビ・・・」
「うん。マタタビの木にぶら下がってぷらぷら揺れるヘレナがすっごく可愛かった」
「な、なんですって?」
瞬間、恥じらっていた事も忘れ、ヘレナはがばっと顔を上げ、抗議の声を上げた。
「あれで可愛いのは、ぶら下がっているマタタビヘレナではありません! その下でぴょんぴょん跳ねてるユスターシュさまです!」
「え」
「もう! ちゃんと見てましたか? ほら、猫耳が付いたユスターシュさまです。しっぽもあったでしょう? マタタビが欲しくてゆらゆら揺れるしっぽ」
「・・・そう、だったっけ?」
「そうですよ。あ~、やっぱりちゃんと見ませんでしたね? あの猫耳ユスターシュさまは史上最高に可愛かったのに」
「・・・」
逆に自分が被弾する羽目になったユスターシュは、もぐもぐとハンバーグを無言で咀嚼する。
「・・・ユスターシュさま?」
「なんでもないよ・・・ああ、でも、やっぱりヘレナは引かないんだね」
「はい?」
「心の声が聞こえるだけでなく、映像まで見えるって分かっても、ヘレナは私に引いたりしないんだなぁって」
ヘレナは不思議そうに首を傾げた。
「・・・この場合、引くのは私ではなくて、ユスターシュさまの方では? だって変な想像してたの私ですよ?」
「・・・」
「ふふっ、ユスターシュさまって本当に不思議なことを気にしますね」
「そう、かな」
「そうですよ」
ヘレナの言葉に、何故かちょっと泣きそうになっていたユスターシュは。
「そんなにいろいろ気にしてると、そのうちハゲちゃいますよ?」
けれど、続くヘレナのひと言でスンッと真顔になった。




