短編集①
俺は片田舎に住むごく普通の青年だった。
だが、いきなり村にお偉いさんがやってきて、勇者の生まれ変わりだーとかあれこれ言ってきて
勇者をすることになった。本当はそんな面倒なことやりたくはなかったが、従わなければ洗脳してでも言うことをきかすと脅され、しぶしぶ了承せざるを得なかった。
最初はモンスターと戦ったことがなかったため、毎日死にそうな思いでクエストを受けてたがレベルが上がるにつれて余裕で倒せるようになり、今では王国一の実力をもつことができた。信頼できる仲間もできて遂に魔王討伐に向かう旅が始まる…予定だったんだ。俺は何もかもが上手く行き過ぎて調子にのっていたのだろう。あの日を境に俺は狂っていった。
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あの日は勇者の仲間たちで明日の旅を祈願する祝い事が行われていた。その祝いの席で、俺は普段は飲まない酒を勧められ酔っぱらって早いうちに寝てしまった。その夜、うなされるように目が覚めたら俺は別の人間になっていた。そして目の前に俺の姿をした何かが嘲笑うように立っていた。
「なぁ…お前、弱すぎだろ。ホントに勇者なのかよ…いや、勇者だったが正しいか」
その瞬間、俺は体を奪われたことに気づいた。
「お前は…何者だッ!!」
「俺のことはよーく知ってるだろ。勇者だよ」
「ふざけるなァァァッ!!」
頭が沸騰しそうなほど激怒し、全力の攻撃を繰り出した。
だが、倒れていたのは俺のほうだった。
「な…何が起きた…んだ…」
「お前バカか。ただの一般人が勇者の技を使おうとすれば体がもつわけねーだろ」
薄れていく意識の中で俺は後悔した。魔王はしょせん勇者に倒されるだけだと、誰にも俺に勝てるものはいないと。負けたことがないからといって勝てる根拠にはならないのに......
翌朝、診療所のベッドで目が覚めた俺は飛び出すように昨夜の酒場に向かった。
その道中、広場で何やら人だかりができていた。それを目撃したとたん、鼓動が激しくなり震えが止まらない。
(頼む…!外れていてくれッ…!)
人込みをかき分け、中心にたどり着いたとき最悪の結果がまっていた。
「うわああぁぁぁァァァッーーー!!!」
そこには、勇者の仲間の惨たらしい死体が転がっていた。
俺は全てを失った。