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第4章 第1節『銀髪眼鏡のお姉さんは喫茶店がよく似合う』

 アヴニール王国、王都。メインストリート。


 煉瓦造りの大小様々なお店がひしめく通りを、黒髪の青年、オリエが歩いている。


 彼は時折かけられる呼び込みの声をスルーしながら、目当てのお店にまっすぐ入って行った。


 迷うことなく、長期保存が可能な缶詰やらレーションやらを大量に抱えてレジに向かう。


 今日のうちに王都を離れ、再び旅に出なければならないオリエは、その準備のための買い出しに来ていたのだった。


「ありがとうございました!」


 支払いを終えた彼は、片手に買い物袋をぶら下げながら店を出る。


(ラパンに頼まれてたコンビーフの缶詰も買えたし帰るかぁ)


 ラパンはコンビーフにマヨネーズを大量にかけて食べるのが好きだった。

 見てるだけで胸焼けしそうになるが、口の端にマヨネーズをつけながら心底美味しそうにそれを食べるラパンを見るのは、オリエの密かな楽しみだったりする。


 メインストリートから、宿のある道に続く路地裏に入ろうとすると、何かを探すように辺りをきょろきょろと見回す銀髪の女性の姿が目に入った。


「何かお探しですか?」


 オリエはその女性に声をかけてみる。

 近くに寄ると、フレームレスの眼鏡をかけていることが分かった。


「あ、いえ、"アドニス"という喫茶店の場所が分からなくて」


「あぁ、そこならそこの角曲がって少し行ったところですよ」


 オリエは前方にある曲がり角に指を差す。


「良かったらご案内しましょうか?」


 銀髪の女性の表情がぱぁっ、と明るいものに変わった。


「ぜひお願いしたいです。方向音痴なもので」


 オリエは銀髪の女性を連れ、喫茶店までの道を行く。


「王都に住まれてるんですか?」


「いや、旅の途中でたまたま王都に長居してただけ。貴女……」


「あ、私はアリエルと言います」


「アリエルさんは王都は初めてなんですか?」


「昔住んでたんですけど、暫く来ていなかったもので。すっかり街の様子も変わりましたね」


 様子が変わったと言われても、当然、オリエにはぴんと来なかった。

 アリエルは若く見えるが、そんな数年で迷うほどに変わるものなのだろうかと、オリエは思う。


 たわいもない話をしていると、目の前にアドニスの看板が現れた。


「ここでよかったですか?」


「ええ。間違いありません」


「良かった。それでは」


「あ、待ってください!」


 オリエが去ろうとすると、アリエルは袖を引っ張り引き止めた。


「良ければ一緒にお茶しませんか? ご馳走しますよ。案内してくれたお礼です」


「え、でも……」


(こ、これは逆ナンというやつでは……!!)


「ここのサンドイッチは絶品なんですよ! 以前住んでいた頃からの老舗ですから味は保証します!」


(昔住んでいた頃からって、老舗って言えるのか……?)


 ってか、サンドイッチ伯爵ってこの世界にもいたのかなぁ、などとオリエは色々と思うところはあったが、奢ってくれるというのなら吝かではないと、彼女の提案を承諾した。


 店内に入ると、窓際のテーブル席に案内される2人。


「これのセット2人分でお願いします」


 オリエを席に座らせたアリエルが、カウンターで注文する。既に作り置きされていたのか、間もなく料理が運ばれてきた。


「そういえば貴方のお名前は?」


「あぁ、名乗ってませんでしたね。オリエです。オリエ・ハジメ」


「オリエ君! いい響きのお名前ですね」


(いきなり君付け!? やっぱ逆ナンというやつなのでは!?)


「あ、ありがと……ござ……ます……」


 オリエはボソボソとお礼を言うものの、目線を合わせることができない。


 その後は、サンドイッチを食べながら、当たり障りのない話をした。

 今日の天気や好きな食べ物の話から始まり、アリエルが王都にいた頃の話、オリエの旅の話などなど……。


 お店に入ってから1時間ほど経ち、周りから見れば、2人はすっかり打ち解けているように見えた。

 少なくとも、2人は最初のような硬い表情ではなくなっている。


 そして、これは逆ナンなどではないということに、オリエはだいぶ序盤で気づいたのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「じゃあ、オリエ君の好きな人ってどんな人なの?」


「んー、純粋で素直で、ストレートに愛情表現してくれる人だよ。ふわふわの金髪とか澄んだ青い目とか、見た目も性格にマッチしてるっつーか。それに、俺にとっては人生の恩人みたいな感じだ。あいつに救われて今の俺がある、みたいな」


