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第4章 第13節『怒りに理屈は必要ない』

 それから半年、私は神の国で日々を過ごした。


 異世界人が大層お気に入りな様子の最高神は、私を用心棒のポストに置き、沢山のことを教えてくれた。


 神の国と、私がいた世界の繋がりについて。

 神の国の国民の祖先は、私と同じ世界の住人だということ。

 魔法、ギフトの存在。

 私がマリーダ相手には挙動不審にならないのは、彼がこの世界とあちらの世界を繋ぐルートに、自動的にチャームをかける機構を設置していたからということ、等々。


 右も左も分からなかった私は、その事には感謝しなければならないのだろう。だけど、その中で2つ、どうしても引っかかることがあった。


 1つは、命のストックのこと。自分たちの不老不死のために下界人を殺すという彼らに、私の正義感は拒否反応を起こした。それを聞いてから、最高神以外の国民とは意識的に壁をつくった。


 もう1つは、ファイアドレイクという男のこと。命のストック収集に異を唱え、反対運動を起こした男。最高神を絶対的な指導者とするこの国において、そのようなまともな者もいるのだと興味を持った。

 この話をしている時のマリーダは少し楽しそうだった。誰も自分に意見しないから、そのような反乱分子が発生すると楽しいらしい。この時ばかりは、彼に批判的な感情を持ったことを覚えている。


 これらを聞いた私は、ここに居続けたら私もいずれストックのために人を殺すことになるだろうという恐怖感、そして、ファイアドレイクという男の価値観を変えたという、下界の在り方への興味を抱いた。


 だから私は、試しに下界に降りてみることにした。


 本来はそんなことをしたら重罪だということだが、最高神のお気に入りである私は、彼から2つ返事で了承を得ることができた。


 だが、認めたくはないが、やはり私はどうにもポンコツのようだ。

 神の国を出て3日も経たずに、ある問題にぶち当たる。


 結論から言えば、迷った。


 ーー何があるかわからないから、まずは軽く情報収集だ!--


 くらいの感覚で下界に降りたのに、いきなりぶっつけ本番になってしまったのである。


 不幸中の幸いだったのは、私の剣の腕がこの世界でも通用したことだろう。

 当時はまだギフトは使えなかったが、それでも獣を狩り、小銭を稼ぐことくらいはできた。相変わらず人と上手く会話ができなかった私だが、倒した獣を換金するくらいの事務的な会話はギリギリできたのだ。めっっっっちゃ緊張したけど。


 おかげで5年もの間、細々と生き延びることができた。


 5年の間には、途中でドラゴンのような怪物に殺されかけたり、軽薄な男からナンパされたりなど、それなりにトピックはあった。


 だが、換金の時に人と話すよりも、ドラゴンや男に追いかけられるよりも私にとってキツかったのは、この国が同性愛を禁じていたことだろう。自分が女が好きだと自覚してからは、どうにも性的な目線で相手を見てしまう時がある。自重せねばと思っても、これがなかなか難しい。というか、無理。

 同性愛の禁止自体は、彼女との一件で恋愛に懲りていた自分にとっては、ある意味では良かったとも言えた。だが、鼻息荒く街の女たちを見ている自分が不審者に見えていないかどうか、とてもドキドキした。


 それでも私が牢屋にぶち込まれることはなかった。

 警官が近くを通るたび、走ってきた直後のふりをして、呼吸の荒さを誤魔化したりしたのが功を奏したのだと思う。

 5年も旅をしたおかげで、私もだいぶ逞しくなったものだ。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「あ、貴女大丈夫!?」


 備えていた食べ物が底をつき、1週間雨水のみで飢えを凌いでいた私は、ふらふらだった。

 街に入った時点で、安心して倒れかけた私を、彼女が抱きかかえてくれた。

 その直後に、意識を失った記憶がある。


 目が覚めた時、私の隣には目を見張るほどの美女が座っていた。

 彼女は夢の世界に旅立っていたが、その両手は、私の右手をぎゅっと握ってくれていた。


「--ーー----!!??」


 すぐには状況を飲み込めなかった私は、勢いよく後ろに飛び退く。


「ーーあぅ!?」


 そして、ベッドの後ろの壁に盛大に後頭部を打ち付けた。


「んん……。は! 頭痛むんですか!? 大丈夫ですか!?」


「だだだ、大丈夫でござる……。ふ、古傷が痛んだだけでござるから……」


 彼女は、目を覚ますと、すぐさま私の心配をする。

 全力で取り繕った私だが、あまりにも恥ずかしすぎて、彼女を直視することができなかった。


 だけど、この時の彼女の優しい声色は、今でもばっちり記憶に残っている。

 実に5年ぶりに、人から優しい言葉をかけてもらった。私は、きっととてつもなく締まりのない、とても気色悪い顔をしていたに違いない。


 それが、私とリーヴィットの出会いだった。

 恩を返すため、というそれっぽい理由を盾に、私は彼女との生活を開始することになった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「ど! どどど同性愛OKなんでござるか!?」


