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第4章 第9節『黒雷と太陽』

 オリエたちの目の前に現れたのは、自らを最高神と名乗る、男の娘。


 おぞましさと可憐、相反する2つを兼ね備えた褐色の美貌に、4人は言葉が出てこない。


「ローズロッサもひっさしぶりだねー。元気だった?」


「なぜ、貴方がここに……?」


「ふふ。神の国のゴミ捨て場になんで監視網が無いと思ったのさ。君はアレだよね。クールぶってるけど、割とポンコツだよね」


 図星をつかれたローズロッサだが、嫌な感情は覚えなかった。チャームをかけられているからだと、理解はしている。だが、理解はしていてもそれを自然と受け入れてしまっている自分がいた。


「……なんて。私、ここ嫌いだから監視網なんて敷いてなかったけどね。醜い化物同士の慰め合いなんて見たくもないよ」


(醜い……だと?)


「貴様!!」


 だから、本能ではなく理性で斬りかかる。


「キレが悪いなぁ」


 その太刀は空を斬った。マリーダは、笑いながらローズロッサの眼前に立つ。


「君じゃ私は殺せないって」


 頭ひとつ大きい彼女の額を、マリーダはとんっ、と人差し指でつついた。ローズロッサはへなへなと両膝をつき、彼を見上げる。


 マリーダは彼女に抱きつくと、化粧っ気の無い彼女の唇に自身の唇を重ねた。


「君は私のもの、でしょ? ローズロッサ」


 その唇に挟まれた狭い口腔から自身の舌を抜くと、目を合わせて静かにささやいた。


 ローズロッサの目は(うつろ)に、頬は紅に染まっていく。前後不覚の彼女に抱きついたまま、マリーダの視線はオリエに向かう。


「我慢できなくて来ちゃったよオリエくん♡」


「……どうも。なんだか、気に入ってくれてるようで嬉しいよ」


「もちろんさ! 君達2人は特別なんだよ。なんと言っても、オリジナルだからね」


「オリジナル。改良を重ねてない異世界人、ってことか」


「大正解! オリジナルはね、普通、マナが大量に身体を流れることに耐えられないんだ。だから、ギフトなんて開いた時には、脳が過重負荷(オーバーロード)して、死んじゃうんだよ」


 死んでいたかもしれない、と思うと、引き始めていた汗が、また大量に吹き出した。


「けど、君たち2人は生き残った。選ばれた存在な訳だ。私はそういうの大好きだからね……だから、私は君たちを迎えにきたんだよ」


「迎えに……? それってどういう……」


 オリエの問いに、微笑みだけを返したマリーダはローズロッサを離し、両腕を広げた。


「じゃあ、とりあえずこの街滅ぼそうか」


 パチン。細い、褐色の指が、乾いた室内に乾いた音を響かせた。


 唐突なモーションに状況を理解できないオリエたちの耳に、遅れて咆哮と悲鳴が飛び込んでくる。


 咆哮には聞き覚えがあった。

 つい昨夜、嫌というほど聞いた、あの咆哮だ。


「お前……一体何を……?」


「いやぁ、この街もそろそろいいかなってさ。めんどくさくて放置してたけど、()()()()()()()()()のなら、滅ぼしてしまおうかと思ってね」


 疑問を呈したオリエではなく、その視線は、確かにローズロッサに向いていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「わぁ。やっぱりこの街は面白いですねー!」


 胸の前で手を組んで、辺りを見回すソレイユは、心から幸せそうな表情を浮かべている。


「うーわ、昼間でもやっぱ無理だわこれは」


 片やがっくりと肩を落としているマルティは、寧ろ夜よりも見えやすくなっているということもあり、心からげんなりとした表情を浮かべていた。


 一度見たことで多少、耐性のついているマルティの目の前で、リーヴィットがぺたん、と尻餅をついた。


「な……な……」


(ちっ、無理もねぇ)


