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第4章 第8節『改悪の街』

「あら? 食べないんですか、皆さん?」


 リーヴィットは、朝食のパンを口に運びながら尋ねた。


「いやぁ、俺たち朝飯は食わない主義で……」


 同じテーブルに着いているオリエが苦笑いを浮かべながら答える。


「そうなんですか? ソレイユ様は普通に食べてらっしゃいますが」


「あ、うん。こいつは別だから」


「美味しいですよ? オリエ様もいかがですか?」


 ソレイユはオリエに向かって、手に持ったパンを突き出してきた。


「あ、うん。気持ちは嬉しいけど、今はいいかな。ほら、ダイエット中だから俺」


「ええ!? オリエ様達はともかく、ラパン君は食べなかったら無くなっちゃいますよ、身体!」


「ひいぃぃ」


 視線を向けられたラパンは、怯えた表情で身体を硬直させる。

 あんな凄惨な光景を見た翌朝では、消化器官は作動しない。

 頼むから自分に注目しないでほしいと、引きつった笑いをソレイユに返す。


 今にも降り出しそうな今日の空模様と同じく、ソレイユを除く面々の心象は重苦しいものだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「昨夜の件、でござるか?」


「あぁ。仲間になれとは言わないから、せめてあれがなんなのかだけでも教えてくれないかな」


 何とか朝食をやり過ごしたメンバーは、昨夜の出来事についてローズロッサから話を聞くことにした。


(よし! 今日はちゃんと話すぞー! がんばれ! がんばれ私!)


「あ、あの、リーちゃん……」


 意気込む心の中と裏腹の、おどおどした細い声。

 ローズロッサは自身の情けなさに、少し泣きそうになる。


「はいはい。同郷トークね。じゃあ私は散歩でもしてこようかしら」


「う、うん。かたじけないでござる」


「あ、じゃあ私、ご一緒しますよ!」


「良いんですか、ソレイユ様」


「ええ! この街、なんだか面白い匂いがするので。例えば昨夜の化け……!?」


 マルティが咄嗟にソレイユの口を塞ぐ。


「化け……?」


「お、俺も一緒に行くよ! いいだろ!?」


 全力で作り笑いをしたマルティに対し、満面の笑みを浮かべたリーヴィットは、2人を連れて家を後にした。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「昨夜のアレがなんなのか、でござったな」


 ローズロッサはリーヴィットが家から離れていくのを窓から確認し、口を開いた。


「アレは、本来、神の国の国民になる筈だった者の成れの果て……ですよ」


「なる筈だった者……?」


「そう。失敗作、と言った方が分かりやすいか。どちらにせよ虫唾が走りますが」


 口調が変わった彼女は鋭利な目つきで、3人に問う。


「神の国を建国したのは最高神マリーダ。ですが、その最高神は一体どこから国民を集めてきたと思いますか?」


「あいつらの言う下界から、じゃないのか?」


「……違います。ある理由から下界の人間ではダメだったんです。だから彼は召喚した。この世界の人間ではない存在を」


「……それって」


「私たちの世界から召喚したんですよ。今の神の国の国民はその子孫。つまり、彼らの遺伝子は下界人よりも寧ろ私たちに近いのです」


「ちょ、ちょっと待って。違う世界ってどういうこと? オリエくんは違う国から来たんじゃ」


「この世界とは違う世界があるんだ。俺やローズロッサはそこからこの世界に迷い込んだらしい」


「え……」


 ラパンは頭の整理が追いついていないだろうと、オリエは思う。

 それはそうだろう。いきなり違う世界があるなんて言われて、誰が信じられるというのか。


(っていうか、急にそんなこと言い出したらやべー奴だよなぁ……)


「ごめんラパン。騙すつもりはなかったんだけど、こんなこと言っても混乱させるだけなんじゃないかと……」


「んーん。なんだか、突拍子もない話でびっくりはしてるけど……信じるよぉ。オリエくんが言うことだもの」


「ラパン……」


「というか、もっと早く言ってくれたら良かったのに」


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、俺が心配だったんだよ。頭おかしい奴って思われるんじゃないかって。……ごめんな」


