第3章 第14節『マイノリティが認められないこの世界で』
4人は再び王城への道を行く。
「なぁ、ガテムレックス、もう1つだけ聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう、オリエ君」
さん付けや様付けではよそよそしいと、フランクに呼び合うことにした4人。
「命のストックを奪う魔獣いるじゃんか。神の国が出来たの千年以上前とか言ってたけど、魔獣って最近出て来たんじゃないのか?」
「はぁ? "ラヴィ"だったら、大昔から召喚してたぞ?」
ガテムレックスではなく、マルティがその問いに答えた。
「……やっぱそうだよなぁ」
「どうかしたの、オリエくん?」
「いやさ、俺たちって元は地方に現れる魔獣を倒せって言われて王都を出たじゃん? あの時ってすでに……」
「あ! そうか、国王は神とやり取りしてるはずだ!」
「そう。なのに、神の使いである魔獣を倒せって矛盾してるよな? まだ出てきたばかりで、対処に困ってたから取り敢えず行けってことなのかと今思ったけど、そんなことはないみたいだし、どういうことだろう」
「どういうことなんだ筋肉野郎?」
ガテムレックスは頭をかきながら、バツが悪そうに話す。
「それが……国王は、実はそもそも魔獣を倒そうとなどしていません。お二人にそう命じたのは、王子を処刑するなどという不名誉な行いをせず、自らの見えない所で葬り去ろうとしていただけかと……」
「どこをつっついても最悪が零れ出るおっさんだなぁ、あの国王……。つまり、王都周辺の魔獣討伐を騎士隊がしてるってのも……」
「嘘ですね。騎士隊はノータッチです」
(ぜってぇもうあんな奴の言うこと聞かねぇ)
(あんなのと同じ血が流れてるなんて、オリエくんに嫌われちゃうかな……)
(クソ親父だな。ヒヨコ頭も苦労してるってわけか……)
(あぁ、皆さん難しい顔して……怒りますよねそれは……気持ちは分かります……)
その後は終始無言のまま、王城に辿り着いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
王城、玉座の間。
「よくきたな貴様達」
目の前の国王に、ガテムレックスのみが深々とお辞儀する。
「……さて、貴様らもなぜ呼び出されたのか分かっていると思うが……」
「シャルロの件だろ?」
「そうだ。あの一件でラパン、貴様の過去は王都中に知れ渡った。これ以上貴様をここに置いておくわけにはいかん」
「しかし国王、それでは神との……いえ、あの方達との約束は如何されるのでしょうか?」
ガテムレックスは、オリエ達がその事を知らないという体で疑問を投げかける。
「それについては先程連絡を取った。御前試合の映像を渡し観てもらったが、少なくともこいつらの強化ということに関しては達成したものと判断されたため、心配する必要はない」
「は。無礼をお許しください」
ガテムレックスは再び深く頭を下げる。
「では早速だが、明日の夜にはここを出てもらうぞ」
「明日!? 急すぎるだろ!? こっちは御前試合でダメージ受けてる!」
「シャンソンの治癒魔法ならすぐに治るだろう?」
(それでも本調子じゃねぇっつーの! くっそこのおっさん……)
「もう俺に貴様達をここに置いておいてやる理由もない。今からではないだけでも感謝してもらいたいもんだなぁ! ハーッハッハァ!」
オリエ、ラパン、マルティの3人は国王を睨みつけるが、国王はまるで意に介さなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
その日の夜。シャンソンの家。
「肉だ! 肉もってこい!!」
「もう、マルティさん、あんまり騒ぐと傷が開きますよー?」
「我が新たに傷を増やしてやっても構わんのだぞ?」
公務のためにオリエ達に同行できないシャンソンが、ささやかな夕食会を開いてくれていた。
テーブルには酒やら料理やらが大量に並んでいる。
ソレイユも合流して6人となったメンバーは、テーブルを囲んで談笑していた。
「オリエくんもあんまり飲みすぎたらダメだよ?」
「わかってるって。酒は嗜む程度にってな……ゴクゴク」
「って言ってるそばから!! もー!!」
「人生1回しかねーんだ。飲める時に飲んどかないとな!」
そう言って笑うオリエの顔色はまだ普段と変わらない。
「お! いいこと言うじゃねーかオリエ! 俺も付き合うぜ!!」
