表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/70

第4章 第15節『村娘 vs 青鬼 〜ソレイユ式英雄哲学〜』

「貴方、なんで生きてるんですか?」


「なんだその質問は。哲学でも語ろうってのか?」


「人は普通、正面から弾丸の嵐を食らったら、命を終えるんですよ。貴方、なんなんですか?」


「おいおい、俺の問いは無視かよ。しかも、その質問には最初に答えたろうが。2度も言うのは嫌だぞ。めんどくさいのは大嫌い……っておい! (ひと)に質問しといて、返答の最中に撃ち込んでくるとか、お前さん、中々狂ってんな!」


 やれやれと首を振る銀髪の偉丈夫は、弾丸の尽くをその身に受けたというのに、傷ひとつ付いてはいなかった。


 その身に受けた。というのは、言葉として正しくなかったかもしれない。


 正確には、彼の身体を襲う直前に、炎の弾丸はかき消えたのだった。


 最初に撃ち込んだ弾丸。会話の最中に撃ち込んだ弾丸。いずれも、彼には命中していない。


「哲学は割と好きなんだがな。下界人と語り合う機会なんて中々ないんだ。折角だからなんか話してくれよ」


 その彼、厲鬼(レイキ)は、右の掌を上に向け、ソレイユに言葉を促す。


「哲学……ってなんですか?」


 自分の弾丸が効かない相手に、彼女は多少の興味を持った。

 あくまで自己の快楽のために、彼女は彼の話に乗る。


「なんだ、田舎もんか? 哲学ってのはな、この目で見える世界の全てに意味を与えてやることさ」


「世界の全て?」


「そうだ。例えば今、俺の目に映っているのは、生き物のなり損ないが這いつくばってる姿。ひれ伏したそいつらを視界にも入れねぇ、気が狂った女の姿。そいつらがここで、こうして俺の前にいるってのは、どういうことなんだろうなってな」


「そんなことを考えて、何が楽しいんですか?」


「楽しいさ。限りない意味付けの果てにあるのは、誰にも介入されない、俺だけの意味を持った世界だ。それが強固なほど、精神は強くなっていく」


「意味づけ……? 例えば私がここにいるのは、オリエ様が偽りの神を根絶やし、真の神として君臨することへのお手伝いの為ですが、そういうことですか?」


「まぁ、そういうことだな。どうだ、何かに意味を与えるってのは、中々面白いことだと思わないか?」


「うーん、難しいですね。私以外の存在に意味などあるとは思えませんし。……そろそろ撃ちますね」


 言い終わる前に、銃口を厲鬼に向け、引き金を引く。


 当然、先ほど同様に、彼の身体に触れる直前で、その炎は霧散した。


「じゃあ、私の炎が貴方を焼かないことには、一体どんな意味があるのでしょう?」


「そりゃお前、それは哲学でもなんでもなく、俺の能力だよ単純に。俺は瘴気(しょうき)を操る。瘴気は全てのマナを蝕み、消失させるのさ」


 青鬼は、あっけらかんと自身の能力を口にした。


「ふーん。そうですか……。だったら、その瘴気を掻い潜れば当たるわけです……ね!」


「……ほう」


 距離を一瞬で詰めたソレイユは、ゼロ距離からガン=カタを仕掛ける。


 そのソレイユに組みつこうとして、厲鬼は腕を伸ばすが、彼女は舞うようにその腕を躱し、炎を連射した。


「速いな、お嬢ちゃん」


「同じ神でも、あの赤い人よりもだいぶ遅いですね、青いおじさんは」


「……青いおじさんて……」


 おじさんと言われて少しショックを受けた厲鬼だったが、戦闘において、優位を譲ったわけではなかった。

 スピードではソレイユに軍配が上がったものの、彼女の炎は、結局、彼の身体には届かなかったのだから。


「ゼロ距離からでも当たらないとはどういう理屈ですか?」


「どういう理屈も何も、瘴気を掻い潜れてないんだろうさ」


「ゼロ距離なのに……?」


 戦闘を継続しながら、言葉を交わす2人。


「ゼロ距離だろうが関係ないだろ。瘴気は俺の身体から出てんだからよ」


「な……!?」


「俺の能力だと言ったろうが。俺の力なのに、俺から離れてる訳ねぇだろ?」


 身体から放出しているということは、皮膚の上に更に瘴気の層があるということだ。

 ゼロ距離まで近づいたところで、掻い潜れる筈はない。


 勝算を見失ったソレイユの動きが鈍る。

 青鬼はそれを見逃さない。左腕が、彼女の首を捉えた。


 力を込め、上に持ち上げる。

 ソレイユの身体は地面から離れ、宙に浮いた。

 拳銃を二丁とも放り投げた彼女は、青鬼の左腕を引き離そうと掴むが、大樹の太枝の様な彼の腕は、ピクリとも動かない。


「お嬢ちゃんは言ったな。私以外の存在に意味などないと。だが、違ったな。お前にも、意味なんてなかったんだ」


「な……にを……」


「言ったろう。哲学ってのは、世界のあらゆるもんに意味付けするもんだと。自身の世界を形作り、精神を強固にするもんだとな。だが、俺の世界において、お前は存在しないも同義だ。なぜなら、俺をてこずらせることもなく、あっけなく死んでいくんだからな。もう明日にでもお前は俺の記憶から、俺の世界から消えていく」


