第3章 第10節『炎の弾丸』
闘技場、医務室。
「……ラパン?」
目を覚ましたオリエの視界に、心配そうな顔をしたラパンが映る。
「よかったぁ……。マルティの大馬鹿がお腹貫いた時は、心臓止まりかけたよ……」
ラパンはへなへなとベッドに倒れこむ。
「はは、割と容赦なかったなーあいつ。ってか、結局、試合はどうなったんだ? 最後の方とかあんまり覚えてないんだが」
「引き分けだよ、引き分け。2人同時に気絶してお終い」
「引き分け? そうか、あいつと引き分けか」
自然と笑みがこぼれたオリエだが、大事なことに気づいて再び顔がこわばる。
「マルティは!? あいつは大丈夫か?」
ラパンは、少しだけむすっとして、その問いに答える。
「ピンピンしてるよマルティは。1時間くらい前に目を覚まして、今は観客席で試合見てるよ」
「そうか……。元気なら良かった」
試合の記憶はおぼろげだが、なんとなくマルティも傷だらけだったような記憶はあったオリエは、それを聞いて胸を撫で下ろした。
精神的に落ち着いた所で、あることに気づくオリエ。
「あんまり身体が痛くないな。治癒魔法か?」
「うん。シャンソンがすぐに駆けつけてくれて、治してくれたよ。それでも完治してるわけじゃないから、無茶はするなって」
「そっか。シャンソンにお礼言っとかなきゃな。……あれ? そういや、試合はどこまで進んだんだ?」
「今は第12試合が始まったところかな。ソレイユが戦ってるよ」
「ソレイユ!? 応援行こうぜラパン」
「だめ。完治してないって言ったでしょ? 絶対安静だよ」
「えー。観客席に行くくらいいいだろ?」
「だーめ! 僕の気持ちも考えてよ。君にもしものことがあったら、僕だって辛いんだからね。僕のためだと思ってちゃんと休んでて」
「お前、それはずるいぞ……」
(お前のためだって言われたら反論できないだろーが)
「うん! 素直でよろしい! まぁでも、ちょっと待っててね……」
ラパンはそう言うと、自身の腕時計型のマジックアイテムを弄り始めた。
「……これでよし、と」
ブォン、と、腕時計からヴィジョンが浮かび上がる。
「これは……試合の映像か?」
「そう! さっき観客席に"目"を置いてきたんだ!」
"目"とは、現代で言うビデオカメラのようなものである。"目"で捉えた映像をこの腕時計型マジックアイテムに転送することができるのだ。
ヴィジョンには、ソレイユと、その対戦相手であるガテムレックスが映っていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
ソレイユは、心ここに在らずだった。
いや、彼女はいつだって心が現実にはないのだが、今日は特にその傾向が強かった。
「あぁーーーん♡」
色っぽい声を出しながら、吹っ飛んでいくソレイユ。
「うーん、無抵抗の相手を攻撃するのは忍びないのですが、一応御前試合ですからね……。国王の顔に泥を塗るわけにはいかないでしょう」
ガテムレックスはかなり手加減しながら、手に持ったメイスによる衝撃波で、ソレイユに攻撃を加えている。
「あぁ! 王子様の愛を! 私は一身に受けている! 独り占めしているの! 有象無象の目の前で王子様を独占できるだなんて! 私はなんて幸福なの!? きゃっ♡」
そう言って、彼女は再び吹っ飛んでいく。
「ちょ! せめて受け身くらいとってくださいソレイユ様! いくら手加減してても打ち所が悪かったら、最悪死んでしまいますよ!?」
「イケメンになら殺されても本望です! むしろガテムレックス様に殺されるということは、私がガテムレックス様の唯一の女になるということ! 最高です!!」
「は、はぁ……」
ソレイユが何を言っているのか分からないガテムレックスは、半ば呆れ顔で返事をした。
「折角ですから、全力で来てくださいよ! ガテムレックス様!」
「えぇー……!? 全力ですか……?」
