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第3章 第1節『男の娘とデート』

 アヴニール王国。玉座の間。


 アヴニール王国の国王であるラヴァルテッド・ランカスターは、とある男と連絡を取っていた。


 腕時計のような道具から映し出されたヴィジョンに映るその男は、"7つの希望(セプトエスポワール)"のリーダー、ヒュドラである。


「国王。オリエハジメ他を早急にリヨンに移動させてください」


「は、はい! 承知致しました。……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「貴方が知る必要などあるのですか? ……まぁいいでしょう。最高神の命令だからです。これ以上は説明しなくても分かりますよね?」


「え……はは……。そうですか。最高神様のご命令ですか……へへ」


 国王はそんなことを言われてもさっぱり分からなかったのだが、相手の機嫌を損ねないよう、笑顔を張り付けて当たり障りのない答えを返す。


「あぁそれと、下界への侵攻の件でしたが……」


「はい! どうなされましたでしょうか!?」


 国王にとっては、ラパンやオリエなどよりもこちらの方がよほど大切な問題だった。

 神の一言に、国が、ひいては自らの命がかかっているからだ。


「延期になりました。再開のめどが立ちましたら再度連絡させていただきます」


「……は? ど、どういうことですか!?」


「……同じことを言わせないでいただきたい。延期ですよ。最高神の興味が他に移ったので延期です」


「はは……。そう、ですか……。いやぁ。平和なのはいいことですからな。へへ……」


 あまりにも予想外の一言だったため、どう答えていいか分からない国王。


「あと1つ。それに関連して貴方にお願いしたいことが」


「は、はい! なんでしょうか!?」


「それは……」


 国王は、余りにも予想外なその依頼内容を聞き、思わず目を見開いたーー。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 ディオン。午前10時。


 とある宿の一室から、可憐な声で鼻歌が聞こえてくる。

 聞いた者誰もが、あぁ機嫌がいいんだなと感じるだろう軽快な鼻歌。


「きょ~うは~オリエく~んとデ・ェ・ト~♪」


 ついに歌詞が入った鼻歌の主は、鏡の前でふわふわの金髪をセットしていた。


 この男、もとい男の娘の名前はラパンテッド・ランカスター。

 アヴニール王国の元第3王子である。


 髪をセットし終えたラパンは、お気に入りである大きめの黄色いカーディガンを羽織り、宿を出発した。


 待ち合わせ場所はギルドの入口。

 ラパンが到着すると、既に黒髪の青年が、壁に寄りかかって待機していた。


「ごめーん! 待たせちゃったかな?」


「いや、今来たところだ。集合時間10分前に来るとは偉いなラパン」


 そう言った青年はラパンの頭を撫でる。

 撫でている途中でハッとした顔をした青年は、何やら両手で髪の毛をいじりだした。


「すまんすまん。セットしてたんだな、髪の毛。ちゃんときれいに戻すからそのままじっとしててくれ」


 いつもとそんなに変わらないのだが、些細な変化でも気づいてくれる青年にラパンはつい、顔がにやける。


 青年の名は、オリエ・ハジメ。

 ラパンにとってかけがえのない人であり、また、最愛の人でもある。


 シャムルを出発して2週間。ディオンに戻ってきた一行。

 今は、王都からの命令が来るまでの休暇期間といったところだ。


「オリエくんも今日はカーディガンなんだね!」


 今日のオリエは緑色のカーディガンを着ていた。

 大きめのラパンのカーディガンと異なり、ジャストサイズを着たオリエは、スマートな印象だ。


「せっかくだから、前に一緒に買いに行った服着てこようと思ってな」


 以前、2人が出会ってまだ間もないころ、初めてのビーストハントを成功させたその日に、記念として報酬で買ったのが、今お互いが着ているカーディガンなのだった。


 当時は、まだ恋仲ではなかった2人だが、コンビなんだしお揃いにしようぜ、というオリエからの提案でこの服を選んだという経緯がある。


 とはいえ、同性愛に厳罰が課せられるこの国でペアルックなど危険極まりないということで、小一時間考えた末、極端にサイズ感が違うものを選んだのだった。


 2人の大切な思い出の1つである。


「今日はどこ行こうか?」


「今回も服買いに行こうぜ。俺たち、冒険用の服以外はこれ含めて2着しか持ってないしさ」


「さんせーい! それじゃあ早速行こっか」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 ディオン大通り。服飾品店。


「いらっしゃいませ!」


 2人が店に入ると、元気そうな眼鏡の女性店員が出迎えてくれた。


「あ! あれかわいいよ!」


 一目散にお目当ての商品に向かっていったラパンは、その商品をオリエに手渡した。


「ん? これサイズ的にでかくない? ……え、もしかして俺に着ろって?」


「そうだよ! オリエくん絶対似合うよこれ!」


 よく見ると、袖やら胸やらにフリルがついている白いシャツだ。しかもその胸元はかなり大きく開いている。


(いやこれ、口に薔薇加えて情熱的にダンスしてそうな服なんだけど……)


「いやぁ、俺よりラパンの方が似合うんじゃないかなぁこれは」


「え、そうかなぁ。着てみようかなぁ」


(あ、意外と乗り気だこいつ)


 試着室に入っていったラパン。

 数分後、試着室のカーテンが開いた。


「ど、どうかな……?」


「!!」


(こ、これは!! 胸元から覗く白い肌がなんてセクスィーなんだ! こんな男の娘と踊ったら、胸にしか目がいかなくて大変なことになるのは間違いない!!)


