表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/110

灰色に光って見えた


「ほらユス、よそ見しながら歩いていると転ぶぞ?」



その日、側妃レアが催す茶会に参加する為、ユスターシュは兄レクターに連れられ、回廊を歩いていた。


レクターは同じ正妃から生まれた第3王子で、末弟のユスターシュより10歳上の気さくな兄だ。


面倒見が良く、体を動かすのが好きなレクターは、ユスターシュの遊び相手をよくしてくれる優しい兄だ。


今日も、王太子としての執務で少し遅れるという長兄ローハンの代わりに、レクターはユスターシュの手を引き、先に会場に向かうところだった。



だが、今日のユスターシュは、何故か落ち着きなく辺りをキョロキョロと見回している。 


先ほどからずっと、どこからか声が聞こえてくる。それが気になって仕方ないのだ。



声は大きくなったり小さくなったり。

かと思えば、急に聞こえなくなったりする。


大人数の声がガヤガヤと一斉に聞こえてきたり、突然ひとりの声だけが大きく聞こえてきたり。



けれど周囲を見回しても、それらしき人はいない。そんな事は初めてで、さっきからユスターシュは落ち着かない気分になっていた。



「ユス? どうした? 具合が悪いならお前だけ戻っても・・・」


「・・・っ、だめです」


「・・・ユス?」



何故か分からない、けれどユスターシュは、そこに行かなければいけない気がした。



「なぁ、ユス。本当にさっきから様子がおかしいぞ? 何か気になる事でもあったのか?」


「・・・なにか、きこえるんです」


「ん? 聞こえるって、何が聞こえるんだ?」


「ええと、なにか、ひとのこえみたいなのが、たくさん・・・」


「・・・そうか」



(ユスはどうしたんだ? さっきから様子がおかしい。ずっとキョロキョロして落ち着きがないし、それに)



兄の独り言のような呟きが聞こえ、ユスターシュは顔を上げる。



(何か聞こえるって言ってたけど・・・別に何も聞こえないよな。誰も話なんかしてないし)



そう話す兄の唇は動いていない。



「・・・にいさま?」


「どうした、ユス? 顔色が良くない様だが」



(本当に様子が変だな。レアさまのご招待を断るのはあまり良くないけど、休ませた方が良いかもしれない・・・それに)



じっと兄の顔を見つめる。


やはり口の動きと合わない言葉がある。



(レアさまは、あまり俺たちのことを良く思ってないからな。ユスが嫌な思いをするかもしれないし)



「やっぱり一度戻ろう。ユスは部屋で休んでいると良い」



そう言うと、レクターは今来た方向に顔を向ける。だがユスターシュは腕の裾を掴んで引き留めた。



「にいさま、あの、ぼく・・・」



そう言いかけて、でもそこで言葉が途切れた。



もう一つの声が聞こえたからだ。


それは少し遠くから。でもはっきりと大きくユスの耳に届いた。



(やはり駄目だ。いくら妹が人質に取られているからって、こんなことーーー)



・・・なに?



途切れた言葉の続きを待つ兄から目を逸らし、ユスターシュは周囲を見回した。



(茶葉の出処を調べられたら、父にまで咎が科せられるかもしれない。いや、王族を害そうと言うんだ。一族にまで類が及ぶかも・・・)




「・・・っ」




ーーー 王族を害する・・・?




「ユスターシュ?」



誰もいない回廊の向こう側を呆然と見つめる弟に、レクターの気遣わしげな声がかけられる。



「・・・にいさま」



自分の身に何が起きているのか分からない。

なぜ突然に声が聞こえてくるようになったのかも。



でも。



「とうさま・・・ううん、ローハンにいさまのところにいきます」


「え?」


「レクターにいさま。ぼくをローハンにいさまのところにつれてって・・・っ」


「ちょっ、ユス・・・ッ?」



レクターは何かを言いかけ、だがある事に気づき口を噤む。



ユスターシュの瞳が、一瞬、灰色に光ったように見えたからだ。



(灰色・・・? いや、まさかな)



そんな兄の呟きが聞こえたが、その時のユスターシュに、まだそこまで考える余裕はなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