「え? それって普通じゃないの?」


 ある日、男性同士で手を繋いで歩いているカップルを見た私は、衝撃の事実を知ることになる。

 トラッシュタウンは、同性愛OKという事実。

 ここに来て、運命の神様は私に微笑んだのだと思った。


 だから、


「性別ってなんであるんだろうね?」


 という彼女の言葉に、その考えが浮かんだ背景に、まるで関心を払わなかったのである。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 彼女の問いの答えは、今からちょうど4年前の前夜、否が応でも理解させられた。

 つまり、その日は天召祭。


 彼女が性別という存在そのものに疑問を持ったのは、この街の人々は()()()()()()()()()()からだったわけなのだが、私にとってはそんなことよりも、その前段階である共食いの方が(こた)えることとなる。


 このような街があることは、最高神から聞いて知っていた。

 だけど、まさかこの街がそうだなんて思っていなかった私は、目の前の現実に感情の行き場を無くしかける。


「リーちゃん!!」


 暴れる彼女の前に立った私は、腕を広げた。

 運命にさえ裏切られたと感じた私は自暴自棄になっていて、もういっそ、彼女に殺されたいと思ったのだ。


 彼女の毛むくじゃらの腕が私に伸びる。

 その日は満月で、触手にさえ目を瞑れば、彼女はまるで狼男のようだった。


「--------------!!」


 私を目前までその腕が迫った時、彼女は咆哮を上げた。

 その音は甲高く、耳を裂くような音だった。


 だけど私は、なぜかそれを聞いて思い出したんだ。

 初めて彼女と話した時の、彼女の優しい声色を。


 ()()()()()()()()()()()()ってことだって、充分、"運命"と呼べることなのではないか。


 そう思った私が、彼女の腕に吹き飛ばされることはなかった。


 地面から生えた巨大な茨、大木のような茨たちが、私を守ってくれていたから。

 青い薔薇の花びらが、満月の光を浴びながらキラキラと私の周りを舞っている。


 その時、私の心の中にあったのは、たった1つの確固たる意志。

 私の人生における命題は、この街で彼女を、リーヴィットを守りながら過ごしていくことなのだという、たった1つの意志だった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 あの夜から、4年。


 彼女は思う。

 やっぱり私はポンコツで、目の前の男に向けている怒りは、見当違いなものなのだろう、と。

 例え彼が手を下さなくとも、私がリーヴィットの息の根を止めようとしていたのは事実なのだから。

 彼を責めるというのはやっぱりおかしい。


 それでも彼女は、感情のまま素直に動こうと決意する。


 ーーだって、これまで過ごした貴女との時間を、私たちの運命を、2人の世界を、何にも知らない部外者のあいつに、土足で踏み荒らされたような気分を覚えたから。


 私があいつに怒りをぶつける理由なんて、それで充分だよねーー。


 それは、理屈ではないかもしれない。ただの、感情論なのかもしれない。


 けれど、


 叶わぬ恋を潜り抜けた彼女が、ようやく出会った愛し合える相手。運命の、相手。

 その相手を手にかけた下郎が、目前にいる。


 だから、理屈などどうでも良かった。自分の誓いを棚に上げてでも、この男を斬らねばならないと、彼女の身体中が湧き立つのだ。


 ーーリーちゃん。貴女の仇は必ず取るから……ーー。


 彼女は無遠慮に放られた男の言葉に、ただ思った言葉を素直に投げ返す。


「ーーそんなもの、私が貴様に怒りを覚えたというだけだ!!」


 あの夜と変わらぬ青い薔薇の花びらを纏った剣士は、黒蛇の男に向け再び刀を振るうーー。

ご覧いただきありがとうございます!


次回からは、他キャラの話に移ります。

マリーダに相対するオリエとラパンの運命はいかに!?



★私事で申し訳ないのですが、今月末、職場で資格試験を受けることになりましたので、勉強に集中するため1ヶ月ほどお休みをください。


9/5(土)に再開予定です。

時間は未定ですが、確定次第ここに追記するか、Twitterで報告いたします。


【追記】

9/5(土)18時頃再開します!

再開1話目は筋肉 vs 筋肉!!

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