第3章 第12節『最高神と風の妖精』
神の国、最高神の神殿。
時は、2か月ほど遡る。
オリエ達に敗れたガルダは、最高神マリーダの元を訪れていた。
「いやー、派手にやられたねーガルダちゃん」
マリーダは軽い調子でそう言いながら、治癒魔法でソファに座るガルダの傷を癒している。
「す、すみません……。下界人ごときに遅れをとるとは……。それに、マリーダ様に傷を癒していただくなど大変恐れ多く……」
「いいのいいの! 今回は私から呼んだんだから。それにこれくらい私にかかれば一瞬だよ」
言葉通り、ガルダの傷は瞬時に癒えていく。
「ありがとうございます……」
「はいはーい。そのかわり〜……えいっ!」
マリーダは彼女のほっぺを両手で挟み、むにむにと揉んだり、つねったりしている。
「ガルダちゃんのほっぺ、相変わらずもっちもちだね〜。定期的に堪能したくなっちゃうよ」
「や、やめふぇくらふぁい〜」
「え、やめていいの?」
「あ、え!? 冗談です。もっとやってください」
マリーダが頬から手を離して尋ねると、狼狽しながらも何故かキリッとした顔をして、逆に懇願するガルダ。
「だよね〜♪ ふふっ。もーっちもーっち」
「あふ〜」
ガルダは幸せそうな顔で自らの両頬をマリーダに弄ばれる。
「ところでガルダちゃんさー。彼らはどうだった? 君はどう思った? 何でもいいから教えてよ。あ、能力とかは分かってるから、それ以外で」
マリーダは、ガルダが話しやすいように、頰を触る力を少し緩めた。
「マルティコラスと他の3人ですか? そうですね……マルティコラスは国を出る前と何も変わらないなって感じです。性格も強さも。あぁでも、なんだか仲は良さそうでしたね。他の3人と」
「あれぇ? もしかして嫉妬しちゃったんじゃない?」
「ありえません。私は彼女の事嫌いですので」
「あっはは。まぁわかってて聞いたんだけど。で、他の3人は?」
「黒髪の男は冷静ですね。直接戦闘に参加せず、機を伺っていました。彼らの頭はおそらくあの男でしょう。茶髪の女は攻撃に迷いがなかった。敵に回すと厄介なタイプかと感じました」
「ふむふむ。あとは?」
「もう1人は……。なんというか、理由がわからないのですが……気になっています。これを言うとマリーダ様に大変失礼かと思うのですが……」
「いいよ。怒らないから言ってごらん?」
「分かりました……。マリーダ様と似ているな、と感じました。姿形だけの話ではありません。理屈はわからないのですが、貴方に抱く感情に近いものを感じたのです。……すみません、要領を得なくて……」
「いや、言いたいことは分かったよ。ありがとう。やっぱり予想通りだ」
「予想通り、ですか?」
「ううん、こっちの話。……まぁでも、ちょっとだけならいいかな。君もその感情の意味がわからないとモヤモヤするでしょ」
マリーダはガルダの頬から顎に手を移し、瞳をじっと見つめる。
憧れのマリーダから真っ直ぐに見つめられたガルダは、頬を赤く染めながら視線を返した。
「君が私やその下界人に抱いている感情はね、君達神の国の住人のDNAに刻み込まれているものなんだ」
「DNA……?」
「そう、DNA。だから悩まなくていい。君達はこの国の創造神である私に好意を抱くように出来ている。私に似ている下界の彼に対してもその特性が発動したのだろう」
「それは、神の国の住人だけなのですか……?」
マリーダの顔が、やや曇る。
聞いてはまずいことを聞いてしまったのかと、血の気が引いていくガルダだったが、それに気づいたマリーダは優しく微笑み、言葉を返す。
「それはね……」
「マリーダ様! 失礼致します!」
マリーダとガルダは、一斉に声の主に視線を向けた。
「はっ……! お取り込み中でしたか、大変申し訳ございません!」
神殿に入ってきたのは、"7つの希望"リーダーのヒュドラだった。
「いやいや、良いところに来たヒュドラ君。で、何用かな?」
「ラヴァルテッド国王が、オリエハジメ他3名を王都に招集しました。直ちに、彼らの強化に入るそうです」
「おっ! 仕事が早いねー! いいよいいよー! また動きがあったら教えに来てね」
「はっ! 最高神マリーダ様の仰せのままに!」
ヒュドラは深々と一礼し、神殿を後にした。
「マリーダ様。今の話は一体……?」
マリーダは、ガルダに計画の一部を話す。
彼らが神の国に挑戦しようとしていること、それを少しでも面白くするために、彼らを強くしようと思っていることを。
「どう? 君のリベンジの機会も割とすぐにやってくるかもよ?」
「それは大変ありがたいことです。しかし、下界人のためにマリーダ様がそこまでされるなど……」
「彼らのためじゃないから。私の娯楽のためだから。だから、ガルダちゃんは気を揉まなくていいの! 揉むのはここだけー!」
「ふぁっ!?」
マリーダは、再びガルダの餅のように柔らかい頬をいじり倒すのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
