表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/110

黒薔薇、再び

「ねえ、テオ。今日の夕食はハンバーグにしてもらいたいんだ。コックにそう伝えておいてくれるかい?」



番としてユスターシュの屋敷に来た翌日。初めての2人での朝食の席のことだ。


執事に向かってそんな嬉しい事をユスターシュが言った時、ヘレナは卵料理を頬張っている最中だった。



卵の火の通し加減が絶妙、さすがプロの料理人は違うな、などと考えていたヘレナの眼は、「ハンバーグ」のひと言にキラキラと輝いた。


何故か分からないが、ヘレナは朝起きたら無性にハンバーグが食べたい気分になっていたのだ。



まさかユスターシュも同じだったとは、なんと奇遇なことだ。


これぞまさしく、以心伝心というアレだろう。



そう思って感謝を込めて見つめれば、ユスターシュはにこりと微笑みを返した。



ヘレナは頷く。



分かっている。


自分も番の端くれ。あれはきっと、「私たち好みの食べ物も同じなんだね」と言っているのだ。



「・・・」



無言で微笑むユスターシュに、ヘレナもまた自信満々に微笑みを返す。



何も言わなくても気持ちが伝わるというのは素晴らしい事だ。特に食事中に便利なスキルだとヘレナは思う。


口の中に食べ物がある時に話すのはマナー違反、だがユスターシュ相手に限ってはその心配もない。



もぐもぐしながら思う存分、会話が楽しめるのである。ああ素晴らしい。



「いやそれは駄目」



と思っていたら、いきなりのダメ出しである。



どうして?



「そのやり方だと、側からは私だけペラペラ喋るイタい人に見えてしまうし、そもそも私が食事出来なくなるだろう?」



おお、なるほど。確かにそう見えるかもしれませんね。



「・・・ヘレナ?」


「は、はいっ、分かりました」



ついうっかり、そう、ついうっかりだ。

また心の中で返事をしてしまったのだが、ユスターシュは黒い笑顔で微笑みかけてきた。圧が怖い、王族の圧、凄い。



「それにね、ヘレナ」


「・・・なんでしょうか」



カトラリーを一旦皿の上に置き、ユスターシュは手を組むとヘレナをじっと見つめた。



その視線に、ヘレナは思わず頬を赤らめる。



なんだろう。心の声を聞かれるよりも、ただ見つめられるだけの方が恥ずかしく思うのは。



その声が聞こえたのか、ユスターシュはふ、と笑う。そしてこう言ったのだ。



「・・・私だって、ヘレナの声が聞きたいんだよ?」


「・・・へ?」


「ヘレナは楽できて良いって言うけどさ、その方法だと、私の方はあなたの声が聞けなくなるってこと、気づいてないの?」


「あ、えと、でも」


「そりゃあね、心の声もあなたの声には違いないよ? けどね、実際の声と心の声とでは響きが違うんだ。心の声は少しくぐもった感じで頭に直接響いてくる。

私の耳に直接届くのは、あなたの本当の声だけ。それが聞けないのは・・・寂しいな」



ユスターシュはこてりと首を傾げる。


中性的な美形のユスターシュは、そんなポーズも様になる。うう、カッコいいです。



ここで更にユスターシュの笑みが深まると。



あああ、生えて来ました。ユスターシュの後ろに生えて来ましたよ。にょきにょきと、わさわさと。



ユスターシュは一瞬、ぴくりと肩を揺らすが、果敢にもそのまま言葉を継いだ。



「だから・・・ね? なるべく言いたい事は口に出して言ってね?」


「ひゃ、ひゃい!」



再び出現した黒薔薇に囲まれ、にこやかに笑うユスターシュは、とても妖艶で、とても美しかった。



それはもう、胸がドキドキして苦しくて息も出来なくなるくらいに。



・・・いえそれでも、朝食はちゃんと完食しましたけどね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