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第1章 第6節『男の娘と追放』

 翌日。王城。午前10時。


 オリエとラパンの2人は、再び国王を前にしていた。

 昨日と打って変わり、数え切れないほどの人々が2人の周りを囲んでいる。


「さて、よく来たな貴様達」


「どうも」


 オリエは、周りの人々を見回しながら素っ気なく挨拶を返した。


「本日は、ラパンよ、貴様の処遇を決める大切な日。貴様の行く末を案じて、これだけの人々が集まったぞ。愛されているなぁ、我が息子よ」


 そんなわけがないとオリエは思う。周りの人々は皆、蔑みの眼差しでラパンを見ている。

 罰を言い渡されたラパンが絶望する所を、意地汚い野次馬根性で見に来たのだろう。

 昨日すれ違った人々や、今の表情で容易に想像できる。


「……」


「返事もできない人間に育ってしまって、俺は悲しいぞラパンよ」


 ラパンはただ真顔で、真っ直ぐに、父である国王に視線を向けている。

 その表情には、もう、昨日のような恐怖も惑いも感じられない。


「……ふん。まぁよいわ。これより、第3王子ラパンテッド・ランカスターに一連の騒動の罰を言い渡す! …王族としての権利の一切を剥奪! 身分を第一身分から第三身分に降格! 王命無しに王都への出入りを禁ずる!」


 国王はあからさまなドヤ顔でラパンを見降ろした。


 だがーー、


「……」


 ラパンの表情は清々しかった。

 憑き物が落ちたように、晴れ晴れとした爽やかな目をしていた。


「な……」


 予想外の息子の反応に、国王は開いた口が塞がらない。


(何を驚いてんだか。そんなことが本当に罰になるとでも思ってんのかねこのおっさんは)


 オリエは心の中でため息をついた。


 ひそひそと周りの人々が発する不快な音が、2人の耳に届く。


(予想通りの反応を示さなかったことがお気に召さなかった、ってところかね?)


「出て行け! あんたはもう、ここにいていい人間じゃないんだぞ!」


「そうだそうだ!」「二度と顔を見せるな!」「さっさと出て行け!」「死んじまえ! ホモ野郎!」


 最初の怒鳴り声を皮切りに、次々とラパンに罵詈雑言を浴びせかける聴衆達。


「だってよ。行こうぜ? ラパン」


「うん。行こっか」


 そう言ったラパンは満面の笑顔だった。


 少しは強がりもあるだろう。けれど、それすらも出来なかった昨日の彼と比べれば、随分マシだとオリエは思う。


 オリエは、ラパンに微笑みを返し、国王に背を向け歩き始めた。ラパンも続く。


 2人が部屋から出ようとしたその時、我を取り戻した国王が口をパクパクさせた後、大声で叫んだ。


「国のために、魔獣討伐はしてもらうからな!! 命令があるまで、ディオンで待機していろよ!! 命令無視は重罪だからな!!」


「勘当した息子への最後の言葉が、仕事はくれてやる、ってさ。笑っちゃうな」


「どうにかして自分の下には置いておきたいんだね。笑っちゃうよ」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 城から出て、城門に通じる広い庭を歩く2人。


「おい。第3王子」


 後ろから、声をかけられた。

 2人が振り返ると、2人の金髪の青年がこちらを向いて立っている。


「いやいや、兄様。もうあいつは王子じゃないですよ?」


「プフッ。そういやそうだった。名もなき庶民様ってわけだ」


 ヘラヘラと笑う2人は、どこかラパンに似た風貌をしていたが、その他人を見下したような目付きや下卑た笑い方は似ても似つかない。


 この2人は王国第1王子のリオンテッドと第2王子のウルフテッド。ラパンの弟たちである。


「なになに、庶民様。それが新しい彼氏ってわけ? ……ぷふっ、だめだ、きっも」


「兄様ぁ。ボク、なんかこの庶民見てたらイライラしてきちゃった。ボコっちゃっていいかな?」


 ヘラヘラと笑いながら近づいてくる第2王子。


「お前、もう王都に入れないんだもんなぁ。最後くらい楽しい思い出を俺様たちに残してってくれや。へへっ」


 第1王子も2人に向かってゆらゆらと歩を進める。


「……なぁ、ラパン。さっきは流石に目立ったらまずいかなってさ、自重してたんだが……これは別にいいよなぁ?」


「うん。君の好きにして」


「りょーかい」


 ラパンの許可を得て、口角が上がるオリエ。


「ああん? 庶民の彼氏様がなんの御用ですかぁぁぁぁ??」


 育ちは良いだろうにどこで覚えてきたのか、メンチを切ってくる第2王子。


「その面きもいんで死んでもらっていいっすか〜??」


 第1王子も便乗してオリエの胸倉を掴んできた。


「立場の弱いもんにいばり散らしてマウントとって……それはそんなに楽しいのか……?」


 2人の王子の目の色が変わる。どうやら図星だったようだと、オリエは思う。


「はぁ? 頭沸いてんの? 王家にそんな奴はいらねぇんだよ。そいつがいるだけで、こっちの誇りまで穢される」


「そうそう。俺たちは国の未来のために汚物を排除したいだけさ。お前にわかる? 国を背負う重責ってやつがさぁ!?」


 まくし立てるように自分たちの主張を述べる2人。


「わからねぇよ。けど、お前らが本当に国のこと思ってラパンを責めてたって言うんなら、そんな誇りも重責も国そのものもクソ喰らえだ」


「お、お前、王家への反逆罪で……」


 第2王子が言い終わる前にオリエは2人を一瞥し、


「お前ら如きじゃラパンの足元にも及ばねぇよ」


 ギフトを、開放した。


「……"(オンブル)"、"(フォンセ)"」


「「!?」」


 瞬間。2人の王子の膝が笑い出す。オリエは、力なく胸倉を掴む第1王子の手を払いのける。

 そのまま尻餅をつく第1王子。

 第2王子は、膝を子鹿以上に震わせながら、失禁していた。


「あばっ……あばばばばばば……」


 第1王子は泡を吹いて気絶している。


「ひゅー……ひゅー……」


 第2王子は脂汗と涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、焦点の合わない目で仰ぐようにオリエを見ている。


 そして、地面に崩れ落ちた。

 地面に顔を伏せ、痙攣している。


「これが将来の王様じゃあ、どっちにせよこの国に未来なんてねぇな」


 吐き捨てるようにオリエが言う。


「最良の王子は、この俺がいただいていくぜ? 愚王様よ」


 侮蔑を込めた視線で城を見るオリエの腕に、ラパンは自身の腕を絡ませ、顔を見上げた。


「オリエくん。今日もかっこいいね」


 自分の好きな人はいつだってかっこいい。けれど今日は、いつも以上に彼が輝いて見えるとラパンは思う。


「あー、なんつーか……お前のためなら、いくらでもな」


 オリエは優しく笑いかけると、ラパンの頬は徐々に赤みを増していく。

 胸がいっぱいで言葉が出ないラパンは、嬉しいという思いを込め、彼にただただ微笑みを返す。


 穏やかな空気を纏った2人は振り返ることもなく、そのまま王城を後にしたーー。

ご覧いただきありがとうございます。


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますと書くモチベが上がりますし、最高に嬉しいです。


今回の話は、ラパンにとっては"追放"というより"解放"でした。

男の娘には自由に羽ばたいてほしい。


次の投稿はいつもと時間が変わります。明日(4/23)午前7時頃の更新予定です。早い時間ですが、よろしければご覧ください。

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