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便利ですよ

「私を嫌いになっても離してなんかあげられないよ。だって番なんだから」



・・・ん?



「ヘレナも知ってるでしょ? 番同士は離れて生きられないんだ」



あの、ユスターシュさま、ちょっと待って。



何となくの確認で、ヘレナは心の中でそう呟いてみた。きっと返事をくれそうな気がしたから。



「・・・なに? もしかして話を聞きたくないとか?」



え、いや、あのですね。



「・・・うん」



どうしてこんな深刻な雰囲気になってるのか、不思議に思いまして。



「・・・うん?」



そして、なぜ私がユスターシュさまと離れるとか離れないとか、離さないとかの話になってるんでしょうか?



「・・・んんん?」



ユスターシュの腕がするりと解け、ヘレナの視界が広がる。


見上げると、ユスターシュもヘレナを見つめていた。眉尻をぐぐっと下げて。



その表情が、年上なのに何だか可愛いな、なんて思っていると。



「・・・」



無言。けれどユスターシュは少しムッとした顔をする。



可愛いって、褒め言葉ですよ?



「・・・男にはそうじゃない・・・って、違うでしょ。なんで平気な顔してるの?」


「・・・はい?」



うっかりと声が出た。


しまった、せっかく楽してたのに。



「楽って・・・ヘレナ、ちょっと反応おかしくない?」


「そうですか?」


「だって、ヘレナももう分かってるでしょ? 私はあなたの心の声が聞こえるんだよ? 普通、嫌がらない?」



ヘレナは首を傾げる。


まるで、何を言ってるのか分からないという風に。 

そして実際、ヘレナはこう返したのだ。



どうして嫌がるんですか? と。


もちろん、心の中で。



それから、ああ、と手を叩く。



なるほど確かに。


私の変な想像を見せられたら嫌になるかも。



「・・・っ、いや、あなたの想像はいつもとても面白くて、嫌がるのは私よりも寧ろ、心を覗かれた方で。つまり、あなたが」



私? 勿論、驚きましたけど。



その言葉に、分かりやすくユスターシュの眼が揺れる。



でも、私の心を覗いて、どんな馬鹿な妄想をしてるか分かっても、それでも好きだと言って下さったんでしょう?



「・・・っ」



なら、この先に嫌われる心配をしなくて済みそうで良かったです。



「・・・そんな風に、思うんだ」



あ、それに便利ですし。



「・・・便利?」



まるで珍しい生き物を発見したかの様に、ユスターシュはヘレナを凝視する。ヘレナは、何となく対抗する様に見つめ返した。


すると何故か、ユスターシュが赤面して顔を逸らす。



「・・・そんな風に見つめないで・・・いや、今はそんな事を言ってる場合じゃ・・・でも・・・はぁ、便利か。便利なのか、この力は」



例えば、私が海で遭難してもユスターシュさまなら見つけて貰えるんですよ。きっと、私が欲しがってた飲み物とか食べ物とかまでピンポイントで用意して。



ガッツポーズ付きで熱弁する。



「・・・」



あ、でも心の声が届かなかった場合、干からびて死んでしまいますね。どこまでなら離れてても聞こえますか?



「・・・そこが気になるんだ?」



生死に関わる事ですよ?

通じてるつもりが聞こえてなかったりしたら、私は海に漂うイカダの上でひとり寂しく死んじゃうんですから。



「・・・イカダに乗って海で遭難って、滅多にないと思うけど」



まあ、それはそうかもしれませんが。



ヘレナはうーんと首を傾げる。



でもですね、コミュニケーションは大事です。

ユスターシュさまに通じてると思って、実はそうでなかったとか、誤解の元です。

夫婦喧嘩って、コミュニケーション不足か誤解から始まることが多いんですって。



「夫婦、げんか」



ユスターシュがぽつりと溢す。



「夫婦喧嘩か・・・そうか」



そうして、ひとり頷いた。



「ヘレナは、この力を知っても私と夫婦になると・・・そう言ってくれるんだね」



その言葉に、今度はヘレナの方が目を丸くする。



当たり前です。だって私たちは番じゃないですか。



「番、そうか。ああ、うん、そうだよね。私がそう言ったのに・・・はは」



何故か泣き笑いの表情を浮かべたユスターシュは、けれど姿勢を正し、真正面からヘレナを見る。



「ありがとう。ヘレナは、いつも私の予想の斜め上を行くね。本当に得難い人だよ」



・・・褒めてます?



ユスターシュは、こくりと頷いた。



「大真面目に褒めてる。だって私は・・・5歳で裁定者の力を発現してから、いろんな人の心を覗いて来たからね。随分と嫌なものを見てきたんだよ」



ヘレナはうん?と首を傾げた。



・・・5歳?



「裁定者の秘密を教えてあげるって言ったでしょ?」



ああ、そうそう、そうでした。話が随分と逸れてしまったから、もう無しになったかと。



「・・・逸れたのは、主にヘレナのせいだから。まあいいや、ええとそうだな。実は私は、5歳まで銀髪銀眼で」



はい?



「その年までは、普通にただの王族だったんだよ」



・・・普通にただの王族。



いや、今はそのワードに反応している場合ではない。


つまり、5歳の時に銀髪銀眼から灰色の髪と眼に変わった、と。



「そういうこと。色の変化はまあ徐々にだったけど、能力の方は・・・割と突然だったな」



そう言うと、ユスターシュはどこか遠い目をした。


先ほどの反応からして、きっとその能力でたくさん嫌な思いをしたのだろうか。



「まあ、そうだね。実際、この能力が発現したのは、そういう嫌なことを知る為だったんだから」




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