第4.5章 第3節『処刑人あるあるですよね、ししょー』
「かーっ! 辛気臭い村だねどうも!」
「そなた、少しは静かにできぬのか。道中の馬車の中でもひたすら喋り通しだったろう」
時は夕暮れ。側面から赤く染め上げられた、廃村同然の寂れた景観。
その小道を歩きながら、処刑人シャンソンと女商人デュバリーは軽口を叩き合う。
そのすぐ後ろから、処刑人見習いのアンヌが重い足取りで着いてくる。
(しかし、デュバリーの言う通り、酷いなここは。田舎に出向くことも多々あるが、ここは今まで行ったどんな田舎町よりも3世代は古いような雰囲気だ)
まるで成長することを諦めた様子がありありと伝わる街並み。しかしそれでいて、現状としてこの村が機能しているということに、シャンソンは底知れぬ不安を感じていた。
後ろにいる弟子を気遣おうと、首を回し、振り向こうとしたその時、彼のこめかみに軽い衝撃と痛みが走った。
「しょけーにんなんてしんじまえー!!」
たどたどしい鼻声は、子供のものだった。
首を戻し、その方向を見る。
穴の空いたグレーの上着を着た5、6歳ほどの少年と目があった。
少年は悪戯がバレた子供そのもののようにそそくさと逃げていく。
「……村の子供か」
「ししょー! 冷静に言ってる場合じゃないですよ! 血が、血が出てます!」
アンヌは彼にしゃがむようジェスチャーすると、傷口を覗き込む。
「あんのガキ! ししょーになんてことしてくれてんだ!!」
「子供のすることだ。大した怪我ではない」
怒りで顔を真っ赤にする弟子にそう言うと、彼は立ち上がりこめかみに指を当てた。
接地点が薄く光を発した直後、もうそこには血も傷痕も存在しなかった。
「治癒魔法かい。しかもかなり手練のようだねぇ」
デュバリーは手際の良さに感心しているようだ。
「治癒魔法は処刑人には必須のスキルだ。これくらいならアンヌだってできる」
「へぇー。あんたも中々やるんだねぇ、お嬢ちゃん」
彼女は、アンヌの頭を乱雑に撫で回す。
「ちょ、やめ、基礎中の基礎ですよそのくらいは」
「なんだぁ、素直じゃないなぁ。まぁでもそのくらいが可愛いってもんじゃないか。なぁ、シャンソンの旦那さんよ」
「……まぁ」
「な、ししょー……!!」
アンヌは勢いよく師匠を見る。直後、耳まで赤くなった自分の顔を隠すように、デュバリーの手を振り払った。
「2人ともやっぱ素直だわ。商売人には向かないだろうが、あたしは好きだよあんたらみたいなのは」
処刑人とその弟子は、じとっとした目で、豪快に笑う女商人を見る。
あんたに好かれても嬉しくない、という感情を隠しもせずに。
「しっかし、石投げてくるとはやっぱり物騒だねぇこの村は」
2人の視線など意にも介さず、デュバリーは言葉を続ける。
「それに関してはこの村どうこうではないさ。処刑人など、どこに行ってもこのような扱いだ」
人を殺す呪われた存在。処刑人に対する社会の認識は概ねそのようなものだ。
シャンソンは物心ついた頃から不条理な扱いを受けてきた。故に、この手の手合いには充分すぎるほど慣れている。
「ほーん。処刑人ってのは難儀だねぇ。まぁでも、お前さんそんな扱い受けてる割には捻くれてないってのは好感持てるよ」
「寧ろししょーはそんな扱いに抗いまくってますから。治癒魔法を使ってお金がない方のために無償で治療したり、処刑された方のために祈りを捧げたり。処刑人の地位向上のために頑張ってるんです。今度はガテムレックスさんという方と連携して、遺族の方の心のケアを……」
「それはまだ決定事項ではない。それにしゃべりすぎだ、アンヌ」
「なんだぁ、照れてんのかい旦那」
「……だまれ。我は先に宿に向かうぞ」
彼はデュバリーに視線を合わせず、村長から紹介された宿に向かって足早に歩いて行く。
「んじゃあ、今日はここまでかね。あたしゃもう少し村を見てから行くことにするよ」
「こんな村、何を見て回るんですか?」
「ハハハ。こんな村とはあんたも中々失礼なやつだねぇ。まぁなんだ、全体図を把握しとくと商売しやすいのさ、単純にね。観光目的で回るわけじゃあない」
「ふぅん。って、貴女も辛気臭いとか言ってたじゃないですか!」
「フハッ、それは違いない! お嬢ちゃんはあったかくして早めに休んどきなよ。ほら、お師匠さん行っちまうぞ」
デュバリーはアンヌの背中を叩いた。
「わっ。あ、ししょー! 待ってくださーい!」
彼女は師匠を追いかける。
(いいなぁ、若い弟子ってのも。今回の商売が成功したら、あたしも弟子でも取ってみるかな)
少女の小さな背中を見送りながら、女商人は目を細める。
「デュバリーさん! 暗くなる前には戻らないとダメですからねー!」
振り返った少女は手を振りながらそう言った。
無言で手をふり返した女は、少女が青年に追いついたのを確認して、脇の小道に歩き出して行く。
(そりゃあ無理な相談だよお嬢ちゃん。金を稼ぐことに関しちゃあ、手を抜かない主義なんだあたしは。……やるなら徹底的に、ね)
西日が生み出したグラマーな長い影は、薄暗い路地に消えていった。
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
新年一発目から遅くなりすみません……
廃村同然のルーアンに到着した一行。
ルーアンはバイオ4のあの村みたいなイメージで書いています。
次回は1/10(日)18時ごろの更新予定です!




