第3章 第8節『男の娘と御前試合』
オリエ達が魔法学園に編入してから1ヶ月半が経過した。
アヴニール王国、玉座の間。
「国王様。2週間後の御前試合の参加者が決定いたしました」
国王に報告を行なっているのは、眉目秀麗の騎士、ガテムレックスである。
「うむ。……ほう、今年は貴様も参加するのか」
参加者のリストを見て、ガテムレックスの名に気付いた国王が尋ねる。
「ええ。今回はオリエ様やラパンテッド様も参加されるのでしょう? ぜひ手合わせをしてみたかったもので」
「う、うむ……。そうだったな……。まぁ、奴らも強い相手と戦わなければ意味がない。思う存分ぼこぼこにしてやるがよいわ」
「まぁ、それなりにやりますよ。中々無い機会ですからね」
報告を終えたガテムレックスは玉座の間を後にした。
「はぁ……」
大きくため息をつく国王。
(シャンソンめ。歴史ある御前試合に第3身分なぞを参加させるとは……)
国王は、先日のシャンソンとのやり取りを思い出す。
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「国王。ハジメ達4人を今年の御前試合に参加させたいと思っています」
「な……。シャンソン、貴様……。あやつらは第3身分だぞ。高貴なる御前試合に参加させるなど……」
シャンソンは国王の言葉を意に介さず話を続ける。
「彼らは順調に成長しています。特にラパンテッド様は、元から魔法を学んでいただけあって、ギフト開封後の今、かなり伸びてきています」
「な、ならこのまま講義を受けさせ続けるだけで良いではないか。彼らの成長を見たいなら、模擬戦でもさせれば……」
「命の危機に瀕していること。ギフトを開封させるための条件の1つです。これは、ギフトの成長にも繋がるのではないかと私は考えています。命のやり取りをするのであれば、模擬戦では生温い。我が国の御前試合は戦本番さながらの戦闘が売りですから、相応しい場であると感じた次第です」
「し、しかし……」
「マルティコラス以外の3人はギフトを開封していますが、まだ、その能力は発展途上です。それに、同じマナを使う行為である以上、魔法の上達も見込めるでしょう。これについては、我の経験上、間違いないことかと思われます」
「ま、まて。そんなに成長を急がずとも……」
「本当にそのようにお考えですか、国王? 最高神の興味が他に移らぬうちに彼らを鍛えなければならないのでは?」
国王は、信頼できる数人に対して、神の国とのやり取りの内容を伝えていた。
ガテムレックス含む騎士隊長の一部や、シャンソン等、国の重要な催事に関わる人間のみにである。
「くっ……たしかに……それはその通りだ……。仕方ない。貴様の好きなようにせよ」
(くそ!! なんたる侮辱だ!!)
ただでさえ第3身分にまで降格させた、王家の恥である出来損ないの息子を御前試合に参加させるなど、本来であれば提言した時点で、その者を極刑に処しているところだ。
しかし、今回は事態が事態である。国王にとっては、プライドよりも自らの命の方が重かった。
それに、国王はシャンソンに刑を執行することはできない。処刑人である彼を誰が処刑するというのか。
また、彼がいなくなれば、この国で処刑を行えるほど精神的にタフなものがいないことは、国王にも充分分かっていた。
「では、そのように」
深々とお辞儀をした黒衣の処刑人は、静かな足取りで玉座の間を後にしたのだった。
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クレモワール家、バルコニー。
令嬢であるアリスが、優雅に紅茶を嗜んでいる。
「アリス様。御前試合の件ですが」
紅茶のお代わりを注ぎながら、従者のシャルロが声をかけた。
「あぁ。野蛮人どもに制裁を与える件ですわね」
約1ヶ月半前、オリエとラパンに不快な思いをさせられたことに腹を立てたアリスに、シャルロはある提案をした。
その提案とは、オリエもしくはラパンを御前試合で完膚なきにまで叩きのめした後に、ラパンの過去を王都中の人間に暴露するというものだった。
ラパンがいったいどんな理由で王都に戻ってきたのかは知らないが、貴族や役人だけでなく、王都に住む人民すべてにまで同性愛であることが知れ渡れば、もう王都に彼らの居場所は無くなるだろう、という算段である。
それほどまでに、シャルロにとって、ラパンから向けられたかつての愛情は不快極まりないものだったのだ。
「ええ。まさかまさか、彼ら、自分達からエントリーしてくれました」
「あら、そうなの? 余計な手を煩わせないで済んだじゃないですの」
「本当に。元は後ろから手を回して無理やり参加させるつもりでしたが……。これは好都合でした。対戦相手だけは開催委員にお願いして弄っておきましたが」
貴族社会で生きてきたシャルロはとにかく根回しが上手かった。
