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第3章 第11節『ここはずっと地獄だったけれど』

 アヴニール王国、闘技場中央。


 過去に因縁を持つ2人が向かい合っていた。


 ラパンテッド・ランカスターとシャルロ・シュルマイスター。

 元第3王子とその従者。


 ラパンは、思い出したくもない過去を自身の力で乗り越えるため。

 シャルロは、思い出したくもない過去の憎悪を晴らすため。


 かつての主従が合間見える。


「第15試合、冒険者ラパン対クレモワール家従者シャルロ・シュルマイスター! 始め!!」


 ラパンは、元王子であることが国民にバレないよう、フルネームを伏せていた。

 王族や貴族、一部の役人にはラパンの過去や王都を追放になった理由は知られているが、世間体を気にする国王により、多くの国民には知らされていなかった。

 知らされていない大勢の国民の認識は、ラパンテッドはとある罰を受け王都から追放となった、程度のものである。


(だからこそ、私がここで貴様を完膚なきまでに叩きのめし、その後、貴様の過去を暴露する。国王はいい顔をしないだろうが、有力な貴族の殆どには根回し済みだ。私が処されることはない。……貴様の苦しむ姿を見たいのは私だけではない。この国の有力者の多くが、貴様の不幸を望んでいるのだ! ラパンテッド!!)


 シャルロはニヤリと笑い、告げる。


「ラパンテッド。一瞬だ。一瞬で終わらせてやるぞ……!!」


 シャルロはマナで生成した100近い光弾をラパンに撃ち込んだ。

 怒涛の攻めに、ラパンの周囲の地面がえぐれて土煙が捲き上る。


「ふはははは! 私は魔法学園上級クラスで在籍当時トップ10に入るほどの実力者! 上級クラスでトップ10ということは、その代の全学生のトップ10ということ!! 貴様にこの光弾の嵐が防げるか!? ラパンテッド!!」


