第3章 第6節『男の娘と一触即発』
球体は回転し、オリエの手から浮き上がる。
「これは……?」
刹那、突風が巻き起こり、オリエの身体は宙高くに吹き飛んでいた。
「は?? うおぉぉぉぉぉお!!」
叫びも虚しく、落下していくオリエ。
「ったく、しゃあねぇなぁ」
マルティは高くジャンプし、オリエをがっしり捕まえると、そのまま地面に着地した。
「ぜぇ……はぁ……し、死ぬかと思った……」
「ハジメの適性は風、だな。……よし、これで全員の適性がわかった。これより、本格的な魔法の練習に入る」
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(今日はバブルヤックの唐揚げ定食かなぁ)
4コマ目が終わり、オリエは昼食をとりに学園の食堂に来ていた。
受け取り口から定食を受け取り、席に着いたオリエ。
視界の端に、可愛らしいふわふわの金髪が映った。
「オリエくーーん!!」
「ラパン!!」
「わぁ! 会いたかったよぉ!! 元気だった!?」
「元気元気! 魔法もちょっとだけ使えるようになったぜ!」
クラスは違えど、同じ宿に寝泊まりしている2人は、朝まで一緒だった。
だが、これまで常に近くにいた2人は、わずか半日会わないだけでも、久しぶりに会ったような感覚を感じてしまう。
「もう使えるようになったの!? 僕なんて初めて魔法使えるようになるまで2ヶ月はかかったのに!!」
ガーン、という擬音付きで頭を抱えるラパン。
「いやいや、なんかギフト使えるやつは無意識のうちにマナを扱ってるから、やり方さえ分かればすぐに使えるようになるらしいぞ? シャンソンが言ってた」
「そっかぁ! 自分の才能の無さに悲しくなるところだったよぉ」
ラパンは安堵の表情を浮かべる。
ころころ変わる表情を見て、オリエは安らぎを覚えていた。
「オリエくんは属性なんだった? やったんでしょ? 適性テスト」
「俺は風だった。ラパンは光なんだろ?」
「そうだよぉ。オリエくんは風かぁ。空とか飛べるようになるかもね」
「そういうこともできんのか! ソレイユは炎で飛んでたもんなぁ。かっこいいよなぁ飛べたら」
「僕も今、光の翼で空飛べないか練習中なんだぁ。いつか一緒に空中散歩したいね」
(光の翼が生えたラパン!? もう本当に天使じゃないかそんなもん……!!)
「オリエくん? オリエくーん!?」
ラパンは自分の世界から帰ってこないオリエを揺さぶる。
「……はっ! すまんラパン! 妄想の世界に沈んでいた!」
「もーう。それじゃソレイユにとやかく言えないよぉ?」
全くもってその通りだと思ったオリエは、苦笑いを返した。
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「なぁ、ラパン?」
「どうしたのオリエくん?」
昼食を終えた2人は、制服を受け取りに購買に向かっていた。
唐突に編入することになったため、制服の準備が少し遅れていたからだ。
「俺さ、神に挑むとかでかいこと言っときながら、本当はかなり不安だったんだよ。だって神じゃん? 超常的な強さなんだろうなって。実際俺たち、マルティに手も足も出なかったしさ」
「それは……そうかもしれないね」
「けど、そのマルティもよくよく考えれば、あいつらの言うところの下界人であるシャンソンに負けてるわけで。この間のガルダってやつも、神の国トップ7に入ってるって割には、4人でかかれば倒せたしさ。まだまだ開きはあるとはいえ、意外といけるんじゃないかって思ったんだよ」
「あぁ。それ、僕も思ってたよぉ。それに、神って言っても、本人の力による不老不死じゃないし、ストックさえなければこの国の人々と同じ人間なんだなってマルティ見て思った。あ、でも幻獣化があるかぁ」
「確かになぁ。あーけど、幻獣化は厄介だけど、その代わりギフト使えないらしいんだよ神って。マルティが言ってた」
「そうなの? じゃあ、やっぱりそこまで僕たちと神の間に力的な差はないかもしれないねぇ」
