隠蔽工作 【月夜譚No.122】
一芝居打ったところで、彼には全てお見通しなのだろう。彼は勘が良いから、隠し事がまるでできない。
しかし、困った。今から彼がここに来るというのに、この状況を彼に見せるわけにはいかない。
自室のフローリングの約半分が、散らかった文房具や調度品で埋まっている。歩けないことはないが、足元を見て歩を進めないと何かを踏み潰して痛い思いをするだろう。
そんな部屋の中央に佇んだ青年は、顎に手を当ててうーんと唸った。
この状況を作ったのは、何も意図してのことではない。突発的に物事が起こり、その結果としてこの惨状が生まれた。
こういったことは初めてではあるが、青年の心は意外にも落ち着いていた。それよりも、彼をどうやってこの部屋に入れないようにするかが問題である。
如何に嘘を吐かずに彼をここから遠ざけるか。如何に彼と顔を合わせずに事を進めることができるか。いっそのこと、約束を忘れたふりをして出かけてしまおうか。
ぐるぐると考えている間にも、約束の時間は刻々と迫ってきている。しかし焦ることもなく、青年はゆっくりと思考した。
ベランダに続く窓の下方――そこに倒れた知人の死体を睨みながら。