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幕間 『ラパンと蒼 -Similar people- 』

「あれ、ローズロッサ今帰り?」


 私が王都での買い物を済ませ、シャンソンさんの家に戻ってくると、庭先にいた金髪の男の子に声をかけられた。


「は、はい。ラパンくんは、何をしてるんでござるか?」


「僕は庭の水やりだよ。こっちの方はしばらく降ってないみたいだから、やっとこうかと思って」


 彼は、ラパンテッド・ランカスター。この王国の元第三王子なのだという。確かに、この金髪碧眼の青年からは気品のようなものを感じる。


「あ、僕もう少しで終わるから、この後少しお散歩しない? いい天気だし、風も気持ちいいし」


 ニコッと、柔らかい笑みを浮かべながら、彼は私に提案した。正直、すごく緊張する。なのであんまり気は乗らないのだが、


「せ、拙者で良ければ如何様にも!」


 断る方が怖いので、私はついつい了承してしまう。

 いつものことである。どっちを選んでも後から後悔するのなら、せめて相手を落胆させたくないという建前で、私はずっとこうしてきた。


「良かった。じゃあ、ローズロッサが荷物置いてくるまでには終わらせておくね」


「う、うん」


 多分、真っ赤になっているであろう顔を、荷物を持っていない左手で不自然にならない程度に隠しながら、私はシャンソンさんの家に入っていった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「実は僕、ローズロッサとお話ししてみたかったんだ」


 優しい木漏れ日の中を歩きながら、彼はそう言った。

 私なんかに一体何を? ただただ高まる緊張を無視して、平静を装う。


「な、何か話したいことがあるのでござるか?」


「うん……。あの、僕ね……」


 彼の声量が少し小さくなる。話しにくいことなんだろうということはすぐにわかったが、じゃあなんでそれを私に? 彼には私よりも付き合いの長い仲間が沢山いるのに。私はこの緊張の中でちゃんと答えられるだろうか。パニックにならないだろうか。


 なんて、私がぐじぐじ考えていると、意を決したように彼は言った。


「僕ね、自分が男の娘としてオリエくんと接してていいのかなって」


「おとこのこ……?」


 えーと。彼は男だけど織衛君のことが好きで、だからそういうことなのかな。同性として好きでいていいのかなってことを聞きたいのかな。


「あ、男の娘っていうのはね、"男の子"ではなくってね、おとこのむすめって書いてオトコノコって読むんだって」


「へ、へぇー。そうなんでござるか。……おとこのむすめ?」


「あはは。何のことかって思うよね。えーと、身体は男の人なんだけど、女の子みたいな格好をしたり、女の子みたいに可愛い人のことを言うんだって。オリエくんが教えてくれたの」


 織衛君が教えたということは、現代日本の文化なのかな。私がこっちに来たのは10年前だったし、世俗には疎かったからなぁ、初めて聞いた。


「あ、僕は自分のこと可愛いとか思ってる訳じゃないけど……」


「あぁいや、ちょっと考え事してて! それについて、否定の意味で黙ってた訳ではない……でござるよ!?」


 ここで、君は可愛いと思うよ、とか言えたらいいんだけれど、それはそれでなんか嘘っぽくなっちゃうかなぁ。本当に可愛いと思うんだけれど。


「ごめんね、気を遣ってもらっちゃって。それで、あの、今、迷ってるんだ」


「迷ってる?」


「うん。オリエくんとね、本当の両想いになれたことがすごく嬉しくて。だけど、だからこそこれからのことを考えて、自分の心を整理しとかないといけないのかなって」


 彼はおとなしい子だけれど、頭の中は忙しなく動き回ってるんだなぁ。


「オリエくんが、僕のことを男の娘って言ってくれたんだ。それまで僕は、自分のことを男でも女でもないただの変態だって思ってたから、すごく嬉しかった。自分というものにようやく自信を持てるかもしれないって。だけど、最近わからないんだ。男の娘は女の子みたいな男の人で、だけど、僕は女の子みたいに可愛くなりたいのか、それとも女の子になりたいのか、もしくは男であるオリエくんのことが好きだから、気に入られたくて女の子みたいになりたいのか」


