第3章 第3節『鳥神、ガルダ』
「あら、時間通りに来たわね。さすがヒュドラ。どうやったかは知らないけど」
ここはリヨン郊外の荒野。街の入り口まで約2㎞のあたり。
前日にディオンを出発したオリエ達4人は、王都からの指示通りの座標に足を運んでいた。
彼らの目の前には、赤い翼が生えた、可憐な少女が立っている。
「久しぶりね、マルティコラス」
クールな口調で話しかける、赤銅色の髪の少女はガルダ。
霊峰モンテオール山頂の神の国最強の7人、"7つの希望"の1人である。
「そんなに久しぶりでもねーだろ。何しにきやがった。俺の回収か?」
マルティは先頭に立ち、ガルダに言葉を返した。
「分かってるじゃない。……まぁ、どうせ貴女のことだから素直に従う気は無いんでしょうけど」
「はっ! ったりめーだそんなもん! 素直に従ったところで罰はあるんだろーしな」
マルティは、後ろを向きオリエを見た。
「おいオリエ。ここは俺にやらせろ」
2人の会話からおおよその状況をつかんだオリエは、肯定の意味で頷きを返す。
「っしゃあ! 良い機会だ! てめぇと俺、最速はどっちか……勝負といこうじゃねぇか!!」
言うが早いか、フルスロットルでガルダに突っ込むマルティ。
ガルダは小さく溜息をつくと、僅かな動作でその攻撃を避け、手刀を放つ。
マルティはその手を間一髪で払いのけ、距離を取る。
「ちっ! やっぱはえーなぁ! お前はよぉ!」
「この姿同士では五分五分ってとこかしら。けど私は貴女の遊びに付き合ってる暇はないの。さっさと決めさせてもらうわ」
そう言ったガルダの身体は光に包まれ膨張していく。
光が晴れると、現れたのは赤銅色の鳥人だった。
翼は巨大化し、手足には鉤爪が鋭く光っている。
インドの神、ヴィシュヌ神の乗り物として知られる不死の鳥獣、ガルーダである。
「てめぇ、少しくらい楽しもうっていう気はねぇみたいだな!」
マルティは身体中に力を込める。
「……神獣化!!」
黒い翼に蠍の尾を持つ巨大な怪物、マンティコアに変化したマルティは、ガルダに大量の羽根を矢のように放つ。
それを危なげなく躱したガルダは、空中からマルティの背中にドロップキックをお見舞いした。
「ぐっ……がぁ……!!」
マルティは衝撃で肺の酸素が口から激しく漏れ出し、地面に倒れこむ。
その後は一方的な展開が続いた。
言葉通り神速級の速さのガルダに嬲られるマルティ。
幻獣化が解け、血だらけでオリエ達の前に弾き飛ばされる。
「……はぁ……はぁ…………く……そ…………」
「マルティ!」
見かねたオリエは飛び出し、倒れているマルティを抱き寄せた。
「啖呵切っといてこのざまとは情けねぇな……。わりぃ、後は何とかしてくれ……」
自らの勝利を悟り、幻獣化を解いたガルダが近づいてくる。
「人型なら良い勝負でしたけどね。幻獣化してしまえば、私の方が圧倒的に速い。寧ろ貴女は、幻獣化するとスピード落ちますよね? それなのに口を開けば速さ速さと馬鹿の一つ覚えみたいに……」
そう話すガルダの顔はだんだん怒りの色を強めていく。
「私、貴女のそういう頭悪いところ大嫌いなんですよ……。あぁ、ヒュドラも一体誰がこんな女と仲良いって……? ほんと、イライラが止まりません。向こうに連れ帰る前に手脚の2、3本、粉々にしときましょうかねぇ!!」
「……はっ……ガァガァうっせぇよ鳥女……」
精一杯の悪態をついたマルティの意識はここで途切れた。
「"君と僕だけの世界"!!」
「"英雄の灯火"!!」
ラパンとソレイユが前に出る。
ラパンは分身し、ソレイユは火球を前方に放った。
ガルダは再び神獣化すると、火球を躱し、ラパンの10人がかりの攻撃も全て躱した。
「「速い!!」」
ラパンとソレイユは攻撃の手を緩めずに仕掛けまくるが、全てを躱される。
(何か……何か手はないか……。考えろ……俺……!!)
