◆解説◆
あとがき代わりのおまけ解説です
ご興味のある方はどうぞー
【解説】
古今和歌集4巻・秋歌上169番歌 藤原敏行朝臣
〈秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる〉
〈あききぬと めにはさやかに みえねども かぜのおとにぞ おどろかれぬる〉
作中の歌は立秋に詠んだ歌と言われています。
2017年の立秋は8月7日とのこと。旧暦だと6月の後半にあたります。
は、早い…!
このお話の頃は10月中旬なので、までこさんは作中にある通り、ふいに感じた秋らしさにこの歌を思い出したのでしょう。
このお話は元々別サイトの「美味しい秋の収穫祭」をテーマに書いた作品なのですが、作者的にはなんとか秋中に公開しようと大急ぎで書き上げて、作中のような秋日和な日に公開が出来ました。翌日から長雨&低気温が続いてしまったのでまさしくギリギリセーフといった具合でした(笑)
藤原敏行は他にはこんな歌が有名ですね。
百人一首・18番歌
〈住の江の 岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ〉
〈すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひち ひとめよくらむ〉
【解説】
万葉集・10巻2233番歌 作者不明
〈高松の この峰も狭に笠立てて 盈ち盛りたる 秋の香のよさ〉
〈たかまつの このみねもせにかさたてて みちさかりたる あきのかのよさ〉
お待たせしました万葉集の美味しい歌です!番号も2233で覚えやすいですね。
ふっふっふ…なんとこの万葉素人な作者が一目見るなり秋の歌だと見破ることが出来ました!他の意味はさっぱりでしたけどね!
〈盈ち〉は「みちる。みたす。あふれる。」という意味だそうです。お話を書いた後に知ったのですが、〈満ち〉とか〈みち〉とか書かれていることもあるようですね。
最初から〈満ち盛りたる〉と書いてくれればアトソン君にももうちょっとわかり易かったでしょうに、難易度上げて来るとは、までこさんたらいじわるですね。だがそこがいい。
いかにも美味しそうないい歌ですが、この話を投稿した翌日に偶然土鍋炊きのまったけご飯を戴く機会に恵まれたのは、この歌のご利益でしょうかねぇ。
【解説】
万葉集16巻3834番歌 作者不明
〈梨棗 黍に粟嗣ぎ 延ふ葛の 後も逢はむと 葵花咲く〉
〈なしなつめ きみにあわつぎ はうくずの のちもあわんと あうひはなさく〉
和歌の面白く特に難しい要素が詰め込まれた歌といえるでしょう。
この歌は一つの言葉に音の似た複数の意味が掛けられた掛詞を用いています。
「ポイントカードはお餅ですか?」のような言葉遊びですね。このような二重の意味が、ほぼすべての単語にそれぞれあるわけです。
その上言っている事とは逆の感情で解釈される場合もあります。「末永く爆発しろ」と言ったらやっかみ半分、祝福半分の意味を持つのと同様です。ツンデレ理論です。
更には掛詞のどちらの言葉の意味も解釈に取り入れたりするもんだから、複数の意味とその捉え方・繋げ方で人によって全く違う多くの解釈が生み出されるという面白おかしい現象が起きる訳なのです。
ちょっとGoogle先生で調べてみるとサイトごとに違う訳が山ほど出てきて頭がこんがらがること必至です(笑)
ちょっと訳の一例を載せてみましょう。
梨棗 ⇒ 離早(早々に離れた)
梨棗 ⇒ 離早(愛している人と離れている)※中国の古典より
黍に粟つぎ ⇒ 君に逢わずに
延ふ葛の後も逢はむと ⇒ 一度離れた葛の蔦が再び出会うように
梨棗黍に粟つぎ延ふ葛の ⇒ 次々と作物が実りを迎えるように
梨棗黍に粟つぎ延ふ葛の後も逢わんと ⇒(これらの作物が実り)季節が廻った後に逢いましょう
葵花咲く ⇒ 逢う日は(花が咲くように)嬉しい
歌の前半を作物の梨棗と読むか、離早と読み取るか。
それだけでも歌の印象はまるで変わって来てしまいます。
これだけの仕掛けが施された和歌ですが、作者が誰かは伝わっておらず、どういう思いを込めてこの歌が詠まれたかの真相も判っていません。
これらをどう組み合わせて解釈するのが正解なのか――万葉素人の意見ですが、きっとどれが正しいというものはないのではないかと思います。
あえていうなら、「こんな解釈だってある」と自分なりの解釈を見つけることが一番の楽しみ方なのではないでしょうか。
物書きの端くれとして、たった一文でさまざまな解釈を楽しむことが出来る見事な仕掛けをつくったこの歌人には尊敬すら覚えますね。
ところでまでこさんが最後にこの歌を出したのは、本心を反映してのことだったのでしょうか。それはこのお話を書いた私にも教えてくれませんでした。
万が一アトソン君が歌の意味を調べても今頃解釈の多さにやっぱり頭がこんがらがっている事でしょうね。
どちらにせよまでこさんには「ただの例題に過ぎぬさ」と微笑まれてしまうだけなので、真相を計り知ることが困難というところまで和歌となぞらえているまでこさんにはやっぱり敵いませんね。