 ラパンを見下しているシャルロは、自身の勝利を疑わない。

 過去の実力差からすれば、それも当然のことではあった。


 土煙が晴れていく。

 煙の中から、キラリと光る何かが見えた。

 シャルロも、観客も、それをよく見るために目を凝らす。


「な……!?」


 驚嘆の声を上げたシャルロの目には、自らの前方、側面及び上方に光の盾を張り巡らせたラパンの姿が映った。


「光の盾だと……? 他属性に比べ耐久力に劣る光の魔法で私の攻撃を防ぎきったというのか……!?」


 シャルロも適性は光であるため、光の盾の脆さはよく分かっている。

 あの攻撃を光の盾で防ぎきれるはずがない。彼は不可解に思っていた。


「不思議? じゃあネタばらししてあげる」


 そう言ったラパンは、盾から、光のコーティングを剥がしていく。

 現れたのは……、


「水魔法の……盾だと……!?」


 地面から立ち昇る水柱のような盾が、ラパンの前にその姿を現した。


「そう。耐久力最強の水魔法の盾だよ。そして光魔法はレジストの特性がある。光のコーティングで君の魔法の力を弱め、水の盾で受ける。頭いい君なら理屈はわかるでしょ?」


「理屈はわかる……わかるが……。貴様、一体いつの間にそのレベルの水魔法を……!?」


 ラパンの適性は光。それにシャルロが知るラパンは初級魔法しか使えなかったはず。

 いくら鍛え直したからと言っても、適性外の上級魔法をこの短期間で習得できるはずがない。


 シャルロの頭の中では、疑問と否定が繰り返される。


「ヒント。魔法適性判別球(サーチボール)では、()()()()()()()()()()()しか判別できない」


「最も適した属性1つのみ……っ!! 貴様、まさか……。二重……適性……!?」


 シャルロの回答を聞いたラパンはニヤリと笑う。


 魔法適性判別球(サーチボール)では、たとえどれだけ僅差であろうと、最も適した属性のみしかわからない。

 しかし実際には、その最も適した属性並みに適している他の属性が存在する場合がごく稀にある。


 これを多重適性と言う。

 ラパンは光と水の二重適性者だった。


「魔法学園でも10年に1人いるかいないかという、まさしく才能の領域……。貴様が二重適性者だとぉ!?」


 自らの才能を超える才能。しかもそれを堂々と自分に話す余裕。

 プライドを刺激されたシャルロは苛立ちと焦りで頭に血がのぼる。


「ふざけるなぁ!! ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁあ!!!!」


 シャルロは再び、光弾の雨をラパンに降らせる。


「くらえくらえくらえくらえぇぇぇぇぇぇええ!!!」


「"キラキラ輝く(フォーテレス)僕らの要塞(・インプルネーヴル)"」


 光と水の渦潮がラパンを中心に展開する。

 渦潮はシャルロの光弾を飲み込み、弾けた。

 散らばる光と水の雫がシャルロを襲う。

 まるで光り輝く教会のステンドグラスのような、ライトアップした水のイルミネーションのような美しさに、観客は思わず息を飲む。


「うあぁぁぁぁぁあ!!!」


 身体中に雫を食らうシャルロ。

 受けたところから、鮮血が噴き出す。


「くそ! くそぉ! ……だが! 貴様は受けてばかりで仕掛けてこない! 今のもカウンターだ! 守りばかりで攻撃の方は大したことがないんじゃないのかぁ!?」


 怒りで頭が沸騰しようとも、自分が優位であることを疑わないプライドが高いシャルロは、皮肉交じりの挑発を行う。


「僕が攻撃できないって? じゃあ試してみようか」


 ラパンの背中から、眩く光る一対の大きな翼が広がった。


 ラパンは左手をシャルロの方向に突き出す。

 その左手からは光の弓が現れた。


 ラパンは光の弓に右手をかけ、引きしぼる。


 光の弓から右手には、光の矢が伸びていた。


「"僕たちの為(モアエトア)()祝福の天使(キュピドン)"!」


 ラパンは光の矢から右手を離す。


 光の矢はシャルロの右頬をかすめ、後方の壁を貫いた。

 シャルロは、光の盾を展開したのだが、矢はまるで盾が薄紙かのように貫通したのだ。


「そん……な……」


 ラパンとの力の差をまざまざと見せつけられ、落胆するシャルロ。


 だが、シャルロの計略は戦いだけではない。


(せめて、せめて貴様を再び地獄に落としてくれる……!!)


「アリス様!」


「了解しましたわ! シャルロ!」


 シャルロは、観客席の最前列にいたアリスに声をかける。

 それを受けたアリスは、今2人が戦っている闘技場中央の真上に、マジックアイテムにより巨大なヴィジョンを現出させた。


 そのヴィジョンに映し出されたのはーー、


 ーーかつて、ラパンがシャルロに告白した場面だった。


 捏造だ。実際にあの場面を記録として残しているものなどいるはずがない。


 そう思うものの、自らの奥底にしまい込んだ思い出したくない過去が心を乱し、ラパンは数歩後ずさる。


 それに見れば見るほどこれは……。


「思い出したか? ラパンテッド。これはあの時の私の記憶から作成した映像。捏造ではありませんよ? 私の記憶なのですから」


 顔を赤くして、泣きそうになりながら告白する、映像の中の自分。

 あの時の感情がリフレインする。

 自分はあの時、どれだけ緊張して、どれだけ練習して、どれだけの思いであそこに立っていたか、昨日のことのように覚えている。

 だからこそ、そんな出来事を大衆の前で晒されていることが辛くて惨めで仕方がない。


 それでも今のラパンは泣かなかった。

 唇を噛み、耐える。


 映像が終わり、観客はざわついている。


 事情を知っている貴族たちは、ニヤニヤとラパンの反応を楽しんでいる。


 ヴィジョンには、シャルロの姿が映し出された。


「この通り! 今、私と戦っているこの男は! 元第3王子、ラパンテッド!! 今こそ王都追放の真実を皆様にお伝えしましょう!!」


 シャルロは、ラパンが同性愛者であること、告白を受けたこと、それがどのような罪に当たるか、自分がどれほど不快な思いをしたか等、観客の心に訴えかけるように説明していく。