オリエは打つ手がないか、必死に頭を回す。
("淡"を使ってもあの速さじゃどうにもならん……。"濃"はマルティにも効いてないんだから、こいつには効かないだろうし……)
ここでオリエは、ある事を思い出した。
(ちょっと待て……? ラパンと森の中でマルティに見つかったあん時……ラパンにも能力が及んでたよな……? 全員に"淡"使えば逃げられるか……? ……いや。それよりもあっちを試してみるべきか……?)
「ラパン! ちょっとこっち来い!」
「!? どしたのオリエくん!!」
オリエはマルティを抱き寄せている腕とは逆の腕でラパンを抱き寄せた。
「ちょ! オリエくんさすがに今は!」
「ちょっと考えがあるんだよ! ……"影"!!」
「あの男、何をする気だ……?」
ガルダがオリエに目線を向ける。
「"濃"!!」
「な……!!!」
ガルダの動きが鈍る。
(マルティコラスの"ラヴィ"と戦った時の技か! だが、こんな出力はなかった筈……?)
「予想通りだ! "濃"も他人に効果を及ぼせる!」
"濃"による威圧感は、3人分、単純に普段の3倍になっていた。相手の動きが完全に止まっていない所を見ると、2人分でなく、ラパンも呼んで正解だったとオリエは思う。
「今だ!! ソレイユ!!」
「はい!! "英雄の灯火"!!」
ソレイユは最大火力の火球をガルダに叩き込む。
「う、ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
全身が炎に包まれ、悲鳴をあげるガルダ。
神獣化が解け、倒れこむ。
「そん……な……私が……下界人如きに……」
「とどめです!!」
ソレイユが再び火球を放つ。
「ここで……やられるわけには……」
命のストックは大量にある。
しかし、自らが蔑んでいる下界人にそれを使う決断をすることなど、プライドの高いガルダにはどうしてもできなかった。
「……転移!!」
マジックアイテムを使用し、ガルダはその場から消失した。
※※※※※※※※※※※※※※※※
瀕死のマルティを治療しようと、急いでリヨンの街に向かおうとしたその時、オリエ達は後ろから声をかけられる。
「一昨日ぶりですね。ラパンテッド様、オリエ様」
そこには、桃色の髪の騎士隊長、ガテムレックス・マクシミリアンが立っていた。
「ガ、ガテムレックス様!?」
ソレイユは目がハートになって、ブツブツとうわ言を呟いている。
「あんたがなんでここに……?」
「国王からのご命令で、あなた方を迎えに参りました」
「迎えってどこに行くんだ?」
「王都、でございます」
「王都!? 俺たち、そこの敷居を跨いじゃいけないことになってるんだけど?」
そう言うオリエの隣で、ラパンはうえぇ、という顔をしている。
ソレイユは、やはり白馬の王子が私を……と、自らの世界から戻ってこない。
「国王は、そのことについては撤回致しました。それ程までに、重要な案件があるようです」
「ラパンは、王都の人間に酷い目に遭わされてきてる。今更、王都になんて行けるかよ」
「それは……。大変虫の良い話で申し訳ないのですが……」
「いや、あんたに言ってるわけじゃ……」
『頼むオリエ君! いやオリエさん! 俺の命を救うと思ってさぁ! お願い!』
「……あ?」
ガテムレックスの腕時計型マジックアイテムから、通信者のヴィジョンが映し出される。
そこに映っていたのは、ラヴァルテッド国王だった。
「どういうことだよ」
もはや敬語すら使わないオリエ。
『来てもらえれば話すから! とりあえず来て! ね!? お願いだからぁ!!』
オリエは、半泣き状態の国王を見て、なんだか逆に生で見たくなってきた。
「どうするよラパン」
「えぇ……。行きたくないけど……うーん……」
「行きましょう! 王都行きましょう! 私欲しいものがあるんです!!」
ソレイユが2人をがっしり掴み、ガテムレックスの方にグイグイと押してくる。
オリエとラパンは顔を見合わせた。
「……まぁ、シャンソンにも会いたいしな。マルティの治療もあいつなら一瞬だろ」
「不本意だけど行こうかぁ……」
嫌々ながら覚悟を決めた2人とノリノリのソレイユ、満身創痍のマルティは、ガテムレックスと共に、転移のマジックアイテムを使用し、王都に向かったのだったーー。
ご覧いただきありがとうございます。
また、ブクマしていただいた方ありがとうございます!がっつりモチベ上がってます。
なんかマルティかませ犬感でてきたな…。
書いてるほうとしては活躍させてあげたいんですが…。ごめんマルティ。そのうちね。
そして次回から舞台は再びの王都!明日(5/14)21時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。




