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三時間目 love your 5052

 趣味で工作を嗜んでいる。と言っても社会的な工作ではなく図画工作のほうだ。いたって健全。RC飛行機やキャンプグッズなんかを自作したり、家の中でちょっと不便を感じた時にそれを解消する便利グッズを作ったり。


 もちろん非合法的なものも作ることは可能だが、チキンな僕はそんなことはしない。可能だとわかった時点で満足することにしている。


 それから自作することによって既製品より高くて使い勝手の悪いものが出来上がるのは日常だ。たしかに完成品だけ見れば既製品より安いことも多いのだが、それまでの試行錯誤にかかった時間や費用を考えるととてもじゃないが安いと言えるものではない。趣味とはそういうものだ。


 その工作に於いて接着剤はほぼ必ず使うアイテムだ。僕はライブ用の衣装もたまに作るのだが、針仕事は得意ではないので布用接着剤で全てどうにかしようとしておかしなことになりがちだ。他にも難接着素材として有名なポリプロピレンもよく使うので専用の接着剤の用意もある。


 中でも2液混合型エポキシ樹脂系接着剤の使用頻度が高い。接着可能なものであればかなり強固に接着できる上に水や熱にも強い。木工用ボンドのように水分が揮発したりすることもないのでパテ的な使い方もできたりする。非常に便利だ。


 ところで実は僕は工作だけでなく音楽も嗜んでいる。というか音楽家が本業で講師が副業、工作が趣味といった位置付けだ。


 音楽の中でも特にポップスと呼ばれるジャンルでは大抵歌があり、そこには歌詞が存在する。


 ポップスの歌詞は恋愛をテーマにしがちだ。ほぼ恋愛のことしか歌っていないアーティストも存在するほどだ。仕事で作詞まで手掛ける時、恋愛モノというオファーがあれば僕もそういった歌詞を書いたりする。


 萌え萌えのメイドさんがあの手この手でご主人様の気を引こうとする歌詞を書いて、歌い手さんに渡すための仮歌を僕が歌って録る。野太いおっさんの「ごしゅじんさまああぁぁ」という絶叫が入った曲が歌い手さんの手元に届くのだ。まじごめん。


 で、この妄想恋愛脳とでも言うべき思考でエポキシ接着剤について考えてしまったことがある。


 どういうことかというと、まず接着剤なのでちょいと刺激臭があり目に染みる。これを「瞳が潤んでいく」と表記するともう恋愛に寄っていく。明らかに身体に悪いので脳が危険信号を発するのだが、この危険信号というワードもだいぶ恋愛ソングだ。


 まだエポキシを知る前のこと、どうにも接着できずにガラクタとして部屋に残された鋭利な破片。諦めかけていた僕を救ってくれたのはエポキシ接着剤だった。今なら元カノとうまくやっていける、そんな気持ちとよく似ている。


 A液とB液を混ぜると化学反応で発熱するのだが、僕の中では再び接着できる喜び、その胸の内の炎の発熱だ。熱くなる接着剤、熱くなる僕の想い。発熱がシンクロしていく。


 簡単に混ぜると言ったが、極上のエポキシでは混合率が1:1ではなかったりする。お手軽なものはわかりやすく1:1なのだが、僕がよく使うエポキシは100:38というとても中途半端な混合比だ。これを守らないと熱くならないどころか固まりもしない。


 わずかな違いが上手くいかずにくっつかないというのも恋愛とよく似ている。いやもうほぼ恋愛だ。


 計量と混合がきちんとできていればあとは固まる前に接合して固定しておけばいい。だがその混合液にうっかり触れてしまうことがある。もともと強力な接着剤なのでそれを払拭するのはかなり大変な作業となる。


 指先が触れてドキッとする、それを払拭するのはほぼ不可能、やはり完全に恋愛だ。


 B液視点で考えてもいいだろう。A液に思いを馳せるB液はシャイボーイ。謙虚に38%ほどだけでいいので僕を受け入れてください、と告白する。そんな陰キャなB液くんだがA液ちゃんは密かに想いを寄せていたので喜んで受け入れる。


 A液とB液が溶け合い組んず解れつしつつ暖め合い、24時間経過した頃にはひとつになってもう離れることはできない。いや、もう離さないと誓ったのだ。その決意はとても硬いだろう。


 しっかり混ぜて24時間の硬化時間をなるべく高温の環境で待てばガチガチに固まる。それだけのことだが感情移入してみるとこういったストーリーが見えてくる。


 基本的にエポキシ接着剤というのは透明もしくは若干黄色味ががった透明だ。だが経年変化で黄色が強くなり、徐々に琥珀色に近づいていく。


 いつか時が経った時、その琥珀色の思い出を懐かしむだけでは寂しいだろう。だからB液は何度でも言うのだ。38%だけでいいから僕に微笑んで、と。

本作と同名のアルバムが各種配信サービスで配信されております。

よろしければ是非!

↓紹介動画はこちら。

https://youtu.be/pEREp-KosvM

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