 ラパンは、自分の心が一枚一枚服を脱がされるような、公衆の面前で無理やりストリップショーをさせられているような気分になった。


 自分にとって見られたくないものが、昔愛した男によって暴かれていく。


 それでも、ラパンは涙を流さなかった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 医務室。


 ヴィジョンに映し出されたラパンの過去を見るや否や、オリエはベッドから起き上がり、ラパンの元へ急いだ。


 オリエは思うように動かない身体を引きずり、選手入場口まで来る。


 闘技場中央を見ると、何やらシャルロが演説をしている。


(くそ! あの野郎やっぱ俺がぶっころ……)


 オリエが動こうとしたその時、ラパンの顔がヴィジョンに映し出された。


 シャルロの説明が終わり、ラパンの表情を見るために、アリスが切り替えたのだ。


(あいつ……)


 ラパンは、泣いていなかった。

 血が出るほど唇を噛み締め、肩は震えていたけれど、それだけだ。涙は流れていない。


 それを見て、オリエは思い出す。

 これは自分の問題だと、自分で解決すると言ったラパンの言葉を。


(俺は、これに手を出しちゃだめだ……。これはあいつの戦いだ……)


 オリエは、怒りに震える身体を抑え込む。


 ただ真っ直ぐラパンを見て、信じると、決心した。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「引っ込め! 欠陥品が!」「どのツラ下げて帰ってきたんだ!」


 事情を把握した国民も含め、観客席中からブーイングの嵐がラパンに浴びせられる。


「さぁ、ラパンテッド。何か言うことはあるかい?」


 シャルロがラパンに問いかける。


 ラパンは顔を上げ、静かに話し始めた。

 観客からの罵詈雑言の中だったが、アリスがその声を拾い、映像にのせる。


「僕は、シャルロ、君のことが好きだった。それ自体を後悔したことはないけど、告白したことで君が抱く必要のなかった悪感情を感じていたならごめん」


「やっぱり!」「本当だったんだ!」「王都から出て行け!」


「僕が君に言いたいのはそれだけ。それだけはずっと申し訳ないと思っていたから」


「ふはははは! 今さら謝罪か!? すでに遅いわ! これで貴様の居場所は本当の意味で王都にはなくなった! 哀れな欠陥品よ! ラパンテッド!!」


 ラパンはそれには答えず、言葉を続けた。


「観客のみんな! 1つだけ聞いて!」


 ブーイングは止まないが、シャンソンやガテムレックス等、一部のものは耳を傾ける。


「僕は重罪人だ! この国の法律では! だけど、人を愛することってそんなにいけないことなの!? 僕は好きになった人がたまたま男だっただけだ! この中に、そんな人は本当に1人もいないのかな? 恋愛だけじゃない。みんなと違うことを考えているけど、迫害を受けることが怖くて言い出せない人はいないのかな!? ……僕は、そんな人たちが自分の意見を殺さなくちゃいけない世界を変えたい! 今すぐには無理だけど、いつか絶対に変えてみせるから! だから、もう少しだけ我慢して! みんな!!」


「そんなやついるかぁ!!」「周りを巻き込むんじゃねぇ!!」「反省しろ重罪人!!」


 ブーイングは一段と強くなる。


 だけど、ラパンにはわかっていた。

 この言葉を待っていた人間は確かにいることが。

 なぜなら、かつての自分がそうだったから。

 彼の言葉に助けられたから。


 "世界を変えたい"。それは、自分たち少数派の我を通すために多数派の価値観を捻じ曲げるのではなく、多数派や少数派なんて言葉が意味を為さないくらい、多様性のある世界を築きたいということ。


