第3章 エピローグ『幻獣小話/天使の聖域』
オリエ達3人は、宿へ戻る道を歩いていた。
睡魔に襲われているマルティの目は半開きになっている。
「なぁ、マルティ」
「なんだよ」
「風神・雷神ってお前なんだか知ってるのか?」
疑問だった。言われた時は特になんとも思わなかったが、よくよく考えてみれば、この世界にそんな概念はあるのだろうかと、オリエは思ったのだ。
「それだけじゃない。お前が変化するマンティコアとか、ガルーダとかも」
「んあー。この国にはねぇみたいだが、俺たちの国にはそういう伝承があるんだよ。ってかお前がそれ知ってるのは逆になんでだ?」
「お前自分で俺に言っといて……」
「しゃあねぇだろ、俺は俺の基準で話してたんだからよ。で、どうなんだよ?」
「いや、俺の国にもあるんだよ。そういう伝説が。風神・雷神はなんだったかな……? 千手観音の眷属だったっけな」
マルティは大きなあくびをして、言葉を返す。
「千手観音? いや、聞いたことはあるが、幻獣が幻獣の眷属ってどういうことだ? 幻獣はみんな最高神が創り出したもんで、平等な筈だぞ? 俺も詳しくは分かんねーけどさ」
「最高神が……? いや、そうか。俺の国の伝説とは違うみたいだな」
(つまりどういうことだ? 神の国においては、そういう伝説上の存在は一括りに"幻獣"とされてて、それは、最高神が生み出したものなのか。最高神が生み出したそれらと、俺が元いた世界の伝説上の存在が同じものなのは何か理由があるのか……?)
「!?」
ぶにっ、とオリエは頬をつつかれたのを感じた。
「もー。オリエくん、眉間にしわ寄ってるよ」
「あ、あぁ。ごめん、ラパン」
「難しい顔して何考えてたの?」
「え、えーと……」
考えていたことを正直に話したところで、異世界人でも神の国の国民でもないラパンには、まるでピンとこない話だろう。
(とはいえはぐらかすのもラパンに悪いしなぁ……)
「いやぁ、俺の国も神の国もこの国も全然違うんだなぁってさ。伝わってる伝説も異なってるし、歴史的な背景がそれぞれあるんだろうなって」
(これならどうだ。嘘はついていない。……大事なところは省いてるけど)
後ろめたさで、オリエの目がわずかに泳ぐが、ラパンはそれに気づかない。
「そっかぁ。オリエくんにとってこの国はどうだった?」
(君に出会えたことは嬉しいけど、君はこの国に来たこと後悔してるんじゃないかな……)
ちらちらとオリエを見ながら、ラパンは無理やり笑顔をつくる。
だが、オリエはその表情には気づかない。
(……どうしよう。正直、この国は嫌いだ。多分、ラパンもそう思ってるだろうけど、俺がそんなこと言ったら責任感じて落ち込まないだろうか)
ラパンの様子に気を配る余裕はなかったオリエだが、考えていることは間違いではなかった。しかし、良い返しは思い浮かばない。
(異世界ってなんかこうもっと夢の世界というか、人生うまく行くもんだと思ってたけど、ここはそうでもなかったしなぁ。うーん、異世界らしさ、異世界らしさ……俺TUEEは無かったし、チートスキルも無かったし、ステータス的なのもそういや無いな。後はなんだ? 問答無用で相手に好かれるとか、あぁそうだ!)
「ハーレムとか……」
ハッ、と、口に出してしまっていたことにオリエが気づいた時にはもう遅かった。
「え、ハーレム!?」
「い、いや違う! これはその……」
「ハーレムしたくてこの国に来たの!?」
ラパンがゴクリと唾を飲み込む音が、オリエの耳にもはっきりと聞こえた。
オリエの額には脂汗が滲む。
「そそそそんなことはないぞ。ハーレム願望自体はほら、男だったら皆それなりにはある訳ですよ。そうではなくてね……」
「僕ならその願い叶えられるよ!!」
「だから違うというかですかね、なんというかその……え?」
「先に帰って準備してるから! ゆっくり来てね!」
ピューっと勢いよく、ラパンは走り去っていった。
(あいつ、なんて言った? ネガイカナエラレル?)
言葉は聞こえていた。聞こえていたが、頭の中で整理ができない。
(はっ! そういやマルティは!?)
マルティに聞かれていたら一大事だと、彼女を見る。
「……Zzz」
(こいつ、立ったまま寝てやがる)
安堵のため息を漏らしたオリエは、マルティを背負い、再び帰路につく。
(思ったよりも軽いな……)
ーーラパンの過去、マルティの過去、シャンソンの過去。
自身の過去と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に辛いものだ。辛さに優劣をつけるべきではないだろうが、それでもみんなそれくらい辛い思いをしてきたことは間違いない。
ソレイユやガテムレックスにも、彼らにしか分からない苦痛がきっとあるのだろう、あったのだろう。
そんなみんなが俺に力を貸してくれている。
俺は、ラパンと幸せになりたい。その為には、この世界を変えなくちゃ。
神の国だって絶対的に幸せになれる場所じゃない。マルティの話を聞いて、そう感じた。
「でもまぁ、まずは妥当神、だな」
幻獣を創り出し、世界を相手に戦いを挑もうともしているという最高神。きっとそいつと戦えば、世界を変えるヒントが手に入る筈だ。
そのために、次は最後の仲間を見つける旅に出るんだーー。
オリエは再び、決意を固める。
街灯で足元を照らされた夜空のパレットには、満天の星々が大小様々に輝いていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
宿に戻ったオリエは、マルティを彼女の部屋のベッドに寝かしつけ、自身の部屋に戻る。
部屋の扉を開け、中を見るとーー、
「「「「「おかえり、オリエくん!!」」」」」
「「「「「僕のハーレムにようこそ!!」」」」」
一糸纏わぬ姿のラパン×10人がそこにはいた。
椅子に腰掛けるラパン。ベッドに寝転ぶラパン。
髪をくるくると弄るラパン。何か透明な粘ついた液体を準備しているラパン等々ーー。
そのうちの1人がもじもじして、オリエに近づく。
「ど、どうかな……? これならオリエくんに喜んでもらえるかなって思ったんだけど……」
上目遣いで顔を赤らめるラパンを見て、オリエの目線が泳ぎまくる。だが、視線を外しても外しても、必ず10人の中の誰かが目に入る。どのラパンを見たらいいのかわからない。
まるで、ラパンにいつも抱いている感情までもが10倍になったような心地だった。
「ここが天国か……」
「天国……あ、そうか!」
ーーフワッ
ラパン達の背中に一斉に光の翼が生える。
シャルロ戦の時とは全然違う、ちょこん、と可愛い翼が。
「今夜、この部屋は君のための天国だよ。オリエくん」
「あ……あ……」
言葉すら失った哀れな迷い子は天使の手に導かれ、その光り輝く聖域に足を踏み出したのだったーー。
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幕間というよりエピローグかな? と思って変更しました。
そして、大変申し訳ないのですが、第4章からは毎週土曜日の週一投稿になります。
時間は最新話の後書きでお知らせします。
急遽予定外の日時に投稿することになった場合は、Twitterでお知らせします。
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第4章プロローグだけは、明日(6/1)21時頃に更新予定です。その後は土曜投稿になります。
今後とも『オトコノコ神話』をよろしくお願いいたします。




