第4章 第19節『我が人生最初で最後で最高の仲間たちへ』
ーー俺の妹は成績優秀、スポーツ万能。兄目線ながら、見た目もそこそこ良かったと思う。
気立ての良さも相まって、まぁなんだ、絵に描いたような才色兼備のお嬢様、って感じだった。
なんつーか、自分との差に言ってて悲しくなってくるな。
とは言え、それは"なんも知らん他人"が"外から見た"場合の話だ。
実際のところは、そんな煌びやかなもんじゃなかった。
いつだかマルティにも話したが、うちの家庭ははっきり言って崩壊していた。
あぁいや、崩壊と言うと語弊があるな。あくまでシステムとしての家庭は存在していたから。
家庭というシステムを存続させていくための1つ1つの動作の中に、愛だの思いやりだのが存在していなかったことが問題だったのだろう。
まぁ結局、そんなシステムからは妹という高性能の歯車が欠け、今となっては俺という傍観者すらもいなくなった訳だが。
えーと、何の話だったか。あぁそうだ、俺の妹の話だった。
じゃあ話を戻そう。つっても、妹の話だって織衛家のシステム不良の話になるんだけれどもな。
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そんなクソみたいな家庭で育っても優秀だった妹は、外でお姫様であり続ける為に、家では奴隷のような扱いを受けていた。
世間体を気にする両親にとって、妹はマウント取りの道具に過ぎなかった。外で両親の知り合いに会う時なんかは、躾が行き届いた立派な娘としてどう話すのか、家で何度もリハーサルまでさせられていた。完璧な娘を演じる為に、彼女は彼女の人生を犠牲にしていたわけだ。
今でも記憶にこびりついているのは、ビリビリに破かれた、99点のテスト用紙や銀賞の読書感想文の賞状。飾られている陸上のトロフィーは、優勝した時のものだけ。
じゃあ果たして百点を取った時は褒めてくれたのか、優勝した時は褒めてくれたのか。いや、そんな光景、一度も見たことがない。ただ、何も言わないだけだ。それが当たり前だ、と言うように。
彼女は、ただ両親が"不機嫌"にならない為だけに、一生懸命、努力した。
毎日、夜遅くまで勉強し、朝は早起きして陸上の朝練。
プラスのために頑張るのならまだしも、マイナスをゼロにする為に頑張るような生き方をする妹のことが、早々にそれを諦めた自分には、正直、よくわからなかった。
無理がたたってか、彼女は体調を崩しがちになり、学校の成績も、陸上の成績も日に日に落ちていった。
妹への両親からの風当たりは当然増した。
親父からはこれまでもたまにあったが、母親までもがついに手をあげるようになった。
とはいえ、それは長くは続かなかった。両親は早々に諦めたらしい。彼女を見限り、何も言葉をかけなくなった。
そして、再び夫婦喧嘩を繰り返すようになった。
親父の怒声、母の金切り声。
結局、子供というのは親の精神安定剤なのだと、その時妙な確信を持ったことを覚えている。
妹に、虐められなくなって良かったな、と言うと、虐められていた方がマシだった、と彼女は答えた。
彼女は利口だから、きっとわかっていたんだろう。自分が頑張れば、両親が仲良くしてくれると。それが、家庭円満というものなのだと。
そんなわけあるか、と、今ならそう思う。だけど、当時の自分にとっては織衛家という小さな世界が全てだった。だから、わからなかったのだ。そんなわけがないということが。つまりは、自分も妹と同じ意見だった。それが、家庭円満ということなんだと思っていた。
ただ、妹と違かった点を挙げるとすれば、家庭円満なんてクソ食らえと思っていたということだけだ。
一緒にクローゼットの中に入り、体育座りで寄り添うことが日常と化してから、しばらく経ったある日、妹は言った。
兄さんは強いよね、と。
私はこれには耐えられないな、と。
その時は、ちょっと優越感を感じたのだが、今思えば、俺が強い、などということはあり得ないことだった。
自分は、何事にも無感情に徹していただけだ。何をされても、何があっても、感情を動かさないよう徹底させた。それが、自分の心を守る唯一の術だったから。だから、強いわけがなかったんだ。弱い心を、姑息な手で守っていたに過ぎないのだから。
だけど、その時はそれがわかっていなかった。もしこの時、俺がこれに気付いていて、それを妹に言えていたら、俺も弱いんだよ、って伝えられていたら、もしかしたら何かが変わっていたかもしれないのに。
その時、俺が妹に伝えた言葉は、お前もいつか強くなるよ、だった。
次の日、妹は死んだ。
妹はもうこれ以上、強くなれなかったのだ。
それとも、彼女の自意識が確立される前に両親が埋め込んだ爆弾が、その時になって爆発したのかもしれない。
"織衛家の常識を守る"という、有効範囲超極小の拙い爆弾が。
そんな爆弾、広い世界を知るまで余計な刺激を与えなければ勝手に解除されたはずなのだ。
