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第3章 終 節『アダルト・サバイバーズ』

「俺は神だが、ストックを使ったことはねぇ。だから、およそ8年くらい前の話だな」


 ーーマルティは神の国でも珍しい存在だった。


 そもそも国民のほぼ全員が不老不死の神の国で、新たに子供が産まれるということ自体が数百年ぶりであった。


 父がストックを放棄したのだから、跡継ぎを残すために子供をつくるのは当然のことだ。

 おそらく、基本的に寛容な神の国の国民なら、ただ子供ができたというだけであれば、祝福してくれた者がほとんどだろう。


 だが、自分たちの不老不死を脅かそうとする輩の娘を快く思うものはいなかった。


 それでも親父が自分を大切に育ててくれたから、自分は12まで何不自由なく育つことができた。

 けれど12の時、親父が死んだ。

 そして、自分は親戚に引き取られた。


 親戚と言っても、一体何百年前の繋がりなのかもわからない奴らだ。

 そいつらからすれば、自分はテロリストの娘。

 それが、丁重に扱われるわけがない。

 殴る蹴るなんてまだマシだった。


 手繰った記憶の先にいるその男は、幼い自分に手を伸ばし、そしてーー、


「神にもロリコンっているんだぜ? びっくりするだろ」


「………………」


 目を赤くして笑うマルティ。その話を聞くオリエの表情は動かない。


「ま、そんな状況だったから、親父との思い出とか誓いとかが俺の心の支えだったわけだ」


 マルティは再び目を伏せ、力無く言葉を発する。


「どうだ? ダセェよな、俺は。だから、簡単に親父との誓いを捨てるわけにも行かねぇ。死んでまで支えてくれた親父に顔向けできねぇから。……けど、それじゃ俺は戦えねぇって思っちまった……。お前にとってのラパンが俺の前に現れたところで、俺は親父を裏切れねぇ……。俺は、俺はどうしたらいい……?」


「……立派な親父さんだな」


「ああ……」


「きっと親父さんはお前が誓いを遂げることなんて望んでないと思うぞ」


 マルティはハッと口を薄く開き、目を見開く。


「てめぇ! 俺と親父の誓いを侮辱する気か!?」


 マルティはオリエの胸倉を掴んだ。


「侮辱はしない。きっと誓いを遂げればそれはそれで喜んでくれるとは思う」


「だったら……」


「けど、そんなに立派な親父さんなら、娘が自分との誓いよりもやりたいこと優先してた方がもっと嬉しいと思うぞ?」


「………………!!!」


 胸倉を掴むマルティの力が緩む。


 マルティは、頬の力まで緩んだ気がしていた。


「……あーあ。てめぇほんと……なんなんだ……」


(俺が言われたかったこと、そのままきれいに言いやがって……)


 自分はきっと、誰かに背中を押してもらいたかっただけなのかもしれないと、マルティは思った。


「俺はな。親父以外の奴を全く信用せずにここまで生きてきた。……けど、お前のことは……その、なんだ……信用っつーか……信頼してるよ……」


「……」


 オリエは、珍しくマルティが自分を褒めたような気がして、無意識に目を逸らす。


「だからな! お前と! お前が信頼してる仲間と一緒にいるのは悪くねぇ! ……だから、俺はこのメンツといつまでも楽しく過ごすために戦いてぇ!!」


 マルティは、ガラにもないことを言っている気恥ずかしさから、勢いをつけて言葉を放つ。


 ちっぽけな神の、精一杯の決意は、静寂の星空に吸い込まれていった。


 呼吸を整え、オリエを見上げる。


 オリエも彼女の目をしっかりと見つめ返した。


「……わりぃか?」


「……悪くない」


 マルティの顔は赤い。

 きっと勇気を振り絞ったのだろうとオリエは思った。


 マルティはこれまで誰も信用せずに生きてきたと言っていた。

 そのマルティが、本心をさらけ出したのだ。勇気を振り絞っていないわけがない。


 そしてそれは、自分自身も同じことだった。

 今更になって、自らの心臓の鼓動の速さに気付く。


 ラパン以外の誰かに、自分が"自分の意思"で"自分の意見"を伝えるだなんて、一体いつぶりだろうか。もしかしたら初めてなのではないか。


「なぁ、オリエ」


「……なんだ?」


「どうしてお前は、そんなに真面目に俺の話聞いてくれんだ?」


「それは……お前が真面目に話してるからだろ」


「……フ……ハハッ……ハハハハハッ!!」


 急に笑い出したマルティを前に、オリエは目を丸くする。


「どしたんだよ急に……」


「いいかオリエ! 今から俺とお前は相棒だ!! いつかはお前も神になるんだろ!? じゃああれだ。風神と雷神だ。俺たちは世界最強タッグになる! いいよな!?」


 子供のように目を輝かせるマルティを見て、オリエは頬の力が緩んだ。


「いいな! 風神と雷神! かっこいいじゃんか!!」


「だろ!? ……俺はぜってぇ、お前とお前が大切にしてるもんを守り抜く。だから、お前も俺を守ってくれ」


 マルティは拳を突き出す。


 オリエはその拳に、自らの拳を合わせた。


「その()()、乗った!!」


「オリエくんの相棒は僕ぅぅぅぅう!!!」


「のわっ!!?」


 背中に強い衝撃を受けたオリエが反射的に後ろを見ると、ラパンが腰に巻き付いていた。


「おっ! ヒヨコ!」


「ヒヨコじゃない!! もう! 2人してどこ行くのかなって後ろついてきたらこれだもん! ……まぁ、浮気ではなかったし、マルティも大変だったみたいだからちょっとだけならいいけど……」


 どうやら話は全て聞かれていたらしいと、オリエとマルティは気付く。


「ごめん、ラパン。まさかこんなディープな話になると思わなくてな……。わかってたら誘ったんだが……」


「ぶー。……まぁいいよ。僕の昔の話はみんなに聞かれちゃってるし、これでおあいこだね」


 ラパンはいたずらっぽく2人に笑いかけた。


 2人は顔を見合わせて口角を上げる。


 と、


「ふわ〜〜〜」


 大きくあくびをするマルティ。


「はは、眠くなってきちまった」


「明日は出なくちゃならないし、もう戻って寝るかぁ」


「そうしよう。あ、オリエくん今日は一緒に寝ようね♡ 出発したら、次いつ2人っきりになれるかわからないし」


「そうだなー。……眠れっかなぁ今日」


「お前らほんっとブレねぇな……」


 ーー凄惨な過去から生き残った彼らは今日を生き、未来を目指す。


 他人に壁をつくり、距離を取り続けてきた彼らは気付いたのだ。壁のこちら側には確かな仲間がいることに。


 彼らの結束はきっと何者にも崩せない。


 仲間をつくることの難しさを、苦しさを、この世界の誰よりも知っているからーー。

ご覧いただきありがとうございます!


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますと励みになります!


3章終節でした。

次回は幕間を挟みます。幕間とは言うものの、今回の続きです。分けたのは、今回で終わらせたほうがきれいかなーってだけの理由です。

幕間は半分真面目な話、半分いちゃいちゃって感じですので、気軽に読みに来ていただければと思います。


明日(5/31)9時頃の更新予定です。朝投稿です。よろしければご覧ください!

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