第4章 第5節『脳内会議』
「な、なんで?」
先ほどまでとは違う空気を纏ったローズロッサに、違和感を覚えながらもオリエは理由を尋ねる。
「今言ったとおりです。やるべきことがありますので」
「それは一体……?」
「プライベートなことです。あなた方には関係ありません」
一瞬の間。オリエには、ローズロッサの頬に再び赤みが差し始めたのが見て取れた。
「…ま、そうだな。プライベートなこと問いただすのは野暮ってもんだ」
「話が早くて助かります」
「まぁ、それはそれとして、天召祭には出ようと思うけど、それは良いよな?」
「……神に何か用でもあるのでござるか?」
オリエがあっさり引き下がったことで気が緩んだローズロッサは、普段の口調に戻る。
「あー……、リーヴィットさん、席外してもらってもいいかな。同郷同士で話したくて」
「え、ええ。あなた方がそう言うのであれば」
リーヴィットは、オリエたちに一礼すると、テラス席から去っていった。
「おいオリエ、この女は目的言わなかったのにこっちは言っちまうのかよ?」
マルティは、眉間にしわを寄せてオリエを見る。
「俺たちはこいつを味方にしたいんだから良いんだよ」
「まぁそれは、そうかもしれんが……」
ふと視線に入ったガテムレックスは特に言葉を発する様子はない。
(くそ! なんで俺が筋肉野郎の挙動を気にしてんだ! 別に今までどおり言いてぇこと言えば良いだけだろ!?)
「どうしたマルティ?」
オリエはマルティの顔を覗き込んだ。
「な、なんでもねぇよ! 別に言いたいなら言えば良いだろ! 特にこれ以上俺から言うことはねぇよ!」
「顔赤いぞ? 食いすぎたか?」
「いいから!! そっちとの話に集中してろお前は!!」
オリエは、頭にクエスチョンマークを浮かべながらローズロッサに向き直る。
(あーくそ、心がざわつきやがる。なんなんだこれはよぉ)
彼女の脳内で、2人のマルティが取っ組み合う。オリエを信頼するマルティと、ガテムレックスからの"ワンマンチームには限界がある"という忠告を真に受けるマルティの2人が。
(俺はお前を心の底から信じてるけど、お前が道を間違えないためには俺が反論しなけりゃならねぇのか……? ラパンもソレイユもお前を疑うことを知らねぇからな……。けど、俺にそれが耐えられるのか? やっと見つけた心地良い居場所なんだぞ……? 自分の手で壊すことにならねぇか……? そんなことをしたらよぉ……)
マルティは頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
オリエとローズロッサの話に集中しているメンバーは、誰もその動きに気づいていない。
(だぁ!! 頭痛くなってきた!! とりあえずまた後で考えるか……)
意図的に思考を停止するため、マルティはローズロッサと話すオリエを見る。
「ってなわけで、俺たちはほとんどが爪はじき物の少数派。だから、そんな俺達でも幸せになれる世界を創りたいんだ。そのためにまずは神に勝とうと思ってな」
「なぜそこで神に勝つことになるのでござるか……?」
「神の国の最高神は世界征服を企んでる。ってことは、世界を変えるヒントを持ってるだろうってな」
「神の国は少数派にも優しい世界でござ……世界だと聞くでござるよ? 倒さずとも仲間に入れてもらえば良いのでは?」
「それが、国民になるにしてもお願いすればいいって単純なものでもないみたいなんだよ。しかも、向こうの最高神にロックオンされちゃったみたいでなー。戦うしかねーのさ」
「それは難儀でござるな……」
「それに、神の国も誰にでも優しい世界なんかじゃなさそうだからな。やつらの下に入るなんて願い下げだ」
オリエの表情がやや険しくなる。
その言葉にマルティはハッとした。開いていた脚を閉じると、俯く。
内に芽生えた感情を彼女は理解できていなかったが、自身の顔が耳まで赤くなっていることはなんとなく分かっていた。
熱を、感じたから。じめっとした、夏の雨上がりみたいな、そんな不快な熱なんかじゃない。もっと、清々しい熱さ。熱いって言ってるのに、それでもそいつは優しく抱きしめてくれてるような、言葉とは裏腹に振り解きたくない、そういう熱さ。