そう、俺が、余計なことを言わなければ。
……理由はいずれにせよ、彼女は死んだ。
それに変わりはない。
妹のことは正直よくわからないままだ。
真偽を確かめたくとも、もうあいつはいない。
相手を理解しようという感覚が、愛が、思いやりが、両親同様、俺にもなかったのだろう。
だから、妹についての話はここまで。これ以上話せるほど、俺はあいつのことを分かっていない。
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その時からだ。俺の感情が完全に死んだのは。意図的に無感情、無感動に徹する必要もなくなった。熱意はなく、友人もいない。社会にもうまく馴染めない、馴染む気もなかった。結果、灰色の世界を生きることになった。
その世界をカラフルに染め上げたのが、ラパンとの出会いだった。
一目見て恋に落ちた。それからは、何もかも楽しくて、感情ってこんなに心地よいものなんだって、初めて知ることができた。
ラパンと幸せになるって、人生で初めての目標みたいなのもできて、あぁ、俺の人生がようやく始まったって思ったら、そういうことか。
この感情は、結局全部まやかしだったわけだ。最高神によってかけられたチャームのせい。
まるで道化だ。上げて、落とされて。
ラパンにもみんなにも、ずっと嘘ついてたって事になる。ここで、チャームを解かれたら、もうこいつらとは一緒にいられないよな。俺も一緒にいたくなくなるだろうし、何よりみんなの方から去っていくだろう。
じゃあ、みっともなく足掻いてみるか?
……いや、足掻いてチャームを死守してみたって、それは、これからずっと嘘をつき続けるって事になる。
それが、正しい事なのか?
違うよな。例え俺たちがバラバラになっても、幻想の上に成り立つ幸せなんかより、よっぽどマシだろ。
それにきっと、こいつらはバラバラにはならない。ラパンにも、マルティにも、ちゃんと仲間ができた。大丈夫だ。別に俺がいなくても、2人はちゃんと幸せになれる。
シャンソン、ラパンを頼んだ。あいつを任せられるのはお前しかいない。もっとラパンの良さについて、酒でも飲みながら語り合いたかったな。お前の家の祭壇に祀られてる天使ってラパンにそっくりだよな、とか。……いや流石に怒られるか。
ソレイユ、好きなように生き続けろ。下手に周りの言うことなんか聞くよりも、お前はそっちの方が輝ける。いつでも自分の感情に真っ直ぐなお前は、正直俺にとっては眩しかったよ。……あぁけど、人殺しはもうだめだぞ。
ガテムレックス、皆を助けてやってくれ。王都で開いてるお悩み相談室ってやつ、一回くらい行ってみたかった。貴方がいる限り、国の未来はきっと明るいんだろう。その明るさをラパン達にも当ててやってほしい。……ラパンを筋トレに誘うのはノーだぞ。
ローズロッサ、陰ながら応援はするよ。きっとあんたはここで生き残っても、リーヴィットの復讐を遂げようとするんだろう。同じ日本人のよしみだ。もし一かけらでも俺に誰かを助けたいと思う感情が残っていたら、それには加担しよう。……ござる口調は頼まれたってもうしないけどな。
マルティ、相棒解消だ。ごめんな。……悪い、謝罪の言葉しか出てこない。……楽しかったよ。この感情が幻でも、そう思った事実は消えない。お前なら俺の決意を理解してくれると信じている。……自分勝手でごめん。
ラパン、"愛している"。この感情はこの後すぐに"愛していた"になる。"幸せにしたい"も"幸せにしたかった"になる。俺には、お前を幸せにすることも、一緒に幸せになることもできなかった。だけど、ラパンの周りにいるのはもう俺だけじゃないから。皆、仲間だ。絶対にお前は幸せになる。絶対だ。俺は絶対にお前に対して嘘はつかない。
だから。
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だから。
オリエは、目の前の最高神をじっと見つめ、決意と共に言葉を放つ。
「解けよ。もう終わりにしよう、夢幻の世界は」
ご覧いただきありがとうございます!
投稿少し遅くなりまして申し訳ありません。
はじめてのスマホ投稿なので上手くできてるかな?
オリエ過去編でした。
異世界に来たことで、オリエは愛と思いやりを知りました。
だけどそれはマリーダがかけたチャームによる幻で。
幻とはいえ、感情を得たからこそ、大切な人たちに嘘はつきたくないと感じたオリエ。
次回、第4章クライマックス。
11/7(土)18時頃の投稿予定です。よろしくお願いします。
【11/7追記】
体調を崩し、入院することとなってしまいました。拙作をお読みいただいている皆様には大変申し訳ありませんが、少しの間、更新を延期させてください。
目処が立ちましたら、再度、この欄かTwitterでお知らせ致します。
【11/14追記】
退院しました!
本日17時頃、最新話を更新します。
お待たせして大変申し訳ありません。




