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ふりふりドレスの刑


その後、使者たちからの報告という形で、ヘレナとユスターシュは宰相たちと共に話を聞いた。



だがそれはどうやらただの名目で、ラムダロス伯爵家の反応をヘレナに伝えるのが目的だった様だ。



その使者によると、知らせを直接聞いたのは伯爵夫妻のみ。ロクタンはその場にいなかったそうだ。


ラムダロス伯爵夫人は・・・まあちょっとアレな性格だが、伯爵の方は、ラムダロス家では一番まともな人だ。

伯爵は静かに拝聴していたが、夫人は色々と使者を質問責めにしたらしい。

一体どんな質問をしたのだろう。実はヘレナはそこがとっても気になったのだが・・・



「後は王家で対応するのでしょう? 不快な内容をわざわざヘレナに知らせる必要はありませんよね?」



と、ユスターシュが報告を遮った。


不快な内容、そうきっと不快なのだ。あの夫人が言うことならば。

いや、王家の使者にまでろくでもない事を言ったりしないだろうと思いたいのだが。


国王も宰相も、それにもちろん使者たちもユスターシュの言葉に反対しない。

なにせ裁定者の言葉だ。その彼が、ヘレナに聞かせるべきではないと判断したのなら、きっと聞かない方がいいのだろう。



「大丈夫だよ、ヘレナ。何も心配はいらないから」



だが、ヘレナにたとえ不安があったとしても、麗しの番がキラキラしさを2倍増しにして微笑みかければ、あっさりと吹き飛んでしまうものだ。そう一瞬で、木っ端微塵にパラパラと。




それにしてもロクタンめ、とヘレナは思う。

お布令の使者が来た時にそこに居ないとは、相変わらずの傍若無人ぶりである。


王家からの使者なのだ。本来なら後継であるロクタンも当然同席するべきだった。


25歳の健康男子、もうとっくに子ども時代は終わったというのに、未だに子どもの気分が抜けない困った奴である。


その場に居なかったのも、たぶん前日に夜更かしして起きられなかったとか、そんな適当な理由に違いない、とヘレナは考察する。


伯爵は大人しい人だから何も言わないし、夫人はロクタンの言うことを何でもかんでも肯定する。

ロクタンを教育する人があの家にはいないのだ。しかも、本人は自分のことを世界で一番出来る男だと信じているから、最早つける薬がない。



ガツンと言ってくれる人が周りに一人でもいれば、せめて早寝早起きくらいは身についたかもしれないが。



ふ〜んだ。そういうのを自業自得って言うのよ。



ついこの間まで、そうつい昨日まで、ヘレナは危うくロクタンの全てを丸投げされる所だった。


その恨みだろうか。ラムダロス伯爵家の事を考えるとついぼやいてしまう。そして、むくむくと妄想が湧いてくるのだ。


たとえば、ぴらぴらフリフリのドレスを用意して脅かしたらどうだったろう、反省して早起きするようになるのではないか。


侍女長が眼鏡をキランと光らせて、こう言うのだ。



「坊ちゃま、朝でございます。これでもう3度目です。起きないと今日のお服はこれになってしまいますよ」


「嫌だ、まだ眠い」


「仕方ありませんね。それでは失礼つかまつります」


「うわぁっ! 何をするんだ、ブリギッタ!?」


「寝坊すけの坊ちゃまには、ドレスぴらぴらフリフリの刑でございますっ!」


「ああああぁぁぁ! なんてことだ! この僕が、ピンクのふりふりレースのドレスを着させられるなんて・・・っ!」


「ほほほほほ、坊ちゃまがお悪いのでございますよ。きちんと決められた時間に早起きしないからこうなるのです。いいですか、坊ちゃま。明日も早起き出来なけれは、今度はイエローのふりふりドレスを着てもらう事になりますよ」


「分かった、分かったよ! 明日からはちゃんと早起きするからっ! だからぴらぴらフリフリの刑は勘弁してくれ~っ!」



それからロクタン坊ちゃまは毎日、早寝早起きするようになりましたとさ。


みたいな感じで、丸く収まるのではなかろうか。







「ふふっ」



そんな事を考えていると、頭上から楽しげな声が降って来た。


顔を上げれば、ユスターシュが顔を綻ばせ、ヘレナを見つめている。


不意打ちの笑顔、しかもかなりの近距離に思わずヘレナが赤面すると。



「二人で何やら楽しそうだな。しかし、ユスがそんなに楽しそうに笑うとは、番とはやはり大した存在なのだな」



陛下の言葉に、ヘレナは首を傾げる。


不思議なことを言うものだ、ユスターシュはいつも笑顔なのに、と思ったのだ。

だが、何故かこれに宰相も同意する。



「全くです。ヘレナ嬢といる時のユスターシュさまは、本当によくお笑いになりますからなあ」



ん? それはどういうことだろう。

その言い方ではまるで ーーー



「当たり前でしょう?」



ユスターシュはおもむろにヘレナの肩を抱き寄せ、そのにこやかな微笑みをヘレナに向ける。



「ヘレナは私の番ですからね。側にいてくれるだけで幸せな気持ちになって、私も自然と笑みが溢れてしまうのです」


「な・・・っ」



その言葉に、周囲はおおっと歓声を上げる。


褒め言葉を貰い慣れていないヘレナが顔を真っ赤に染める中、周囲の観客たちは勝手に盛り上がっていくのだった。



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