(おいおいなんだよ……。これじゃまるで……)
マルティは呼吸を忘れ、再び思考の海に沈みかける。
だが、マルティの思考はローズロッサの次の言葉に遮られた。
「……拙者は元々神の国にいたでござる」
「「「「!?」」」」
ソレイユ以外の4人が目を見開く。
「黙っているつもりでいたでござるが、ここまで話してくれたお礼に少しだけ情報開示するでござるよ」
「今は? パイプはあるのか? 最高神と」
「いや、今は接点ないから、情報が洩れる心配をする必要はないでござる」
「もう少し、詳しく聞いても?」
「じゃあ少しだけ。神の国にいたころの拙者は、最高神の用心棒をやっていたでござる。まぁ、最高神を狙うものなどいないし、彼は強いので名ばかり用心棒ではあったのだが」
「彼、ということは男なのか」
「男……まぁ男であろうな。それ以上でも以下でもない。確かにあの方なら世界を変えるだけの力は持っていると思うでござる」
「神の国を離れた理由は……?」
「これ以上は黙秘でござる。それもプライベートなことでござるしな」
「じゃあとりあえず仲間に……」
「それは断ると言ったろう」
再び鋭利な雰囲気を纏うローズロッサ。
彼女は椅子から立ち上がると、オリエたちに背を向ける。
「ま、待ってくれ。結局やるべきことってのは……」
「明日の夜になればわかる。それでは失礼」
冷たく言い放つと、ローズロッサはテラス席から去っていった。
「明確に拒絶されてる感じだったね」
ラパンはオリエを見る。
「ああ。何言っても届かなそうだった」
2人は、それぞれ自分の過去を思い出していた。
そしてきっと、彼女にも他人に踏み荒らされたくない"何か"があるのだろうと、思い至ったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
オリエたちの元から去ったローズロッサは、リーヴィットの家にある自室に戻っていた。
(緊張したぁぁ! こいつうざいとか思われてたらどうしよぉぉ!?)
ローズロッサは、顔を赤くしながら、ベットでごろごろと転げまわる。ほどいた長い黒髪が、動きに遅れてバサバサとついてくる。
(神の国を離れた理由なんて聞かないでよぉぉ! なんとなく下界を見たくて下に降りたら迷って帰れなくなって、なんか今更帰りにくいからとか言えるわけないよぉぉ!!)
(これだけ期間開いちゃったら、たぶん何かしらの罪に問われるだろうし……今からじゃ道分かっても帰れないよなぁ)
ごろごろがひと段落したローズロッサは、天井を見上げながら、今日、会話をした相手のことを思い出していた。
(オリエ・ハジメか……。初めてだな。この世界で向こうの人に、しかも日本人に会うなんて。私のこと庇ってくれたし、もっと色々と教えてあげたほうが良かったかな……)
心音が速まる。そっけない態度をとってしまったことに対する後悔に気づく。
(また会う機会があったら、その時はちゃんとお話ししたいな……)
彼らのことを考えながら目を閉じる。しかし、閉じた瞼に浮かんだのはリーヴィットの姿だった。
(……やるべきことがあるのは本当だ。そのためなら、私が彼らにどう思われようが構まわない)
漠然とした緊張に心が重くなるのを感じたローズロッサは、部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込んだ。
(それはそれとして、今日の言葉遣いは大丈夫だったかなぁぁ……。彼は私の言葉遣いに内心笑ってたりしたんだろうか。もうやめようかなあの喋り方。あぁでも今更だよなぁ。癖になっちゃってるし、リーちゃんになんて言えば良いのか……。あーー!)
ローズロッサがベッドに入ったのは午後9時。
彼女の1人脳内会議は、丑三つ時まで続いたのだった。
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その道は茨だぞマルティ……!!
次回はまた日曜投稿します。明日(6/21)10時ごろの更新予定です。ひっっっさしぶりのデート回!!