 ちょっと早口。だけど言いたいことは伝わった。


「とかって考えてたらこんがらがっちゃったんだ。僕は何者としてオリエくんと接するべきなんだろう。……なんか、男とか女とか以前に、寂しいからってオリエくんに縋って安らぎを得ている子供みたいだなって、思ったりも……」


 それを聞いて、私は思った。彼は、道の途中にいる。きっともっと若い頃は、これを考えることすらできない所にいたから、今になってようやくそれを考えることができたんだ。

 自分とは何者なのか、という自らへの問いを。


「私のこと、少し話してもいいかな? 参考には、ならないかもしれないけれど」


「うん。教えて、ローズロッサのこと」


「私はね、男の子として育てられたんだ」


 彼は驚いた顔をしながら、小さく相槌を打つ。


「とはいえ、自分のことは女だと思ってたし、最初は男の人を好きになるんだと思ってたの。だけど、君も知ってる通り、私は女の子が好き」


 うん、うん、と、彼は大きな瞳で私を見ながら、話に聞き入っている。その視線に緊張する。でも、なんだか嫌じゃない。


「あべこべだよね。自分で言っててわけわからなくなってくるけど、女性が好きな、男性として育てられた女、それが私」


「僕と同じ、あべこべ」


「そ。だけど一言で言ってしまえば、なんのことはない、レズビアンなんだよ、私は」


「すごいなぁ、ローズロッサは。そんなにハッキリと自分を持ってて」


「そんなことないよ。自分がただのレズビアンなんだって腑に落ちるまで、色々考えることはあったし、今でもブレるときはあるよ」


 わかってるんだほんとはね。

 初恋のあの子には拒絶されてしまったけれど、元の世界にも肯定してくれる人はたくさんいたんだろうなって。

 だけど、それがわかってももう遅いし、私の対人恐怖はなくならない。


 それでもーー、


「そんなに難しく考えなくていいと思うよ。君は君だから」


 そう、私は私。自分にも言い聞かせるように私は彼にそう言った。


「僕は僕……」


「そうだよ。だからその時その時の感情を大切にして、織衛君に接すればいいんだと思う。その先に、ハッキリとした答えが見えるのかもしれないし、見えないのかもしれない。だけど、それが君ってことなんじゃないかな」


「そうか……そうかも。僕は僕のままでオリエくんに接すれば……。けど、これまではオリエくんが教えてくれた"男の娘"って言葉に助けられてきたから、これからどうしたらいいんだろう」


「その時は、ラパン君が頑張れるように織衛君が魔法をかけてくれたのかもね。だからこれまで頑張れたんだね」


「……うん。オリエくんはすごい魔法使いなんだ」


 織衛君を褒める彼の声は嬉しそう。だけど、その表情はなんだか暗い。


「僕、ずっとオリエくんに甘えちゃってたのかも。隣を並んで歩きたいとか言って、結局は」


「私は、甘えるのもいいことだと思うよ。自分が甘えたら、次は向こうに甘えてもらえばいいんだよ」


「そっかぁ。……そうだね、オリエくんにも甘えてもらおう。オリエくん、チャームがなくなってから、なんだか元気なさそうだったから」


 よかった。少し、表情が和らいだ気がする。


「あの……」


「どうしたの?」


「いや、ローズロッサの話し方。僕はそっちの方が好きだよ」


 あ。すっかり地が出てしまっていた。織衛君と話す時ですら敬語だというのに。

 ラパン君、話しやすいんだな。威圧感もないし、他人の在り方を絶対に否定しない人だって分かるから。


「そ、そうかな。ラパン君がそう言うなら、ラパン君の前ではこんな感じでいこうかな」


「うん! それがいいよ。なんだか自然だし……その、友達みたいだなって。この歳になって今更かもしれないけど、なんかローズロッサと話してるのって青春? みたいな感じするんだ。今更おかしいかな」