「そんなことない。オリエくんのこと、また一つ知れて嬉しいよ」


 2人はじっと顔を見合わせて、微笑み合う。


「ま、眩しいでござる……」


「2人とも、そろそろ話の続き聞きません?」


 ガテムレックスは苦笑しながら、2人を現実に引き戻した。


「あー、こほん。つ、続きを話すでござるよ?」


 そう言うと、ローズロッサは再び冷たい空気を纏う。


「異世界から人々を召喚したは良いが、その人々は脆弱だった。魔法は使えないし、身体も弱い。だから最高神は、時間をかけて彼らを改良することにしたのです」


「人間を改良ですか。穏やかな話じゃありませんね」


 ローズロッサは頷きを返す。


「手始めに、最高神は異世界の神話や伝説のイメージを実体化させ、人々に植え付けました。同じ世界の存在なら親和性も高いだろうという仮説から、実行に移したようです。事実、それは結果的には成功した」


(だから、神は俺の世界の伝説の存在に変化することができるのか……)


「とは言え、最初は上手くいかなかった。ですが、500年の時をかけ、交配パターンを研究した彼は、ついに最適解を見つけました。それが今の神の国の国民という訳です」


 交配パターンを探るのに500年もの歳月が必要だった。

 ということは、とオリエは推理する。


「この街の人々は……」


「えぇ。つまりは彼らこそが正解を見つけるまでに生まれた犠牲。失敗作、という訳です」


 ローズロッサは冷たく言い放つ。


「最高神にとっての負の遺産。それがこの街。だから、ゴミ捨て場(トラッシュ)


「……じゃあ、昨夜の共食いは何なんだ?」


「当時の改良方法の名残、ですね。共食いと再生産を繰り返す事で、種としての進化を期待していたようです」


「最高神ってのは、ネジの外れた研究者なのか?」


「マッドサイエンティストというよりは、根っからの支配者と言うべきでしょう。自身に絶対服従の国民を持った国を創りたかったのですよ、彼は。そこに異世界人を召喚した理由がある」


 ローズロッサは少し言いづらそうに言葉を続ける。


「異世界人はですね、精神干渉系の魔法に耐性が無いんです。つまり、マインドコントロールを受けやすい。神の国の国民は、DNAレベルでチャームがかけられていて、彼に服従するようになっている」


「それが異世界人で国を創ろうとした理由……。いや、ちょっと待て。マルティは? あいつは神だが、反旗を翻そうとしてるぞ?」


「マルティ……あの金髪の娘のことですか。あの娘の本来の名はマルティコラスですね?」


「知ってるのか?」


「最高神から聞いたことがあります。数百年ぶりに神の国に産まれた子供だと。……あの娘の母親は下界人ですから、ハーフである彼女には、チャームの効力が薄いのかもしれないですね」


 ちなみに、と彼女は告げる。


「私もチャームをかけられています。本人を目の前にしたら抗える自信は正直ない」


「な!?」


「オリエ、貴方はかけられないように注意してください。……とは言っても、一体、いつどのようにチャームをかけられていたのかはまるで分からないのですが……」


 オリエは精神干渉なんてどう回避すれば良いのかなど、見当もつかない。思わず、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。


「大丈夫だよオリエくん! オリエくんを誘惑するなんて、僕が許さないよ!」


 シュッシュッ、とボクサーの様にラパンが拳を突き出しながら、根拠のない自信でオリエを励ました。


 ありがとう。ラパンの言葉に、彼がそう伝えようとした刹那ーー


 鈍く、錆び付いた扉が開くような音が、聞こえた。


「元気だねぇ。君、ラパン君って言ったっけ?」


 背筋に百足(むかで)が這い上がってくるような、悪寒。

 ラパンの背後から聞こえた声と、それに込められた重圧を受け、4人の顔に汗が伝う。


 恐る恐る、4人は声の方向を見た。

 視線の先には、歪んだ空間。覗く深淵。

 そこに立っていた小柄な褐色の存在は、目を逸らすことを許さない。


「初めまして、オリエ君。私の名前はマリーダ。最高神、マリーダ。……よろしくね♡」

ご覧いただきありがとうございます!


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますとめっちゃ嬉しいです。


ついに最高神との邂逅です。


次回は来週土曜(7/11)18時頃の更新予定です。


また、それに先立って、明日(7/5)16時頃、短編ローファンタジーを投稿予定です。

タイトルは『男の娘リフレ探偵社"クピド・イン・ワンダーランド"の事件簿』。

オリエとラパンと同じ能力を使う主人公コンビが、現代を舞台に事件を解決する話です。

良かったらご覧くださいねーー!!

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