オリエとラパンの間に割り込んできたマルティが目の前の酒瓶を掴み、胃の中に流し込む。
「っっっぷはぁー!! うめぇ!!」
「マルティさんは本当に美味しそうに飲みますね」
ガテムレックスが明るい表情でマルティを見る。
「ふん。二日酔いは治してやらんからな」
シャンソンは無表情で空になった皿を集めている。
「だって、今までこんな風に誰かと飲むことなんてなかったからよ! そりゃあ酒も美味いってもんだ!!」
やや頬に朱が差しているマルティは満面の笑みで酒瓶を掲げた。
コツン、と、オリエはその酒瓶に自身のジョッキを重ねる。
「これからもよろしく頼む」
「おお! 当たり前だろ!」
マルティはオリエの肩に腕を回し、酒瓶から酒を煽った。
オリエも同じく喉を鳴らしてジョッキの酒を流し込む。
「ああ!! 僕のオリエくん盗らないでよぉ!!」
ラパンがマルティを押しのけオリエに抱きついた。
「ははっ! お前も一緒に飲もうぜーヒヨコ頭!!」
マルティはラパンの頭をガシガシと撫でる。
ラパンは嫌がるそぶりを見せたが、その手を払いのけることはなかった。
「ふふ。なんだか兄妹みたいですよねあの3人」
「ええ。まるで親になったような気分ですよ私は」
「そなたはまだあんな大きな子供がいる歳ではないでしょうに」
シャンソンがガテムレックスに突っ込む。
「まぁそれはそうなのですが、私が開いている相談室に来る若者達と被ってしまって。彼らは私のことを父のように慕ってくれるのでつい」
ガテムレックスは苦笑しながら頬をかく。
「相談室ですか。噂は聞いています。我が処刑した罪人の家族も、そなたのおかげで立ち直ることができたと言っていました。素晴らしい活動ですね」
「相談室……? 教会の懺悔室のようなものですか?」
教会で半生を過ごしてきたソレイユが、ガテムレックスに尋ねる。
「いやいや、そんな大したものでも聖なるものでもないですよ。私はただ悩みを抱える人の話を聞いているだけです。……しかし、この国にはそのような人は大勢いますよ。かつてのラパンテッド君のように誰にも言えない悩みを持つ人も大勢」
「……でしょうね。人間は一枚岩では無い。例え全く同じ環境にいたとしてもそれぞれのベースがそもそも違うのだから、人によっては生きづらさを覚えるのはある意味当然だ」
シャンソンは過去の日々を思い出す。処刑人というだけで、迫害を受けていたあの日々を。
「ええ。大多数の人々が苦しまずに生活を送れている環境では、そのような人々の声が周りから真摯に受け取られることは難しいでしょう。……ですから、御前試合でのラパンテッド君のあの言葉は、たくさんの人に希望を与えたと思うのです」
「……同感です。彼らならば理想を現実に変えることができると、我はそう感じていますよ」
「私もです。そして、私の持てる力の全てを持ってそのためのサポートをしたいとも。国の制度を変えるとか、政治的なところは我々が助けになれる部分も多いでしょうしね。彼らがどうしたいか次第ではありますが、私は彼らの意思を尊重して支えたいと思います」
「そうですね……我は公務で旅に同行はできませんが、神と戦う時になれば必ず駆けつけます。それまで彼らをどうかよろしくお願いします。ガテムレックス殿」
ガテムレックスは神から興味を持たれているオリエ達の監視役として、国王から同行が許可されていた。
「任せてください。誓いましたから、彼らの剣となり、盾となると」
ガテムレックスはシャンソンを見る。
シャンソンは笑顔を返した。
「なんだかよくわかりませんが……オリエ様なら大丈夫ですよ! だって私の世界を救ってくれたんですから!」
2人を見て、両腕でガッツポーズをつくるソレイユ。
その顔は何故だか、得意そうだ。
「ソレイユさん、共に彼らを守りましょう。彼らが少数派が認められないこの世界を変えられるように」
「はい! 私はオリエ様と共に新世界をつくる英雄になります!」
「……では我は二日酔い予防のスープでも作ってやるか……」
シャンソンは薄く笑みを浮かべ、厨房へと入っていった。
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次回はオリエとマルティのお話。明日(5/29)22時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。