「そんなことないよ。いつだって青春はできるんだよきっと。……だって今してるんだから」


 青春、か。そういえば、あんまりそういうのは経験してこなかったな。リーちゃんと恋人としてそういう感じはあったけど、友達か……。


「ねぇ、ローズロッサ」


「なに、ラパン君?」


 少し躊躇いがちに、彼はある提案をする。

 頬の桜色が、遥か遠い故郷を思い出させる。


「あおいちゃんって、呼んでもいい?」


 私の本名。ちゃんと覚えててくれたんだ。


「もちろん。……私も、ラパンちゃんって呼んでもいい?」


「うん!」


 困り眉だけど、満面の笑み。

 彼の純粋さがそのまま表情に出たような顔。

 私もなんだか、心がほっこりする。きっと織衛君はこういうところも好きなんだろうな。


「えへへ……へ……ぅ、ううぅぅ」


「え、ど、どしたのラパンちゃん!?」


 堰を切ったようにどっと涙を流し始めた彼に驚き、私はフリーズしてしまう。


「だって、本当の僕を知っても、みんな優しい言葉をかけてくれるから……。なんだか、なんだかわからないけど……うぅ……」


 よしよし、っていうような、子供をあやす感じではないけれど、頭を軽く撫でながら気持ち優しく抱きしめる。

 常に緊張しっぱなしの私にこんな大胆なことができるなんて、ちょっとびっくり。


「男の子の方が多分大変だったんだね。女は男の服装できるけど、男はそういうわけにいかないから」


 彼は元王子だと言うし、本当はそれどころじゃない苦しみだったんだろうけど、あんまり立ち入るのも良くないかと思って、そんな風に慰めた。


「ひっぐ……女の子も、大変だと思うよ。だってほら……ぐすっ……あるでしょ、その、生理とか……」


 やっぱりこの子は優しいなぁ。泣いちゃうほど余裕ないのに。


「まぁ、うん。男になりたい女の子からしたら嫌だろうね。私みたいに男として育てられた女にとっても嫌だった、というか、幼少期は自分のこと男だと思ってたから、初めて来た時は情緒不安定にはなったかも」


「みんなきっとそれぞれ苦しみはあるんだね。僕の悩みがこれだったってだけで」


「そうなのかもしれないね」


 こんなに優しい子が織衛君に出会うまで、ずっと誰にも本当の彼自身を見せることができなかったなんて。


 彼はきっと、昼間に浮かぶ星のような存在だったのだ。こんなに綺麗な星なのに、誰もそれには気づかない。

 自分という存在すら見えずに、彷徨い、そうしてやっと薄暗い夜に転がり込んだ。


 そして、織衛君がそれを見つけたんだ。


「……あ」


 気づいたら、私の目頭も熱くーー。


「……え、あおいちゃんも……泣いてるの……?」


「ごめ……つい……」


「僕……いっつも泣いてばっかりだから……もう泣き虫は卒業しなきゃって……思ってたのに……。そんな、目の前で泣かれたら……うあ、ううぅぅ……」


 この後は、シャンソンさんの家に戻るまで2人で泣き腫らした。思えば、私にちゃんとした友達ができることなんて10年ぶりだ。しかも人生で2人目。


 私の新しい友人は、とっても優しくて頑張り屋さん。その分、色々悩みを抱えちゃうみたいだけれど、私もそういうタイプだから、仲良くやっていける気がするんだ。


 明日の朝、お化粧教えてあげるって約束したよ。それから今度、恋バナしようって。だからたくさん、貴女の話をしようと思う。


 ねぇ、リーちゃん。私もいっぱい悩んで戦って、そして胸を張ってあなたに会いにいくから。

 もう少しだけ、待っててくれたら嬉しいな。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「ラパン、目真っ赤だけど、なんかあったのか?」