アリスは、この男を敵に回したラパンを哀れに思う。
「男同士の恋愛なんてどうしてそんなに良いと思うのでしょうね?」
「常識外の人間の思考は理解に苦しみますね。彼に告白された身としましては」
「……ふふっ。ふふふ……ごめんなさいね……ふふっ……想像したら気持ち悪くて笑いが……笑いが止まりません……」
「アリス様。笑い事ではありませんよ」
(彼がまともな人間であったならば私は今頃、第1王子付きの従者であったというのに……)
当時、身分的にこれ以上ない役職に就いていたシャルロにとって、その人生は文字通り順風満帆に進んでいた。
しかし、ラパンからの告白は、それを台無しにしてでも告げ口をせずにはいられなかった。
第1王子の従者という役職を捨てざるを得ない。そのことは、その時実際に考慮したし、告げ口を躊躇ったことも事実だ。
だが、彼は自身の生理的嫌悪感から、行動に移したのだった。
それはそうだろう。王国において、同性愛は重罪。凶悪な犯罪者を毎日世話して、少しでも気分が悪くならないものなどいるのだろうか。
それに、自身が罪に巻き込まれる可能性もある。厄介なことになる前に自分から動いた方が良い。そのような理由による判断でもあった。
(行動に後悔はしていない……していないが……ラパンテッド、奴さえ欠陥品でなければと、憎悪の炎は今でも消えることはない……)
「シャルロ?」
眉間にしわを寄せている従者にアリスが声をかける。
「は……! すみません。私としたことが。半月後の御前試合、素晴らしい公開処刑をお見せ致しましょう」
「ふふ。期待していますわ? 私のシャルロよ」
シャルロは魔法学園在籍時、上級クラスで10本の指に入っていたエリート中のエリート。
きっと楽しいショーが観られると、アリスは期待に胸を弾ませる。
シャルロからすれば、正直、アリスが受けた不快感などどうでも良いことだった。
追放されたはずの、自身の憎悪の対象であるラパンが、再び目の前に現れた。
奴は今や第3身分、王家の人間でもない。当時と違い、自らの手で奴に報復することができる。
殺す殺す殺す。
社会的にも、精神的にも、肉体的にも。抹殺し尽くす。
シャルロは、アリスに丁寧な言葉で応対しながらも、心の内に邪悪な願望を抱えていたーー。
※※※※※※※※※※※※※※※※
ヒュアキントス魔法学園。ロビー。
掲示板に、御前試合の対戦表が掲げられている。
御前試合は1人1試合。
あくまで、国のお偉い方が観戦して楽しむ、という名目のため、1人の勝者を決めるトーナメント方式などではない。
オリエ達は、対戦表から自身の名前を探していた。
「あ、私の名前ありました! 相手は……ガテムレックス様ぁ!? そんなぁ……」
自分好みのイケメンと戦うことになり、分かりやすくテンションが下がるソレイユ。
「い、いや! イケメンから攻撃してもらえるなんてある意味ご褒美では!? 前向きに考えましょう! 私!」
ふんす! と周りからはよく分からないテンションの上げ方をしているソレイユを尻目に、他の3人も名前を探す。
「僕の相手は……シャルロ……シュルマイスター……」
対戦表を見て、一瞬、表情が暗くなるラパン。
「ラパン……」
オリエは、ラパンを心配そうに覗き込む。
「……なんてね! 大丈夫だよ! 僕は僕の力で何とかする。だから僕のことちゃんと見ててよね、オリエくん?」
「……あぁ。お前なら勝てる。全力で見届けるさ」
「うん……ありがとう。……あ! オリエくんの名前もあったよ!」
「お! えーと、対戦相手は……」
「げ」
隣から嫌そうな声が聞こえる。
「うぇ」
ほぼ同時に、オリエも声を発した。
「「お前かよ!?」」
声の主はマルティ。
まさかの展開に、2人は顔を見合わせる。
「なんでここまで来てテメェとなんだよ!」
「俺が知るかそんなもん!」
参加者数36名、18試合。
その中で同試合になるとは、そこそこ低い確率である。
「あれ? しかも第1試合だよ2人とも」
「「な!?」」
自分の名前を探すのに精一杯で、書かれている場所まで注意していなかった2人は同時に驚く。
「……ま、やるからには少しは楽しませろよ、オリエ」
「わーってるよ。以前みたいにはいかねぇ」
魔法実技は基礎を終え、現在は個人レッスンに入っていた。
2人は互いの手の内を知らない。
(マルティも強くなってるかもしれないが、もともと大して強くなかった俺の方が伸び代はでかかった筈だ。今の俺の力、見せてやる……!)
かつて、マルティの強さに全く歯が立たなかったオリエは、今再び、神に挑もうとしていたーー。
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次回から御前試合開始!3部分にわたり、バトル、バトル、バトルです!!
明日(5/23)16時頃の更新予定です。成長した4人の姿を見届けていただけたら幸いです。




