第3章 第13節『騎士隊長、ガテムレックス・マクシミリアン』
アヴニール王国、闘技場。
ラパンの試合の後、オリエは医務室に戻り、ベッドで横になっていたが、全ての試合が終了したため、宿に戻ろうとしていた。
ラパンと共に、闘技場の通路を歩いていたオリエは、前方から歩いてきた眉目秀麗な男に声をかけられる。
「ラパンテッド様、オリエ様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「ガテムレックスさん。俺たちは大丈夫だけど、何かありました?」
「ええ。国王があなた方に用があるとのことです。今から、王城まで出向いていただけないでしょうか」
「あぁ……シャルロのクソ野郎の尻拭いでもさせられるのかね」
「ごめんオリエくん……」
「ラパンのせいじゃねーから、気にすんなって」
目を伏せたラパンをオリエが励ます。
どこまでもラパンを苦しませるこの国に、オリエは身を裂くような憎悪を覚える。
「申し訳ありません……。私にはシャルロがすることを見ていることしかできませんでした。あなたの怒りが少しでも解消できるならば、その怒り、私にぶつけてください」
「前にも言ったような気がするけど、あんたのせいじゃないって。国の制度自体が問題だ。……とりあえず行こうか」
2人はガテムレックスとともに王城への道を行く。
途中でマルティとソレイユも合流したが、ソレイユは試合でのダメージを考え、先に宿で休ませることにした。
ソレイユを宿まで見送った4人は街の通りを歩いて行く。
「ガテムレックスさん。聞きたいことがあるんだけど」
オリエが尋ねる。
「はい、なんなりと」
「国王が俺たちを王都に連れ戻した本当の理由、あんたなら知ってるんじゃないのか?」
「それは……」
ガテムレックスは歩く足を止めた。
一つ小さな息を吐き、言葉を続ける。
「……知っています。……ここだと人が多いですね」
ガテムレックスは3人を連れ、人気の無い路地裏に入った。
「ここなら誰かに聞かれる心配もないでしょう。……さて、国王があなた方を連れ戻した理由。それは、そうしなければ国が滅びるからです」
「「「!?」」」
3人は目を見開いた。
何か裏があると思っていたオリエでさえ、その回答は予想外であった。
オリエは、ガテムレックスの言葉尻を繰り返す。
「国が滅びるってどういうことだ……?」
「順を追って話をしましょう。神の国、は皆さんご存知ですね?」
「そりゃあな。神の国が国滅亡に関係あるのか?」
「ええ。神の国は多くの神々が住まう国ですが、それを治めているのは最高神マリーダという一柱の神です。その神は千年以上前、神の国を建国しました。不老不死である最高神はそれからその千年もの間、国を治め続けているわけです」
「千年……」
オリエはゴクリと唾を飲み込む。
「最高神はその長い命の中で、神の国という1つの国だけを治めることに飽きていたのでしょう。他国を侵略する、という事を考え始めたのです。約1年前になりますか……最高神は我が国王にコンタクトを取ってきました。そして、その内容は一方的なものでした。神の国の領地を広げたい、手始めにアヴニール王国を滅ぼす、と」
「そんなこと、全然知らなかった……」
ラパンの頰に汗が流れる。
「理由は? 手始めにってのは単に近いからなのか? 他に理由が?」
オリエは疑問を口にする。
「近いから、というのはその通りでしょうね。とはいえ、最高神はただこの国を滅ぼそうとしているわけではありません。国王と、ある取引をしたのです。国は滅ぼすが、王都だけは残してやると。王都以外の住人を命のストックとして兵力を増やし、国王を始め、他国とのパイプを持つ人間が多い王都の人間を参謀役に他国を滅ぼす戦略を練る、といったところのようです」
「王都が神の国の一部になるってことかよ……?」
マルティが口を尖らせる。
「そういうことですね。そして、神の国一強の世界を創る、というのが最終目的だそうです。途方もない話ですが」
真剣に話を聞いていたオリエが、何かに気づきゆっくりと顔を上げる。