「だな。まぁ、長命だから、その分鍛錬積んでるだろうし、そういう意味では差はあるかもしれんが、絶望的な差ではなさそうだ」
2人が会話しながら歩いていると、建物の死角から黒髪の男が急に現れた。
会話に熱中していたラパンは、避けきれずにその男と衝突する。
「いてて……ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
ラパンは慌ててその男に謝罪をした。
「いえ、こちらこそ不注意で申し訳ありま……!!」
お互いの顔を見た途端、ラパンとその男は固まった。
「君は……シャルロ・シュルマイスター……」
「ラパンテッド……様……」
「あ、あの……シャルロくん、久しぶりだね……。今は何を?」
「ええ。お久しぶりですね。ラパンテッド様……いえ、今はラパンテッド、とお呼びした方がいいのでしょう。第3身分に降格されたのですからね」
口調は丁寧なくせに、相手を嘲笑うかのようなトゲのある台詞を吐いたシャルロ。オリエは生理的嫌悪感を感じ、内心ムッとした。
「今は、クレモワール家ご令嬢の従者をしております。本日もご令嬢のお迎えに参った次第」
「そっか……。元気そうで何よりだね」
「ええ。ご令嬢は大変頭脳明晰で、人格的にも非の打ち所がない素晴らしいお方ですので。いつだかのように不快な思いは感じずに済んでおります故」
「あぁ……それは何よりだ……」
ラパンは笑顔で受け答えをしている。
だが、オリエには分かった。わずかに震える肩。ラパンは涙をこらえている。
(この野郎は……まさか……)
目の前のシャルロという男に、いや、正確にはその髪色と発言に、オリエは思い当たりがあった。
「あ、シャルロ! こんなところにいた!」
シャルロを見つけた10代後半程の縦ロールの少女が、優雅な足取りでこちらに向かってくる。
「申し訳ございません、アリス様。この者たちに捕まっておりました故」
(さらっと俺たちのせいにすんじゃねーよ。性格悪いなこいつ)
「ふーん? ……あら?」
アリスは2人を見て、ラパンに目を止めた。
「……そう。あなた、またシャルロにちょっかい出そうとしてるんですの? 今のシャルロは私の従者ですから。第3身分風情が身の程をわきまえなさいな」
「え……あ……僕何も……」
ラパンは明らかに挙動不審だった。
身に覚えのないことで親から激怒されている子供のように。
「これ以上私たちを不快にさせるようであれば、お父様に頼んで即刻処刑させますからね? 近寄らないでくださいまし! この……穢らわしい悪魔めが!」
(ラパンに向かって穢らわしいだとこの女……!!)
頭に血が上ったオリエはラパンの前に立つ。
「あぁそうだな。俺たち第3身分は、貴族様の視界になんて金輪際入らねーよ。だからお前らも俺たちの視界に二度と入るな……!!」
オリエはアリスとシャルロを睨みつけると、ラパンの手を引き、早足でその場を立ち去った。
「な、なんですのあの無礼者は!! シャルロ!!」
「はい……。やはり野蛮人の仲間は野蛮人ということですね。次に会う機会がありましたら、礼儀というものを叩き込んで差し上げますよ」
「ええ! あんなやつらに平穏に生きる資格などありません! たっぷりと恐怖を味あわせてやるのですわ!!」
「仰せのままに。……して、早速1つ良い手が思い浮かびました」
「なんですの?」
「それはですね。今度開かれる……」
アリスは、シャルロの提案にその大きな瞳を輝かせ、意地悪そうに笑みを浮かべたーー。
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休み時間は基本一人で過ごしたい派のオリエですが、ラパンだけはやっぱり別なようです。
次回はなんだかピリピリムード?明日(5/21)21時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。




