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第4章 第16節『銀髪眼鏡のお姉さんは喫茶店がよく似合う②』

 ローズロッサがヒュドラと苛烈な戦闘を繰り広げる、そのすぐ間際。


 オリエとラパンは、最高神マリーダと相対していた。


「ヒュドラ君も人の気持ちがわからないタイプだからねー。仕事はできる子なんだけど」


 ヒュドラへの評を口にしながらも、その視線はオリエに注がれている。


「さて、オリエ君。さっきも少し話したけれど、君に1つ提案があるんだ」


「……そういやそんな話だったな」


「そうだよ。邪魔ばっかり入るんだから。困ったもんだよ」


「ほとんどお前の仲間のせいだったと思うんだが」


「あーあー聞こえなーい。……なんて、冗談はここまで。いい加減話を進めたいから、邪魔しそうな不穏分子にはご退場いただこうか」


「不穏分子……?」


 頭を支えるのすら面倒くさいといったばかりに、投げやりに首を曲げたマリーダは、本日3度目の指パッチンをする。


「……え? ちょ……オリエくーー」


 指が弾かれた瞬間、ラパンの身体は光に包まれた。


 ラパンは身体が透け始めたことに驚き、オリエに手を伸ばそうとする。しかし、彼の名前を呼びきる前に、その姿は消失した。


「……お前……!!」


「そんな怖い顔しないでよ。街の中に適当に飛ばしただけさ。これでようやく、ゆっくり話ができそうだね、オリエ君」


 屈託のない笑顔だった。その顔は、信用に満ちていると、オリエにはそう感じられた。

 無条件に信じている"信頼"とは違うが、少なくともこちらが敵対の意志を示さなければ、友好的な態度を崩さないだろうと信じられる程度には、最高神はオリエに対して"信用"の目を向けていた。


「……提案ってのは何なんだ」


 笑顔のまま、彼は言った。


「私と組んで、世界征服しないかい?」


「----------は?」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 まばゆい光が消失したかと思うと、ラパンの目には今にも泣きだしそうな曇天が映りこんだ。

 近い。明らかに、さっきまでの空との距離よりも、近い。


 そこが、街の上空50メートル付近だと気づいた時には、彼は全身に世界からの無慈悲な重力を感じていた。


「ああああああああああああああああああああ!!」


 あまりにも急な出来事すぎて、翼を広げる余裕もなく、頭から地面に落下していく。


「やだやだやだやだやだ死にたくない死にたくない死にたくないよ……助けて……オリエくん……!!」


 地表まで残り15メートルというところでようやく光の翼を広げるも、勢いが止まらない。

 彼は、死を覚悟し、目を強く閉じた。


(オリエくん…………!!!!)


 ピタッ。と、身体が静止した。

 恐る恐る目を薄く開けると、数センチ先に煉瓦で舗装された地面があった。

 垂れた前髪が、それに軽く触れている。


「はぁ……は……はぁ……」


 自分は生きている。が、あまりにも死が目前だったことを実感し、汗が噴き出す。

 性器の収縮に気づき、内股になり、膝をこすり合わせた。なんだか下着の位置的に心地が悪い。


「よかった。間一髪だったみたいね」


 声の先に視線を向けると、長身の銀髪の女がそこに立っていた。


「え……と……」


「私はシルフィード。オリエ君の友達、かな、一応。そして最高神マリーダ君の恋人でもあります」


 彼女は腰に手を当て、どや、と胸を張っている。


「????」


「まぁとりあえず、いつまでもそんな恰好なのもなんだから。えいっ」


 シルフィードが右手をラパンに向けると、ラパンの身体ははふわっと浮き上がり体勢が整えられた。

 脚から、ゆっくりと地面に降りる。


「あ、ありがとう……」


「どういたしまして。じゃあ、折角出会ったのだし、一緒にお茶しない? 美味しいサンドイッチがあるのよ」


「サンドイッチ……って何……?」


 ラパンは、急にお茶に誘われたことよりも、そのサンドイッチなるものに興味を示した。


「え、知らないの君!? それは人生損してるよー。お姉さんが奢るから、食べましょう! ね!?」


「あ、でも、オリエくんを助けに行かないと……」


「しばらくは大丈夫だと思うけど。彼のこと殺そうとしてる訳じゃないみたいだし。それに、最高神の秘密、聞きたくない?」


「最高神の秘密!?」


「そ。お姉さんとお茶してくれたら教えちゃおうかなー」


「し、知りたい! する! お茶します!」


(やった! これで敵の情報掴めたら、オリエくんの役に立てるぞ……!!)


