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第4章 第4節『お断りします』

「ご指名だよー! ローちゃん!」


「は、はははははい!!」


 ローちゃんと呼ばれた女は、そそくさと床から立ち上がる。ロボットのようなギクシャクした動きで、オリエの前まで歩いてきた。


 その長身の女は、長い黒髪を後ろで一纏めにしていた。ボタンが留められないのか、胸元が大きく開いた黒いシャツ、そして引き締まった下半身を強調するような細身のデニムを身に纏っている。


 オリエの視線は、無意識のうちに胸元に向かっていた。


(またおっぱいかぁ! やっぱりおっぱいがいいのかぁ!! くそう、くそう!!)


 が、むくれたラパンのジトっとした視線に気づき、慌てて視線を逸らす。


 逸らした視線の先、彼女の左腰には、柄も鞘も透き通るように真っ青な刀がぶら下がっているのが見えた。


「た、旅の人! 拙者がローズロッサでござる! な、何用でござるかな!?」


 そう言ってオリエの顔を見たローズロッサは、徐々に目が丸くなっていく。


 オリエは立ち上がる。


「俺の名前はオリエ・ハジメ。単刀直入に聞く。あんたは日本人か?」


「せ! せせせせせ拙者は! わた! わたしは! 日本人でござ! ござら! ににに日本人ですうぅぅぅぅう!!」


 見る見るうちに顔が真っ赤になり、その場にうずくまるローズロッサ。


(日本人に聞かれた! 聞かれてしまった! わたしが自分のことを拙者とか言ってるのを! あぁぁぁぁぁあ!! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!! 穴があったら潜りたい!! いや、埋もれて死にたい!!!)


「……え、なに? 俺なんか悪いこと言った?」


「彼女、すっごく人見知りなのよ。最近はまともになったと思ったんだけど、やっぱり初めての人は怖いみたいね」


「リーちゃん、助けてぇ」


 ローズロッサは女性のスカートをプルプルと震える手で引っ張っている。


「リーちゃん?」


「あぁ、私の名前よ。リーヴィットって言うの」


 リーヴィットは、ローズロッサの手を引き、立ち上がらせる。

 立ち上がったローズロッサは、リーヴィットの後ろにぴったりと隠れた。


 とはいえ、リーヴィットよりも頭1つ分背の高い彼女はややかがんでおり、そのせいでオリエ達からは丸見えだったのだが。


「ローズロッサ、俺、あんたと地元トークしたいなぁなんて思うんだけど」


「いやいいですわたしは特にそんなことありません」


 凄まじい早口で拒否したローズロッサ。


「ローちゃん、口調どしたの? なんかおかしいよ?」


「やめてぇぇ、現実を直視させないでぇぇぇ」


(い、言えない! どうせ私しか日本人いないから、"自分が思うかっこいい口調"で話してましたなんて口が裂けても言えないぃぃ!!)


「?? 拙者の国の言葉だからって、楽しそうに教えてくれたじゃない」


「くっ……」


 ローズロッサは、リーヴィットの陰から、真っ赤な顔でオリエを睨んだ。その目には涙まで浮かべている。


(……はぁ)


 オリエは、心の中でため息をつくと、ローズロッサの顔を見た。


「……拙者、オリエ・ハジメでござる! 以後お見知りおきを! 拙者、国外に出て長い故、すっかり言葉を忘れていたでござる。恥ずかしき思いをさせ、かたじけなかったでござるローズロッサ殿!」


(くっっっそ恥ずかしいんだけどこれ……)


 オリエには分かる。目を輝かせているのはラパンだけで、ソレイユはポカーンとして、残り2人は全力で目を逸らしていることが。


「ふふふ~~~♪」


(下手な口笛吹いてんじゃねーぞマルティ)


「わぁ! 本当に同郷なんだ! 良かったねローちゃん!」


「う、うん……。良かった……でござる」


 リーヴィットの後ろから、出てくるローズロッサ。


「オ、オリエ……殿、失礼したでござる……」


「あ、いや……。あーその、俺はこの話し方に慣れちゃってるから、こっちでいくぞ」


「う、うん……」


 目を逸らすオリエと、顔を赤くして俯くローズロッサ。


 2人は単に恥ずかしがっているだけなのだが、事情を知らない人間が見ればこれはまるで……、


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


「うおぅ!?」「わひっ!?」


「きゅ、急にどうしたラパン」


「わかんないよ! わかんないけどなんか! ラヴの波動を感じたから!!」


 奇声を発しながら2人の間に飛び込み、オリエに抱き着いたラパンに、オリエとローズロッサは思わず身体を震わせた。


「こんな! こんなおっぱい女にオリエくんは渡さないよ!!」


「ラパン君、よくわかりませんが、その方、多分聞こえてませんよ?」


 ソレイユがローズロッサに指を差す。

 彼女は、口を開いたまま白目を剥いていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 リーヴィットは辺りの椅子をつなげてローズロッサを寝かせている。


「仲良いんだな」


「そうね。なんだかんだ、5年くらいになるかなぁ。道に迷ってたどり着いたって言ってたわ。全身ボロボロで今にも空腹で倒れそうだったから、私が保護したの。確か、初めて会ったのは天召祭の夜だったっけ」


「天召祭?」


「言葉通り、私たちが天に召されるお祭りのことよ。年に1度、私たちを神の国に連れて行ってもらうために、盛大にお祭りを開くの。私はもう4回も祭りに参加してるのに、未だに連れて行ってもらえないのだけど。そろそろ()()()になっちゃうわ」


「この街に神が降りてくるのか?」


「わからないけど、多分。祭りの最後に眠るように意識を失うの。目が覚めた時には、選ばれた人はもういないわ。だからきっと、その時に降りてきているのかもしれないわね」


(可能性の域を出ないが、神を拝めるチャンスか……?)


「貴方達は運がいいわ。外の人たちは皆、神の国に行けるのよ。ローちゃんだけはなぜかそんなことなかったのだけどね。まぁそういう訳だから天召祭までいたらいいわ。もう明日だしね」


「明日!?」


 オリエ達は顔を見合わせた。


「宿は最高級のスイートルームを用意するから、ゆっくり旅の疲れを癒してね」


「なんか裏がありそうで怖いんだが」


「そんなことないわよ。外の人は神の国に行く可能性が高いから、私たちにとっては聖人様と同等なのよ。だから全力でおもてなしするの」


(それは本当だとしても、ローズロッサが例外なのは引っかかるな……)


「そういえば貴方たち、ローちゃんに用があって来たんだっけ? どんな用事なの?」


「あぁいや、俺たちの仲間になってもらえないかなって。神の国に行こうと思ってるんだ、俺たち。だから、腕の立つ仲間を探しててさ。ローズロッサが凄腕の剣士だって聞いたからスカウトしに来たって感じかな」


「神の国なら、明日まで待てば行けるのに」


「いやあ、向こう行ってからも安泰とは限らないじゃん。心配性なんだよ俺たち」


「ははぁ。この思慮深さが聖人たる所以なのかもですね……!」


「いやそれはどうかなぁ……。まぁそんな訳だから、また明日会いに来る……」


「お断りします」


 オリエ達が声の方を見ると、ローズロッサが椅子から起き上がっていた。

 その顔に先ほどまでの赤みはなく、切れ長の目が鋭利に煌めく。


 青き女剣士は告げる。


「私は神の国には行きません。ここにやり残したことがありますので」

ご覧いただきありがとうございます!


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますとめっちゃ嬉しいです!


ローズロッサ出ましたー。

そしてまさかの交渉失敗?


次回は6/20(土)の18時頃更新予定です。よろしければご覧ください!

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