「はい! 一生の思い出にしたいので! ぜひ! ぜひ!!」
「はぁ……。まぁちょっとだけなら……」
ガテムレックスはあまり乗り気ではなかったが、それで相手が満足するならと、少しだけ力を見せることにする。
「ギフト"鋼の肉体"」
「ギフト! ガテムレックス様も選ばれし者なのですね! 運命感じちゃいますー!!」
目をハートにしてキャーキャー騒いでいるソレイユ。
だが、その表情はだんだんと暗いものに変わっていく。
ギフトを使ったガテムレックスの肉体が徐々に膨張しているからだ。
正確に言えば、身体がふた回り以上大きくなり、筋肉量が爆発的に増えていく。
「ふんっ!!」
ついに、身に纏っていた鎧が弾け飛んだ。
「いやぁ。久しぶりですね、この力を使うのも」
そう言いながら、ガテムレックスは身体中に力を込め、様々なポーズを繰り出している。
「むんっ! むんっ! んん!! やはり筋肉!! 私の上腕二頭筋は! 大胸筋は! 広背筋は! 世界一です!! むんっ!!!」
会場からは割れんばかりの歓声が飛び交う。
「よぉ!! 今日もキレてるよ!!」「ナイスバルク!!」「圧倒的デカさ!!」「胸にも尻があるんかい!!」
「ふはははは!! 私の筋肉いかがですかな!? ソレイユ嬢!!」
身体がでかくなったガテムレックスは、態度まででかくなっている。
「………………く……」
「ん? なんですかな? 聞こえませんぞ?」
「ガチムチは悪! 死ねぇぇぇぇぇぇええ!!!」
ソレイユはガテムレックスに向かって火炎を放射した。
「のわあぁぁぁぁあ!?」
ガテムレックスは、火炎をまともに食らう。
「はぁはぁはぁ……。なんなんですかあなたは! 王子の皮を被った悪魔ですかあなたは!!」
「悪魔とは酷い言われよう。私ちょっぴり傷つきました」
火炎を受けたはずのガテムレックスは無傷で立っていた。
「な…………なんで…………」
「私のギフト"鋼の肉体"は、筋肉の力を限界まで高めるもの。岩を超えて鋼と化した我が肉体に傷を付けられるものなどそうはおりません」
「そうですか……。ならば私の成長した力、お見せ致しましょう!!」
ソレイユは、再び火炎を叩き込む。
ガテムレックスは、左腕でガードする。
「む……これは……」
ガテムレックスの左腕が、わずかに火傷を受けている。
「ふむ。なかなか高火力ですな。ソレイユ嬢」
焦る様子1つなく、ガテムレックスはソレイユを讃える。
「ですが、この程度では私は倒せませんよ」
ガテムレックスはメイスを握り、ソレイユに向かって振り下ろした。
「はぁ!!」
ソレイユは炎で迎え撃つが、ガテムレックスのメイスはそれを易々と貫通する。
「もらいました!」
炎を貫通したメイスがソレイユを叩く。
だが、ガテムレックスは手応えを感じない。
「おや?」
攻撃を受けたソレイユが霧散し、消えていく。
「陽炎ですか。間一髪避けたようですね」
「……貴方がマジックアイテムを使うのであれば、私も使わせていただきましょう」
ガテムレックスが声のする方向を見ると、ソレイユがロングスカートをめくりあげている。
「ソレイユ嬢。色仕掛けは私には通用しませんよ?」
「……は? 誰が貴方相手に色仕掛けなどするものですか」
ソレイユはそう言いながら、左右両方の太ももに装着したホルダーから黒く光るそれを抜き出す。
手にしたそれを、くるくると回しながら胸の位置まで持っていき、構える。
「ほう。珍しいマジックアイテムを使いますね」
「ええ。ずっと探し続けて、王都のショップでようやく見つけました」
ソレイユが構えるは二丁の拳銃。
だが、弾丸は込められていない。
発射するのは……、
「"英雄の掃討"!」
(炎の弾丸……!?)
両腕をクロスし、ガードするガテムレックス。
炎の弾丸を受けた両腕からは、煙がシューシューと立ち昇っている。
ソレイユはそのままガテムレックスの懐に入る。
(速い!)