 セクシーだった。今夜は一緒に踊りたい。オリエはそう思った。


 オリエの反応に気を良くしたラパンは、素早く、気になる服を取ってくると、再び試着室に入った。暫しの後に開いた、そのカーテンの奥には、


「ど、どうだろう……?」


「!!!」


 黒い細身のスーツを身に纏ったラパンの姿があった。


(こ、これは!! 男が男の服を着ているはずなのに、なぜか感じる男装の麗人感!! 中身がどうなっているのか妄想が止まらない!!)


 スマート&キューティーだった。このラパンになら抱かれてもいいと思うくらいの美貌、これを脱がせたら間違いなくかわいい顔をして恥ずかしがるに違いないという謎の確信。まさにスマート&キューティーという言葉がふさわしいとオリエは思った。


 周りを確認し、人がいないことを確認したオリエは、ラパンに提案する。


「つ、次は女物着てみない……?」


「……!! 着る!!」


 好みの服を見繕ったオリエは素早くその服をラパンに手渡した。


 試着室のカーテンが開き、着替えたラパンが現れる。


「!!!!!」


 白いワンピース姿のラパン。肩にかかった紐は細く、スカートは膝丈ほどだ。


(こ、これは!! 清純なラパンの天使のような白い肌に清純さの代名詞である白ワンピースが組み合わさることで、清純さが臨界点を突破している……!!)


 オリエは感動のあまり、我を忘れて凝視している。


 ガタッ


「!!」


 後ろから聞こえた物音に反応し、オリエがその方向を見ると、店員がこちらに向かってきているのが見えた。


(ま、まずい!!)


 オリエはとっさにラパンの肩をつかむと、そのまま試着室の中に入り、カーテンを閉めた。

 男が女物の服を着ているところなんて見られたら、この国では極刑ものだ。


「オ、オリエくん……」


「す、すまん……」


 2人は小声で言葉を交わす。


 オリエが思った以上に試着室は狭く、2人は完全に密着している状態だった。

 オリエの視点からだと、ワンピースからラパンの胸元がちらちらと見えている。

 オリエは、ごくりと唾を飲み込んだ。


 オリエがふとラパンの顔を見ると、ラパンは、涙目で顔を真っ赤にしてオリエを見上げていた。


「ご、ごめんオリエくん……。けど、こんな近距離でオリエくんの匂いなんて嗅いだらこうなっちゃうよぉ」


(俺の身体から変な成分でも出てるんだろうか……)


 とりあえず体勢を変えようと、身体を動かすオリエ。


「ひゃうん!」


 と、ラパンが色っぽい声を上げた。

 どうやら変なところに当たってしまったらしい。

 ラパンの声は、店内に響き渡った。


「お客様?」


 店員の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえる。


(まずい!!)


「お客様。失礼しますね?」


 不審に思った店員は問答無用で試着室のカーテンを開く。


 すると、


「あれ? 確かに声が聞こえたと思ったんだけど……」


 そこに2人の姿はなかった。


(あっっっっぶねぇぇぇぇえ!!)


 正確に言えば、2人は()()()()()()

 ただ、店員の視界には映っていなかっただけだ。


 オリエはギリギリで"(クレー)"を使い、難を逃れたのだった。


 2人は、急いでワンピースを元の場所に戻すと、気づかれないように店を出た。


 結局、服は1着も購入せずに。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 その後、昼食を食べ、雑貨屋や魔法動物ショップを回った2人は、夕食は取らずに宿への道を急いでいた。


 午前中から刺激を受けてしまったラパンの"誰にも邪魔されない場所でオリエと2人になりたい欲"が我慢の限界に達していたからである。

 普通のカップルと違う2人は、安心できる場所でないと、キスすらもできない。

 オリエは、一緒に行動できればある程度は満足、というところもある。しかし、ラパンは過去ずっと自身の欲を抑制していた反動か、両想いの相手と周りを気にせずイチャイチャしたいという気持ちがかなり強かった。


「はぁはぁはぁはぁ……」


「大丈夫かよお前……」


「だ、大丈夫。もう目の前だから、我慢できるよ……」


 言葉とは裏腹に、その足取りはふらふらとしている。


 宿の目の前まで来て、あと数歩で中に入れるというところで……、


「あ! オリエ様にラパン君! お2人も今お帰りですか? 一緒にディナーにしましょう!」


 外出から帰ってきたソレイユに声をかけられた。


「おーす。肉食おうぜ肉」


 マルティも一緒である。


「オリエくぅん……」


 顔を真っ赤にして我慢しているラパンは、オリエに目で訴えかける。

 早く部屋に入ろう、と。


「あー、すまん2人とも。こいつちょっと調子悪いみたいでな。飯は部屋で取ることにするよ」


(ナイス言い訳! さすが俺!!)


「それは大変です! 私が看病しますから、ラパン君は早く部屋に!」


(あ)


 一度何かを決めたソレイユは決して折れることはない。

 それは、シャムル滞在中から今までで、いやというほど体験してきている。


「……うう…………」


 ラパンは静かに涙を流している。


「泣くほど体調が悪いんですか!? これは付きっ切りで看病しなければなりませんね!」


(すまん、ラパン)


「~~~〜!!」


 ラパンの声にならない絶叫が、ディオンの街に響き渡った。

ご覧いただきありがとうございます。


良かったよーという方はブクマ・評価いただけますとめっちゃ嬉しいです。


デート回でした。何気に2人が普通にデートしてるの初?

くっついてから割と経ってるはずだけど息つく暇なく動きっぱなしだったからね。仕方ないね。


次回はマルティ&ソレイユ回。明日(5/12)21時頃の更新予定です。よろしければご覧ください。

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