「……で、俺たちが王都に来ることと何が関係してるんだ?」
「あぁ、そうでしたね。その話がまだでした。最高神と国王のやり取り……と言っても、最高神が一方的にこちらから情報を聞き出したり、気まぐれに向こうの話をしてくれたり、といった感じですが……そのやり取りが1年ほど続き、本格的に侵略に移ることとなった矢先のことです。最高神の部下から、最高神の興味が侵略からあなた方に移った、という連絡が入ったのです」
「「はぁ!?」」
オリエとマルティは同時に聞き返す。
ラパンは開いた口を手で塞いでいる。
「あなた方が神に挑戦しようとしていることを知った最高神は、侵略よりもあなた方と戦う方が面白いと思ったのでしょう。神と戦えるレベルまであなた方を強くするよう、国王に命じたのです」
「俺たちの成長は仕組まれてたってことか……」
自分達は最高神の掌の上で転がされていたに過ぎないことを知り、オリエは臓物を握られるような感覚を覚えた。
「そういうことになりますね……。国王としては、それに従うことで、必死に最高神の興味をあなた方に惹きつけようとしているわけです」
「……納得はいった。それであんなに下手に出て、うろたえてたのか国王」
「私からも、質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ。俺たちに答えられることであれば」
「……あなた方、神に挑戦しようというのは本当なのですか?」
ガテムレックスは、困ったような顔をして、けれど真剣に3人に尋ねた。
「……そうだ。俺たちは神と戦う。"7つの希望"に勝って、神の国に住むことを許可してもらうんだ」
「お、おい! お前そんな正直に!?」
答えたオリエの袖をマルティが掴む。
「こいつ国王の手下だぞ!? そんなペラペラ喋って……」
「大丈夫だよマルティ。ガテムレックスさんは信用できる。……なんとなく」
「おい! なんとなくかよ!?」
袖から手を離したマルティは、首を振って大きくため息をついた。
「しゃあねぇ。お前がそう言うなら信頼できるんだろうよ。仕方ねぇから信用してやるよ筋肉野郎!」
「筋肉やろ……え、私のことですか!? ……まぁ、信用していただけるのは嬉しいことです。勿論、ここで話したことは誰にも口外するつもりはありませんよ」
「勿論、俺たちもだ」
オリエとガテムレックスは笑顔で互いを見つめる。
「……あなた方は、どうして神の国の住人になりたいのですか?」
「ラパンと一緒に幸せになるためだ」
ラパンは顔を赤くして視線を横に向ける。
ガテムレックスは、今の言葉でおおよその事情を察した。それは、この国では難しくとも、神の国でなら確かに可能かもしれないとも思った。
「"7つの希望"は言葉通り7人で構成されていると聞いています。あなた方の味方は何人いるのですか?」
「俺たち3人とソレイユ、それからシャンソンだ」
「シャンソン様も……。それでは現在は5人ということですね?」
「そうだな」
ガテムレックスは片膝をついた。
右の手でオリエの左手を優しく掴む。
「ガテムレックスさん……?」
「……私を、仲間に入れていただけないでしょうか?」
オリエはラパンとマルティを見た。
ラパンは大きく頷いた。
マルティはニッと口角を上げる。
「勿論! よろしく、ガテムレックスさん!」
「ありがたき幸せ。アヴニール王国第7騎士隊隊長ガテムレックス・マクシミリアン。あなた方の剣となり盾となり、この命ある限り戦い抜くことを誓いましょう」
頭を垂れ、優しく、けれど力強く誓いを告げるガテムレックス。
再び立ち上がった彼がオリエ達を見る目は、戦友に向ける眼差しへと変わっていた。
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ガチムチ騎士、ガテムレックスが仲間になりました。
そして、オリエ達もだんだん神の国と王国の状況を飲み込んでいきます。
次回は明日(5/28)12時頃の更新予定です。お昼になります。よろしければご覧ください。