「世界……消える……?」


「そうだ。お前は消える。お前の仲間たちもそうだ。それに関しては、お嬢ちゃんは間違ってなかったな。確かに奴らにも意味などない」


「……」


「お前らは王都から追放されたらしいじゃねぇか。俺の世界どころか、権力者からも見捨てられてるとはな。お前らが存在する世界なんてないんだ。存在する世界がなければ、意味もなかろうよ」


「そ……なん……」


「ん? 何言ってっか聞こえねーぞ」


 青鬼は、彼女を掴んだ左腕を引き寄せ、彼女の言葉に耳を傾けた。


「それがなんですか、って言ったんですよ!!」


「な……!?」


 ソレイユは、叫び、首筋に噛み付いた。

 その琥珀色の眼光は、肉食獣のようにギラついていた。


「は……? って、あっつ!!」


 首筋に熱を感じた厲鬼は、ソレイユを投げ捨てた。


 彼女の口元からは、炎が漏れ出、煙を吹いている。


「おいおい、口から炎吐くとか、どっちが鬼だかわかんねーな……」


 首筋を押さえながら、彼は吐き捨てるように呟いた。


「権力者から捨てられたから何だっていうんですか! オリエ様を侮辱するな!」


「何言ってんだ、お前だってそいつに意味なんて無いって言ってたじゃねーか」


「あの方の意味は、私なんかが決めて良いものじゃない! ……少なくとも、オリエ様は英雄です。私の英雄であり、世界の英雄です。貴方の世界がどうかなんて知りませんが、絶対不変の真理として、あのお方は英雄なのです!!」


「絶対不変とは大きく出たな。それは哲学を超えているぞ。考え方の範疇を超え、客観的な事実にまで侵食している。それは、誰もが、そのオリエとやらを英雄だと思ってるってことだ。下界だけに絞ったとしても、その下界を支配する権力者どもから捨てられてるんだから、それはありえねぇだろうが」


「ふふ……ふ……ふふふふふふ、あははははははははーーーー!!」


 ソレイユは、突如笑いだす。

 気が狂ったからではない。狂っているのは今に始まったことではない。


 この笑いには、そんなことも分からないのか、という、侮蔑の意味が込められていた。


「だからですよ! 英雄グリータスは、幼少期、父であるパーティチェプス領王から捨てられています! それに、オリエ様が教えてくれました。オリエ様がいた土地のペルセウスという大英雄は祖父に、オイディプスという機知に富む王は父に、それぞれ捨てられたと! 権力者に捨てられたということは、英雄であるということに帰結するのです!!」


 それは、王都に滞在していた時のことだった。

 愛読書である『ガルヴァドス英雄譚』について熱く語るソレイユに対し、オリエは元いた世界のギリシャ神話の英雄について、語りを返した。


 ソレイユにとっては、それは救世主の言葉であり、それそのものが絶対的な真理の言葉にも思えた。そして、オリエへの偶像崇拝は、かつて抱いていた英雄への憧れをも内包し、さらに強固なものへと変貌した。


 そして、王都追放。

 ソレイユにとって、オリエという存在は、もはや事実としての英雄であり、救世主であり、神となっていた。

 今は神の座にはいないが、いずれその座に収まるのだから、過去か未来かなど些細なこと。彼はすでに神なのだ。


「なんだ、お嬢ちゃん。()()()()()を持ってんじゃねーか……」


 そう呟く青鬼は、少し嬉しそうだった。


「貴方の弱点も分かりました。オリエ様が導いてくれたのでしょう」


「弱点が分かったところで、()()は連発できない筈だが?」


「オリエ様のために()()()()()()()ことは、私自身の救いですから」


「精神が強すぎるってのも考えもんだなこりゃあ」


 ため息をつく青鬼と、文字通り燃える眼差しで微笑む村娘。


「さぁ、世界(マナ)の炎が貴方に通じないというのなら、(オド)の炎で焼き尽くしましょう」

ご覧いただきありがとうございます!


ソレイユは頭おかしいですが、興味があることにはちゃんと耳を傾けることができる良い子です。

オイディプスを英雄と言って良いのか迷いましたが、スフィンクス退治したのですから英雄でしょう、ということで採用しました。悲劇だけどね。オリエはそこまでは語ってなかったということでここはひとつ。


次回は来週土曜(9/19)18時頃の投稿予定です。オリエ、ラパンとマリーダの話に移ります。


【追記】

申し訳ありません。体調崩しまして、9/19の投稿は難しくなりました。

そのため、投稿日を9/21の18時頃に変更します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