「いやー、恋してますなぁオリエ君。お姉さんは羨ましい限りだよー」


「アリエルさんは彼氏さんとうまくいってないの?」


「うーん、倦怠期ってやつなのかなぁ。彼が落ち込んだ時はそばに来てーって呼んでくれるんだけどね。それ以外は放置だよ放置。悲しくなっちゃうよホント」


「今、若干惚気入ったね、アリエルさん」


「あ、バレた? オリエ君はよく話聞いてるねぇ」


 アリエルはえへへ、と笑いながら水を一口飲む。


「アリエルさんの彼氏はどんな人なの?」


「そうだなぁ、寂しがりやかなぁ。そのくせ支配欲は強くてね。男も女も、みんな自分の事好きじゃなくちゃ嫌だーって、子供みたいな人。見た目も可愛い顔立ちしててね。褐色の肌がプルプルでもちもちで羨ましいくらい」


「ア、アリエルさん! 王都で同性愛匂わせる話はNGだよ!?」


 オリエは周りに聞こえないように、小声で注意する。


「あ! そうだっけね! 私はあんまりそういうの気にしないからつい言っちゃった」


 アリエルはてへっ、と舌を出す。


「私の彼氏は同性愛もOKの人なのよ。ライバル多くて大変だわ」


「その彼氏さん会ってみたいな。この国でそんな大それたこと言える人いるんだ」


「まぁ、この国の人じゃないからね」


「あぁ、そういう。……俺の好きな人も男なんだよ。見た目は可愛いけど」


 同性愛についての話をできる機会がそうそう無いオリエは、つい口を滑らせる。


「あら、そうなの? 偶然ね。私の彼氏も可愛い顔した男だし、君の好きな人に会ったら、私その人好きになっちゃうかも?」


「いくらアリエルさんでもラパンは絶対渡さないぞ」


「ふふ、冗談に決まってるじゃない。けど、オリエ君って一途なのね。その、ラパン君って幸せ者だわ」


「……彼氏さん、ちゃんとアリエルさんのこと見てくれるといいね」


「そうね……。私だけを見てくれたらいいんだけど……」


 メガネのレンズが反射してよくは見えなかったが、オリエにはその瞳は悲しそうに思えた。


「あ、あー! 俺、そろそろ出発の時間だから行かないと!」


「え、もう行っちゃうの!?」


 いたたまれなくなったオリエが席を立とうとすると、アリエルは思わず右手を伸ばした。


「みんな待ってるから……」


「そっか……。次はどこに行くの?」


「決めてない。とりあえず国を巡ろうかなって」


「……仲間、探してるって言ってたよね。どんな仲間が必要なの?」


「強い人。俺たちみたいに、少数派の人間に偏見持たない人だとなお良いな」


「1人、その条件に合いそうな人がいるんだけど」


「まじか! どんな人!?」


 オリエは勢いよく、再び席につく。


「"ジャパニーズサムライ"って自分の事言ってたかな。剣の達人的な意味だって。その通り、すっごく強い剣士だよ。なんでも斬り伏せちゃうの」


「ジャパニーズ……サムライ……!?」


 アドレナリンが、オリエの全身を駆け巡る。

 時が、一瞬止まった気さえした。


(日本人が……いる……?? この世界に、日本人が……!?)


「そ、その人の特徴は!?」


「黒い髪で……あ、そう! ちょうど貴方みたいな真っ黒で艶のある髪! それをポニーテールにしてて、瞳も黒くて、目は切れ長。女の私から見てもすごく美人だったよ」


(女なのかよジャパニーズサムライ!!)


「あと、なんか変な喋り方してた。ござる〜とか、せっしゃ〜とか」


(……その人は時を超えてきたのかな?)


「と、とりあえずその人の名前と、どこにいるか教えてもらっていい?」


「名前はローズロッサ。今はトラッシュタウンにいると思うよ」


「ローズロッサ……? もっとこう……なんつーか、俺みたいな名前じゃないのか?」


「本名は教えてくれなかったのよ。恥ずかしいから嫌って。だから、私の彼が付けた愛称みたいなものかな。見た目が薔薇のように凛としてるからって。……私は(ロッサ)より(ブルー)だと思ったけど、彼がロッサの方が響きがいいからって。まぁ、彼女、赤面症だから、ロッサでも間違いないとは思うけど」


(赤面症の凄腕女剣士でござる口調……。属性盛り過ぎじゃねぇ……?)


 オリエは右手で両目を抑え、天を見上げた。

ご覧いただきありがとうございます!


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますとめっちゃくちゃ嬉しいです。


第4章開幕しました。

オリエ君も美人のお姉さんと話す時は言葉遣いが柔らかくなりますね。

この章では最後の仲間を探すため、新たな冒険の旅に出かけます!


土曜投稿になってすぐですが、明日も投稿します(笑)

明日(6/7)17時頃の更新予定です。よろしければご覧ください!

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