 僕が家に帰るとすぐに、彼は心配してくれた。


「ちょっとあおいちゃんとお話ししててね」


「なんだ、仲良くなったのか? そーいや蒼さんも目のまわり腫れてたっけな」


 僕の彼氏は察しがいい。そんなところも好き。


「ねぇ、オリエくん。ぎゅってしていい?」


「今更わざわざ聞かなくたって、いつでもいいよ」


「じゃあ、ぎゅーっ!」


 口にも出しながら、僕は正面から彼の(あばら)辺りに腕を回して抱きついた。


「あおいちゃんが、ハグするとストレス減るんだよって教えてくれた」


「そっかそっか。……って、そんなにストレス溜まってたのか。気づかなくてごめん」


 あぁ、君はいつも優しい。本当に本当に好きだ。だけど、今日の目的は僕がオリエくんにときめくことじゃない。


「オリエくんがだよぉ。帰ってきてから、なんだかずっとテンション低いから」


「あ、あぁ、ごめん。やっぱ流石に緊張してるみたいだ。シャンソンも心配だし」


「オリエくん、明日デートしよう。王都まで行こう」


「いやそれは……」


 そう。僕は王都から追放されている身だ。きっとバレたら面倒くさいことになるだろう。


「そこでこれ! 認識阻害魔法付きメガネー! をガテムレックスから貰いました!」


「さすがガテムえもん! 変装とか、なんかパパラッチ気にしながらのデートみたいで燃えるな」


「そうそう! 高級ホテルに泊まってゆっくりしよう! ガテムレックスに頼んで予約してもらって」


 住民のいなくなったトラッシュタウンから金品を大量に譲り受けた僕たちは、現在ちょっとした小金持ちになっている。


 トラッシュタウン最後の生き残りであるあおいちゃんが、僕たちに譲渡してくれたんだ。


 ーーなんて、オリエくんを癒すための一泊王都ツアーは、こうして勢いよく幕を開けた訳なのだけれど。正直、僕の心臓はドキドキしすぎておかしくなりそう。


 いつもみたいな、オリエくんに対する恋愛感情の昂りも少しは含んでいるけれど、それよりも、不安と緊張の方がよっぽど強くて。


 あおいちゃんのおかげで、少し気持ちが楽になったのは間違いないし、僕は僕らしくってそう思ったけれど、それでもやっぱり怖いんだよ。


 だって、さ。


 オリエくん。君は優しいから、僕のこと好きだって言ってくれる。

 前と変わらない、なんならもっと穏やかな笑顔を僕に向けてくれる。


 でも、でもさ、君は、


 チャームが解けた君は、本来の君はーー、




 ーー異性愛者なんでしょう、オリエくん?

ご覧いただきありがとうございます。


今回は幕間でした。

いいなぁ青春。私も青春したいなぁ。

学生時代に青春! って感じの青春を謳歌できた人ってどのくらいいるんでしょうね?


私事ですが、レーザー脱毛なるものを受けてきました。

これがとても痛い。

輪ゴムで弾かれるような痛みですよって、施術してくれた方が言っていましたが、確かにその通り。

なので一発一発は、いたっ、いたっ、ってくらいなそこまでではない感じなんですが、それがバツンバツン連続で来るともう地獄でした。涙出ました。声も出ました。

バツン! あうっ! バツン! あうっ!

みたいな。

ラパン君みたいな子があうあう言ってるのは絵になるかもだけど、私の場合は地獄絵図だな。

やっぱり器がきれいな子は羨ましい!


という卑屈全開な後書きでした。

脱毛興味ある方は、医療脱毛おすすめですよ。術前の説明や術後のケアもしっかりしてたし。


次回は新年1/2(土)18時ごろの更新予定です。

それでは皆さん、一年間……はまだ連載始めてから経っていないですが、お読みくださりありがとうございました。来年もよろしければお付き合いください。良いお年を~♪

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