(え、こんなにすんなり!? 大丈夫かなこの子……)


「じゃ、じゃあついてきて。こっちの建物の2階だから」


「は、はい!」


 シルフィードが先導するために後ろを向く。


 直後、ラパンは自らのズボンの正面に手を突っ込み、下着の位置を直したーー。


「……ふぅ!」


(よかった、バレずに直せた!)


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 とある喫茶店の2階。2人掛けのテーブル席にラパンとシルフィードは座っていた。

 テーブルの上には、サンドイッチが乗った皿と、アールグレイが注がれたティーカップが2人分置かれている。


「これがサンドイッチ……。なんか、"クレモワール"に似てる……」


 クレモワール。なんでも、アヴニール王国の貴族であるクレモワールの先々代当主が、カードゲームしながらでも食べられる料理を作らせたのが始まりだからそう呼ばれている、とラパンは認識していた。

 元従者のシャルロが現在仕えている貴族が、そのクレモワール家である。


 当然、ラパンとしてはそんなものは見たくもなかった。


「そうね。こっちの世界だとそう呼ぶみたいね。私やオリエ君が元いた世界だとサンドイッチって言うのよ」


「向こうの世界にも同じものがあるんだ!?」


「あら、思ったより食いつきがいいのね」


「オリエくんの世界のことだもの……」


 混じりけのない純粋な瞳が、シルフィードを見つめている。


「ふふ。……そうね。じゃあ、これはどうかしら。この世界と、あっちの世界。魔法の有無という大きな違いはあるけれど、文化や技術の発展の方向性は似通っているのよ。だから、名称は違うことがあっても、基本、同じものが存在していることがほとんどなの。魔法だって万人が使えるわけではないから、ある種当然と言えば当然かもしれないけどね」


「じゃあ、ほとんど同じような世界なの?」


「最終的にはそうなるかもね。けれど、今のところは速度が違いすぎるわ。向こうは魔法がない分、封建的な価値観を打破しようとする意志が強いし、ある種、こっちよりも競争意識が蔓延ってる世界だから、進歩が速いのよ」


「競争意識……。なんかあんまり魅力的じゃないなぁ……」


「一長一短ってとこかしらね。その分、魔法が使えなくても、発展している国なら生活の質はかなり高いわ」


「ふーん。この世界もそこに向かっているのかなぁ」


「……概ねそう思う。そもそも、文化や技術の種は、マリーダ君があっちの世界からこっちの世界に持ってきたものだから……」


「最高神が!?」


「そう。あのころは、こっちの世界の人たちは、まだかなり原始的な生活をしていたの。魔法が使える人間がその他の人々を虐げる世界。見てくれは人間でも、彼らの心は獣そのものだったわ」


「それを最高神が変えた……」


「そうね。彼は当時から世界最高の魔法使いだったから、彼がもたらした文化、技術、そして国や組織という制度の提案にみんな従ったわ」


「じゃあ……最高神はいい神様なの……?」


「少なくともその時は良かったのかもしれないわね。人々が人としての心を手に入れることが、秩序ある社会を運営することが、あんなことを引き起こすなんて、彼も思わなかったのでしょう」


「あんなこと……?」


「少数派の排斥よ」


「……ぁ」


「彼は"世界最高の魔法使い"ではあったけれど、社会的な制度が整備された時、"世界最高の権力者"ではなくなっていた。秩序を重んじるようになった人民は、自分たちと違う存在を迫害し始めたの」


「それは……つまり……」


「そう。貴方が思っている通りだと思うわ。魔法を使えるものは、大多数ではなかったけれど、決して少数派ではなかった。だから、彼が迫害された理由、それは、"同性愛者"だったからよ」


「……っ!! け、けど最高神は、世界最高のーー」


「世界最高の魔法使い。確かにあの時、彼は自分の魔法で状況を打破することも出来たはずだった。だけど、自分が良かれと思って世界を変えてしまったことに対しての責任感を持ったのでしょうね。その世界を再び変えるのではなく、新たに神の国を、自分の国を創ることにした」