ガテムレックスはメイスを振り下ろすが、ソレイユはそれをひらりと躱す。そして、撃ち込む。
攻撃を食らいながらも、ガテムレックスはメイスを振り回す。ソレイユはメイスの嵐を掻い潜り、炎の弾丸を撃ち込んでいく。
ガン=カタ。二丁拳銃を用いた近接格闘術。
幼い頃、その存在を知ったソレイユは、その格好良さに心を奪われ、ずっとそれを習得することを夢見ていた。
王都でそのマジックアイテムを手に入れた彼女は、これまでのイメージトレーニングと類い稀なる妄想力から、2ヶ月という超短期間でこれをものにする。
二丁拳銃、そしてガン=カタは、ソレイユに更なるスピードの向上と、炎の貫通性能向上という恩恵を与えたのだった。
「うーむ。これは少しまずいですね……」
ソレイユのスピードについていけないと判断したガテムレックスは、メイスを手放し、素手による戦闘に移行する。
(これならばいけそうです……!)
ソレイユのスピードに対応できるようになったガテムレックスは、相手の攻撃を食らいつつ、一撃必殺のチャンスを伺う。
一撃食らえば大ダメージ必至のソレイユは相手の攻撃をひたすら躱しつつ、的確に弾丸を撃ち込んでいく。
対照的な攻めをする2人の勝負は、観客からは互角に見えている。
(これ以上は……体力的に厳しい……。それに、いつまで撃ち続けてればいいの……?)
だが実際は、運動量が多い上に、先の見えない戦いを強いられているソレイユの方が、肉体的にも精神的にも追い詰められていた。
「ふふ! 一撃でも当たれば私の勝ちですよ! ソレイユ嬢!」
「そうですか……。だったら!」
ソレイユはガテムレックスから離れ、後方に下がり、距離を取る。
「……こちらも一撃勝負といきましょう」
「なにを……?」
ソレイユは二丁の拳銃を胸の前で重ね合わせた。
「合体」
ソレイユが呟いた途端、黒く光る二丁の拳銃がガシャンガシャンと組み合わさり、形を変えていく。
「変形……合体……?」
「そう。変形合体です。ロマンというやつです」
言い終わる頃には、その変形合体していたものは、動きを止めた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「……スナイパーライフルじゃねーか」
医務室で試合を観戦していたオリエがボソッと突っ込んだ。
「質量的におかしくない? 拳銃2つからあのサイズになる?」
同じく試合観戦していたラパンも突っ込んだ。
「あの女、マジでなんでもありだな」
観客席で試合観戦していたマルティまでもが突っ込んだ。
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ソレイユはスナイパーライフルを構え、スコープを覗く。
「相手の正面から狙撃ですか。面白いですね」
「貴方は避けないでしょう? どこから撃とうが同じことです」
「それは確かに」
ガテムレックスは、再びメイスを握り、振りかぶる。
「一撃勝負、ですね。迎え撃ちましょう」
両者は向かい合い、意識を集中する。
数秒の沈黙の後、先に動いたのはガテムレックス。
振りかぶったメイスを力の限り振り下ろす。
振り下ろされる瞬間に、ソレイユは引き金を引いた。
「ただの一撃!!」
「英雄の熱線!!」
メイスから発生した衝撃波でソレイユの身体が吹っ飛んだ。今度はちゃんと受け身を取ろうとするも、勢いがありすぎて、取ることができない。
身体を地面に強く打ち付け、ソレイユは気を失った。
「勝者! ガテムレックス・マクシミリアン!!!」
レフェリーが勝者の名を叫ぶ。
名を呼ばれたガチムチの勝者は、ただ真っ直ぐに、倒れたソレイユを見つめていた。
「私じゃなかったら死んでましたね、これは」
そう言った彼の左肩には風穴が空いている。
普通に立っているのが不思議なほどに、綺麗に空いた風穴が。
鋼の男は、久方ぶりの"痛み"に驚き、相手に最大級の賛辞を送る。
「貴女と戦えてよかった。ソレイユ・クーシャン。この鋼の肉体を溶かす貴女の弾丸は、まさに燃え盛る太陽の如し。素晴らしい時間を過ごすことができました。この出会いに感謝を」
そう言うと、ガテムレックスはソレイユを抱え、しっかりとした足取りで医務室に向かったのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
良かったよーという方はブクマ・評価いただけますとめっちゃ嬉しいです。
ソレイユvsガテムレックス。ガン=カタとガチムチはどっちも書きたかった内容なので書いていて楽しかったです。
次回はラパン!明日(5/25)21時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。