 マルティは、リーヴィットの傍に寄ろうと動く。


 3人の周りでは、昨夜の"異形"が蠢いていた。

 ただ、昨夜と違う点が1点。それはーー、


「た、助けてくれぇぇぇぇえ!!」


「な、なんだこのバケモンはぁぁぁぁあ!!」


「わ、私の彼が化物にぃぃぃぃい!!」


 慌てふためく、街の人々。"異形"に変貌したのは、街の()()だけだった。


 即ち、"異形"が食らうのは"異形"だけではない。

 変貌しなかった人々も、捕食対象とされたのである。


 "異形"の咆哮、人々の絶叫が、街中に響き渡る。


 マルティは、"異形"の見た目や動きはまだしも、この程度では眉一つ動かない。

 ソレイユは、目の前の"異形"に集中しすぎて、おそらくはその音自体、聞こえていない。


 しかし、尻餅をついたその女、リーヴィットは、2人のような、ある意味で強固な精神は持ち合わせていなかった。


「だ……だめ……いやぁぁぁぁぁあああ!!!!」


「お、おい、落ち着け!」


 マルティがその肩に触れようとした、その時。


「ローちゃん……ローちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


 リーヴィットは、愛する者の名前を叫び、走り出した。


「おい! 一人で行ったらあぶね……っ!!」


 瞬間、マルティは、煉瓦造りの建物の壁に打ち付けられる。


「……カ……ハッ……!!」


 肺の中の空気が飛び出る感覚。

 その直後、目の前に移る視界に、彼女は自分が"異形"に弾き飛ばされたのだと理解した。


「……くそっ!!」


 口元の血を拭った彼女は、目の前の"異形"を睨みつける。


(しゃあねぇ。まずはこいつら片してからだ……!)


 ゆっくりと、目の前の敵に向かう彼女の身体の至るところで、バチン、バチン、と黒雷が弾けた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「あはははははははは!! 楽しい!! 楽しいです!! これがビーストハント!! 初めての経験です!!」


 "異形"()()()()()が辺りに散らばった通りの真ん中で、尚もその肉塊になりたがる"異形"を迎え撃つ、二丁拳銃の女。

 変則的に繰り出される触手による攻撃を、天性のセンスのみで躱し、撃つ。また躱し、撃つ。

 弾丸の補充を必要としないそのマジックアイテムから、さながらマシンガンのように炎の弾丸を撃ち込みまくる。


「あぁ! 最高です! もっと! もっとぉぉぉぉおお!!」


 撃ち込むたびに快感を得ながら、ソレイユは黒い肉の山を築いていった。

 "異形"の数もだいぶ減ってきた。少し飽きてきた彼女は周りを見渡してみるが、マルティとリーヴィットの姿が見えない。


「……あら? 私が夢中になっているうちにどこかに行ってしまったのかしら? 一声くらいかけてくれてもいいのに」


 実際は、ソレイユが"異形"を追いかけているうちに場所を移動していたのだが、彼女はそれに気づいていなかった。

 飽きてきたからそろそろ帰ろう、そう思った彼女は、自分に向かってくる"異形"を無視して、リーヴィットの家の方向に向かおうとする。


 そうして、脚を踏み出そうとした時、何か、空気の震えのようなものを彼女は感じ取った。

 常人では決して感じえない、僅かな空気の変化。それを本能で感じた彼女は、進行方向から向かってくる"何か"に意識的にピントを合わせた。


「貴方、なんですか?」


 "それ"は答える。心底楽しそうに、自らの名を。


「俺かぁ? 俺はな、癘鬼(レイキ)ってもんだ。"7つの希望(セプトエスポワール)"の1人と言えば分かるかぁ?」


 癘鬼と名乗ったその男は、青い肌に、筋骨隆々の肉体を持っていた。短い銀髪の生え際からは、左右対称に2本の鋭い角が生えている。陽気そうな性格は、もみあげから顎を通ってぐるりと伸びる、短く生え揃った髭からも伺えた。


 ーーダァン


 そんな陽気な青鬼の名乗りに対し、狂気の村娘は返答代わりに、火焔の弾丸を()()()()()

ご覧いただきありがとうございます!


良かったよー! 続き気になる! という方は評価いただけますと幸いです!


神の国メンバーとの絡みも増えてきました。しかし、まともにコミュニケーションも図らずぶっこむソレイユさん。その脳筋具合、結構好きです。

そんなソレイユさんのキャラ設定を活動報告の『キャラ設定②』に追加しましたので、興味ありましたらご覧ください。


※レイキさんの髪は、幻獣化前は赤紫色ですが、変化すると変わります。


次回は来週土曜(7/18)18時頃の投稿予定です。場面はオリエ達と最高神に切り替わります。

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