「そして……絶対に自分を裏切らないように、チャームを……」


「彼は、ただ愛されたかっただけ。そのままの自分を愛してほしかっただけなのよ。世界最高の魔法使いとしてではなく、ただの個人としてね」


「……そうか。最初に持っていた権力も、あくまで能力によるものだったから……」


「彼はね、自分という存在に折り合いをつけられない。価値を置くことができない。そうすることを許されなかった。最初は、神の国の国民から慕われて楽しそうだったわ。けれど、他者からの承認じゃ、結局満たされることはなかった。彼の欲望はエスカレートしてきている。……魔法の力を使ってでも、世界の目をすべて自分に向けようとしている」


「世界……征服……。だけど、僕は……分かるよ。その気持ち。もしオリエくんがこの世界に来なくて、僕に世界最高の魔法の力があったら……多分、同じことをするかもしれない」


「……貴方にとってのオリエ君には、私はなれなかった。女を選んじゃったからかな……。迫害されている彼を見ることがつらくて……彼を庇うために、女としての生を選んじゃったから……。先のことまで考えられない私の愚かさが、彼の暴走を招いたんだ……」


「……? 君が言っていることはよくわからないけれど、彼が世界征服をしたら、何か問題があるの? 世界征服をしても問題が解決しなかったら、また違う方法を探すだけじゃないのかな」


「世界征服するまでの過程が問題なの。戦争が起きるでしょう?」


「それはそうかもしれないけど、これまでの歴史上でも多少は……」


「そう。多少なのよ、これまでは。だけど、今回は違う。世界規模の戦争、世界大戦が勃発するわ」


「世界……大戦……」


「オリエ君や私がいた世界はね、その大戦を2度経験しているの。破壊があるから、創造があった。つまりね、戦いが終わった後、貴方があまり魅力的でないと言った世界が、きっと構築されていくわ。彼のチャームの能力は世界全土を覆えるようなものではない。力で制しても、制された側は復讐に燃えることになる。競争の連鎖が止まらなくなる」


「競争の連鎖……それが止まらなくなると……」


「世界中の人々は、物心ついてから死ぬまで、心に安息はなくなるでしょうね。それに、技術の発展も良いことばかりじゃない。この世界ではまだ解明されていない物理現象がすべて解明されるようになったら、どうなると思う?」


「それは……良いことなんじゃ……」


「"心の支え"が廃れるのよ。この世界はまだ、理解の及ばない超常現象が多い。民間伝承や神の国の存在、魔法に明るくない人は魔法という存在がそれに理由を与えてくれる。未来に希望を与えてくれる。"これは鬼が起こす現象だから、いい子にしていよう"、とか、"これは神が我々に与えた試練なんだから頑張ろう"とかね。だけど、それがすべて理屈で説明できるようになったらどうなるか……ただ絶望に耐えるしかなくなるのよ」


「それは……けど……」


「人々が前を向いて生きるためにはね、外側への脅威に対抗するための理屈を構築するのと同時に、内側を支える何かを構築していかないといけないの。だけど、戦争は、戦争による技術革新は、外側だけを埋めていく。内側の支えが崩れ去っていくことに気づかないまま、仮初の質を高めていくの」


「……だったら、君が、彼にとってのオリエくんになればいい」


「……」


「そんな世界にしたくないなら……いや、世界なんて本当はどうでもいいんじゃないの? 君にとっては、彼が、自分自身を認められるように、価値を実感できるようになることが、一番大切なことなんじゃないの? だったら……」


「そうね。貴方の……言う通り……。彼は……オリエ君は貴方を本当に大切に思っているみたいよ。ほんと、羨ましいくらい」


 そう言うと、彼女は自身の腕時計に目を落とした。


「……そろそろ時間も限界かな。もう1つだけ、とっても重大なこと、貴方に教えてあげる」


「重大なこと?」


「彼は、オリエ君はね……既にチャームにかかっているのよ」


 ラパンは、すぐに返答できなかった。思考を纏めるのに数秒、時間を要した。

 だって、それならば、これまで自分に向けてくれた愛情は一体なんだったのかと、思ったからーー。

ご覧いただきありがとうございます!

遅くなってすみませんでしたm(__)m


ラパンの精神は衝撃の事実に耐えられるのか!

耐えてばっかだなこの子……。


次回は日曜日の更新になります。9/27(日)10時頃の更新予定です。

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