 自分は彼と共に幸せになる。そして、その延長線を歩いていけば、きっとそんな世界を創り上げられるという、妙に確信めいた思いがある。


 こんな途方もないことを思えるようになったのも、やっぱり彼がいたからだ。どれだけ現実に打ちのめされても、優しく抱きしめて、癒してくれる彼がいるから。だから、自分はきっと何度傷ついたとしても、その度に、何度でも立ち上がれるという、絶対的な自信につながる。


「ラパンテッド様。やはり貴方は我には眩しい存在です」


「立派になられました。貴方のようなお方に仕えられたらどれほど名誉なことか」


 野次が飛び交う中、シャンソンとガテムレックスは穏やかに、ラパンを見守る。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「あいつ、強くなったな」


 選手入場口でラパンを見守っていたオリエは、後ろから声をかけられた。


「……マルティ」


「よぉ、身体は大丈夫かよ」


「なんとか。お前はピンピンしてるな」


「俺は雷神だぞ。当たり前だろ」


 マルティはその後に言葉を続けようとして、少し躊躇った。


 だが、ここしかないと思い、その言葉を口にする。


「……あいつが、お前の戦う理由か?」


「……そう、かもな。正確に言うなら、あいつと一緒に幸せになりたいからだ。俺が戦うのは。……あいつもそのためにああして戦ってる。俺たちはお互いがいなきゃダメだけど、お互いがいれば頑張れるんだ」


 そこまで話して、オリエはマルティから向けられる真っ直ぐな視線に気づいた。


「ん? こういう話じゃなかったか?」


「いや、そういう話だ。それが聞きたかった。……オリエ、夕飯食った後でいい。今夜、ちょっと面貸せ」


「なんかあったのか?」


「……話したいことがある。それだけだ。じゃあな」


 マルティは、それだけ言うと観客席に戻っていった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 ラパンをシャルロが睨んでいる。


「言いたいことはそれだけか? ラパンテッド。貴様は地獄の入口に立った。これから明けない暗闇が貴様を待っているぞ? 気分はどうだ」


 シャルロは、予想していた反応を示さなかったラパンに追い打ちをかけようとした。


「うん? それがどうしたの? これまでもずっとそうだったけど」


 それに、と、ラパンは続ける。


「今はもう新しい恋をしているからね! 地獄でも楽しく観光なんてしちゃったり」


 ニコッと笑い、シャルロに告げる。


「ところで、これはどっちが勝ちなの?」


 ラパンはレフェリーに尋ねる。


「え、そ、それは……」


「火を見るよりも明らかでしょう? 何を戸惑っているのですか?」


 シャルロはレフェリーを睨みつける。


「ひっ……しょ、勝者! シャルロ・シュルマイスター!!」


 割れんばかりの大歓声がシャルロに向けられる。


 観客へ深々とお辞儀をするシャルロを尻目に、ラパンは選手入場口に引き返した。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


「あれ? オリエくん! だめだよ安静にしてなくちゃ!」


 ラパンは選手入場口にオリエを見つけ、小走りで近づく。


「いやぁ、気になっちまってさ。でも良かったな、あいつに勝てて」


「……試合は向こうの勝ちだよ?」


「……勝負はお前の勝ちだろ」


 咄嗟にラパンは、オリエに抱きついた。

 自分の居場所はここにある。

 だから自分は頑張れる。

 張り詰めていた緊張の糸がふっと緩んだ。


「ラパン、泣いてんのか……?」


「……泣いてないよ。泣いてない……」


 オリエは、その震える細い身体を優しく抱きしめる。


「よく頑張ったな、ラパン」


「……うん。ただいま、オリエくん」

ご覧いただきありがとうございます。


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますとめっちゃ嬉しいです。


また1つ過去を乗り越え、ちょっと強くなったラパン。

男の娘にはいつもキラキラと輝いていてほしいものです。


次回は久しぶりの神の国。明日(5/26)21時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。

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