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第1章 第8節『神と紫の刃』

(……なんだぁ、これはよぉ!!)


 マルティコラスは辺りを見渡すが、霧が深く、何も見えない。


(しゃあねぇ、こうなったら全方位を俺の羽根で……)


 彼女は翼に力を込める。


 ーーヒュッ


 刹那、紫の霧が彼女を中心として収束した。

 霧は刃となり、赤い獅子の全身を切り刻む。


「うっ、うおおおおおおおおおおお!!」


 マルティコラスは絶叫する。

 霧は消滅し、彼女は地面に倒れた。


 一瞬の出来事にオリエは言葉を失っていた。


「うむ。悪魔は無事、粛清できたようだ……。我は、とても嬉しく思う……」


 茂みから、低くゆったりとした男の声が聞こえる。


 オリエがそちらを見ると、黒い服に身を包んだ中性的な銀髪の青年がこちらに近づいてきた。


 青年は、オリエのそばまで来ると、


「……そなた達。無事か?」


「あ、あぁ……。俺は無事だが……」


 予想外の出来事に呆気にとられていたオリエだが、我に帰った途端、ラパンのことを思い出す。


「ラパン! あ、あの、俺の連れが……」


「……あぁ。分かっている。暫し待ってほしい……」


 銀髪の男は、倒れているラパンに近づく。オリエも後からついていく。


 銀髪の男は、ラパンの傍でしゃがむと、治癒の魔法をかけ始めた。


(すげぇ……。みるみるうちに傷が塞がっていく……。前にラパンが使ってた治癒魔法とは段違いのスピードだ)


「うむ……。これでよし。表面の傷を塞いだに過ぎないが、食事をとり、血液が作られればじきに体調は回復するだろう」


「あ、ありがとう。あんたは一体……」


「我か? 我はシャンソン。シャンソン・ド・ロア。仕事を終え、家に戻るところだったのだが、何やら獣の唸り声が聞こえたものでな。余計なことをしてしまったかもしれぬが……」


「いやいやいや! あんたのおかげで助かった! ありがとう! ……俺の名前はオリエハジメだ。よろしく頼む」


「ふむ……。ハジメ……か。珍しい名だな。そなたの助けになったのであれば嬉しく思うぞ。……そなたの連れ……」


「あぁ、こいつはラパン。ラパンテッド」


「ラパンテッド……だな。ふふ。私が尊敬する人物と同じ名とは、何か運命を感じるな」


「尊敬……?」


「うむ。私が尊敬する、この国の王子……」


 ーーガサッ


 シャンソンの言葉を遮るように、2人の後方から物音がした。


 2人がそちらを見ると、人型に戻ったマルティコラスが全身を血で赤く染め、わたわたと呻いている。


「はぁ……はぁ……くそ……が……くそがぁ……」


「な!? あいつまだ生きてんのか!?」


「だろうな。我は殺生はせぬ」


「え? そうなの?」


「うむ。だが、このまま捨て置いても、また誰かを傷つけるかもしれぬな。我はそれを望まない……」


 そう言いながら、シャンソンはマルティコラスに近づいていく。


「お、おい! 大丈夫なのか!?」


「案ずる必要はない」


 彼女の隣でしゃがんだシャンソンは、その首に手を当てると、手のひらから先ほどと同じ紫の霧を発生させる。

 霧は首を囲み、固まり、紫色の首輪となった。


「これでよかろう……。しかし、連れ帰るのに運んでいくのは少々面倒だ……」


 シャンソンは、マルティコラスにもラパンと同じ治癒魔法をかけ始める。


「おいおいおい!! そいつ回復させたらまずいんじゃないのか!?」


「問題ない。……よいか、悪魔よ。この首輪は先ほど貴様を切り刻んだ霧と同じものだ。貴様が我に従わぬ時、この首輪は貴様の頭と胴体を切り離すであろう」


(なにそれこわっ)


 オリエは、恩人ながらもシャンソンに軽い恐怖を覚えた。


「俺を従わせようってのか……? この……下界のクソ野郎……が……」


 マルティコラスは、息も絶え絶えになりながら銀髪の青年を睨みつける。


「そうだ。治癒魔法をかけているのは、連れて帰るのが面倒だからだ。自分の脚で歩け。悪魔よ……」


「俺は悪魔じゃねぇ! 神だ! マルティコラスだ!!」


 みるみるうちに回復したマルティコラスは、いつもの調子に戻っていた。


 立ち上がるマルティコラス。


「貴様が神……? 馬鹿も休み休み言った方が良いと思うが……」


「てめぇ!! ぶっころ……」


 首輪が刃にかわり、首に1センチほど食い込んだ。皮膚が裂け、血が滴っている。


「す……。く……そ……。俺が……悪かった……許してくれ……」


 無許可で“神降し”を実行しようとしたマルティコラスは、罰として直前までに回収していた命のストックを没収されていた。つまり、ここで死んだら後はない。


「分かれば良い。では、ついて来るが良い。家に帰る。ちなみにその首輪は我の意思と無関係に作動させることも可能だ。後ろから我を襲おうなどとは考えるなよ?」


「……!!」


 顔が青くなるマルティコラス。


(この人じつはドS?)


 オリエは、引きつった笑顔でシャンソンを見た。


「そなたも付いて来ると良い。ラパンテッドが眼を覚ますまで、我が家のベッドに寝かせておくとよかろう」


「まじか! 何から何まで悪いなシャンソン」


「なに、困ったものを助けるのに理由など要らぬ。人は助け合って生きていくものだ……」


 オリエはラパンを大事に抱きかかえると、シャンソンとマルティコラスの後をついていった。

ご覧いただきありがとうございます。


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますと書くモチベが上がります!


今回、男の娘分が足りません。男の娘に期待されていた方ごめんなさい。

次々回は男の娘分やや濃厚でいきますのでもう少しだけお付き合いいただければと思います。


次回は明日(4/25)18時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。

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