ガルダが神殿を去った後、眼下に広がる自国を眺めながら、マリーダは物思いに耽っていた。
(ガルダちゃんには喋りすぎちゃったなー。別に知られてもいいけどさ。あんまり過去のこと思い出したくないんだよなぁ……)
「マリーダ様」
「うぉう!? ってシルフィードか。長い間一緒にいても、君の足音を聞く耳は一向に養われないよ、まったく」
「失礼しました。驚かせるつもりはなかったのですが」
眼鏡をかけた長身の女性、シルフィード。
"7つの希望"のメンバーの1人である。
「それに、誰もいないし畏まらなくて大丈夫だよ?」
「そう。それなら遠慮なく」
シルフィードは、ふふっと微笑み、身体の力を抜く。
「マリーダ君、そろそろみんなに話してもいいんじゃないの? 昔の事も、みんなの祖先の事も」
「シルフィード、君さっきのやりとり覗いてたね? 風の妖精はこれだから。音もなく忍び寄り、音もなく去っていく」
「ふふ。でも貴方は許してくれるでしょ?」
「それはまぁ、そうだけどね。……で、みんなに私の過去を暴露しろって? 嫌だね。私は思い出したくないんだよ」
「そう。まぁ、マリーダ君がそういうなら私は待つだけよ。私たちは人生長いんだし」
シルフィードは、んっ、と伸びをして笑顔でマリーダを見る。
「じゃあ話を変えるけど、オリエ君、だっけ? 彼らのこと強くなんてしちゃって大丈夫なの? 万が一にでも私たちが負けたら、この国はただでは済まないと思うけど」
「大丈夫だよ。仮に負けても、彼らはそこまでだ。彼ら、というかオリエ君か。けど、彼らはオリエ君の言うことは聞くだろうから、オリエ君さえなんとかできれば問題ない。で、彼にはもう手を打ってあるから」
「チャームの話?」
「そ。彼の世界からこっちにくるルートには、自動的にチャームをかける機構を設置してるからね。異世界人の時点で彼は私に逆らえないよ」
「チャームは完全じゃないし、解除されたら意味ないでしょう?」
「確かに完全ではない。面と向かってならまだしも、不特定多数に半永久的に効果を及ぼそうと思ったら、私という存在そのものに魅了させるチャームなんて不可能だ。いくら私が世界最強の魔法使いだとしてもね」
シルフィードの反論に肯定しながらも不敵な笑みは崩さないマリーダ。
「だから、あくまでチャームはアイコンに対してだ。私のように、男だが、女性的に可憐。つまりは男の娘で、華奢で、男にしては小柄で見た目は10代後半。そういうアイコンに強烈に惹かれるようにしてある。だが、それで十分だろう? 私がそれらのアイコンを失うことはないのだから」
「男の娘……数年前に異世界で流行り始めた概念だっけ? 確かに貴方は可愛いけど、自分で可憐とか言うのはどうかと思うわ」
「あっはは。君に可愛いと言ってもらえるのなら可愛いんだろうさ。……あー、あと解除されるかもって話だけど、私の仕掛けたチャームが解除されることなんてあると思う? 1,200年前でさえ、私を超える魔法使いなんていなかったのに」
「なにが起きるか分からないでしょ? 完全なんてものはこの世には無い。だから貴方は苦しんで、そしてこの国を創ったんでしょう?」
シルフィードの言葉を聞いたマリーダの目は曇り、俯く。
「……。結局、話戻ってるじゃないか。昔の話はやめて。聞きたくない」
「あ……ごめんなさい……。……まぁ、この国を何百年も治めてる貴方だもの、過剰に心配してるわけではないわ。ただ、少しは心配してるから、声をかけに来ただけよ」
「……うん。ありがと、シルフィード。……あのさ、今夜は、一緒に過ごしてもいいかな」
「もちろん。私が唯一愛する貴方。貴方がそう望むのならば」
(1,000年経っても甘えんぼは治らないわね。そこが可愛いのだけれど)
会話を終えた2人は神殿の奥に去っていく。
ーー風の妖精、シルフィード。
彼女は、他の神とは根本的に在り方が違う。
彼女の不老不死に、ストックなどは必要ない。
妖精は、人間との恋が成就することで不老不死を得る。
シルフィードもまた、マリーダとの恋が成就したことで不老不死を得ているのだった。
彼女は最高神マリーダの最初の味方であり、そして、彼の過去を知る唯一の存在である。
不老不死を得る前、かつてただの妖精であった彼女は、まだ性別というものが無かった。
性別もまた、恋の成就に伴い、自己決定するものだったのだ。
彼女は、女という性を選択した。
これには、マリーダの過去が大きく関係しているのだがーー。
世界最強の魔法使いと風の妖精の出会い。恋。その成就。
その恋物語はまた、別の機会にーー。
ご覧いただきありがとうございます。
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今回の話は時系列的にはガルダ戦の直後になります。
男の娘と女キャラの絡みもいいですよね……。
次回はオリエ達の話に戻ります。明日(5/27)7時頃の更新予定です。朝更新です。よろしければご覧ください。




